『事故物件 恐い間取り』

丸の内ピカデリーが入っている有楽町マリオン、1階エレベーターの上に掲げられた『事故物件 恐い間取り』のヴィジュアル。
丸の内ピカデリーが入っている有楽町マリオン、1階エレベーターの上に掲げられた『事故物件 恐い間取り』のヴィジュアル。

原作:松原タニシ(二見書房・刊) / 監督:中田秀夫 / 脚本:ブラジリィー・アン・山田 / 製作:大角正、藤島ジュリーK、有馬一昭、関根康、田中祐介、堀内誠人、井田寛 / プロデューサー:秋田周平 / 撮影監督:花村也寸志 / 照明:志村昭裕 / 美術:瀬下幸治 / 編集:青野直子 / 衣装:加藤哲也 / ヘアメイク:外丸愛 / 録音:秋元大輔 / 整音:室薗剛 / VFXスーパーヴァイザー:浅野秀二 / 特殊造形:松井祐一 / 音響効果:大河原将 / キャスティング:神林理央子 / 音楽:fox capture plan / 出演:亀梨和也、奈緒、瀬戸康史、江口のりこ、木下ほうか、MEGUMI、真魚、瀧川英次、宇野祥平、高田純次、小手伸也、よゐこ(有野晋哉&濱口優)、加藤諒、坂口涼太郎、中田クルミ、団長安田、クロちゃん、バービー / 企画&配給:松竹
2020年日本作品 / 上映時間:1時間51分
2020年8月28日日本公開
公式サイト : https://movies.shochiku.co.jp/jikobukken-movie/
丸の内ピカデリーにて初見(2020/09/01)


[粗筋]
 相方の中井大佐(瀬戸康史)が芸人を辞める、と言われて、山野ヤマメ(亀梨和也)は愕然とする。ふたりで始めたコンビ・ジョナサンズは既に10年目だがなかなか芽が出ず、中井は付き合いのあるプロデューサー・松尾(木下ほうか)に誘われ、放送作家への転身を決断したのだという。中井はヤマメにピンで活動するよう勧めるが、ネタ出しも出来なかったヤマメにはこれからの展望が一切思い浮かばず、途方に暮れる。
 そんなヤマメに舞い込んだのが、“事故物件に暮らして、怪異現象を撮影する”という企画だった。中井の旧知の芸人が事故物件で生活した結果、心を病んで故郷に帰った、という経験をしており、それを聞いた松尾がヤマメに起死回生のチャンスとして提案したのである。
 問題の部屋は手配できなかったが、松尾は別の事故物件を押さえてヤマメを促した。乗り気ではなかったものの、ピン芸人としての具体的なプランを持ち合わせなかったヤマメは渋々、その物件へと引っ越す。
 そこはかつて女性が殺害され、事件がきっかけで違法建築も発覚した、というまさしく曰く付きの部屋だった。ヤマメが生活を記録し始めると、さっそく奇妙な現象が記録される。番組内で放映し話題を攫ったことに気を良くした松尾は更なる映像を求めるが、いざ生活を始めると、ちょっとした怪異は起きても、具体的な現象はなかなか撮影できなかった。
 ある日、ヤマメは中井と、かつてジョナサンズのファンで、現在はメイクのアシスタントとしてテレビ局で働く小坂梓(奈緒)を自宅に招く。だが、梓は部屋の前で異様な態度を見せると、部屋に上がることなく引き返していった。そして、彼女の訪問が契機となったかのように、ヤマメを“事故物件”の恐怖が襲う――


[感想]
“事故物件”とは、直前の住人がそこで自殺する、何者かに殺される、など何らかの事件・事故があった不動産を呼ぶ。たとえば畳に血が染みこむ、壁などに損傷が生じるなどして、構造的に影響が生じている場合もあるが、表面的に何の問題もなくても、過去にそうした事件がある、ということによる“心理的瑕疵”も考慮して、こうした事故物件には通知義務が生じ、それが近い条件の不動産と比べて低い賃料で取引される理由になる。決して、幽霊が出るから安くなる、というわけではない
 しかし一方で、そうした部屋に暮らしたことで奇妙な体験をした、という話も絶えない。だからこそ現実に、「実際に事故物件に暮らしてみたら、怪異に遭遇できるのか?」という企画が実施され、その“被験者”となった芸人・松原タニシの体験談としてまとめられ、本篇の原作となったわけだ。
 ただ、考えて貰えれば解るはずだが、これをそのまま映画化するのは得策とは言いがたい。この原作者による体験は、決してひと繋がりの怪奇現象を記録したものではない。それぞれの部屋に異なる来歴があって、起こる現象も当然、また別々だ。強烈な“霊障”によって命を危うくしたわけでもなければ、何らかの事件を契機に事故物件暮らしを辞めたわけでもなく、これを書いている現時点も元気で事故物件に生活している。これをそのまま映画化しても、少なくとも観る者の多くを恐怖に陥れるホラーにはなかなかしづらい。
 その点、本篇はいい匙加減で割り切った作り方をしている。芸人が番組の企画をきっかけに事故物件に暮らしはじめる、という大枠や、これは私が原作に接していないため推測ではあるが、一部の怪奇現象を踏襲する程度で、ほぼフィクションとして再構築することを選択した。そうすることで、それぞれ別個に存在する“事故物件”と怪奇現象に、長篇映画らしい芯を通すことをうまく正当化している。脚色の方向性としては正しい。
 惜しむらくは、そうしたことで結果的に“フィクション”を強く印象づけてしまい、全体を貫く趣向ばかりでなく、他の怪奇現象まで含めて陳腐にしてしまった点だ。もし恐怖に照準を絞るのなら、全体を貫く趣向によらず、それでも事故物件に会えて住み続ける主人公の異様な感覚を際立たせるべきだったように思う。
 しかし、そういう方向性を選択しなかったのも理解は出来る。いささかオカルトに偏りすぎた感はあれど、原作者はあくまで芸人であり、そのために事故物件に住み始めた、という大前提がある。業界で生きていく難しさ、理不尽さを反映したこの事実を、そのまんま“恐怖”の一部に織り込むのは、いまでも“芸人”と称している原作者にももちろん、方向性は異なれど同じように生き残ってきた“芸人”にも失礼と言える。
 故に、事故物件に住み始めた過程をはじめ、随所にユーモアを鏤めるのは、恐怖を盛り上げるための技術である“緩和”と捉えなくても必然的な流れだった、と言える。実際、自身が暮らしてきた事故物件について語るときの原作者は随所に笑いも鏤めており、そうした原作者や一連の事実に敬意を払ったからこそ、こういう描写になった、と捉えたい。
 結果として、多数ホラー映画に接しているようなマニアには恐怖の上でも独自性においても物足りない仕上がりとなってしまったが、《事故物件に住み続けている芸人》の体験談を、エンタテインメントとして映画化する、という意味では誠実な作りだと思う。また、過剰に恐怖を煽らない一方で、不慣れなひとには「家に帰るのが怖い」と言わせるくらいの説得力はあるので、ホラーとしてもきちんと成り立っている。
 それにしても本篇、ある意味でいちばん面白いのは、江口のりこが演じる不動産会社の社員である。亀梨和也演じる主人公・山野ヤマメが新たな事故物件を求めて訪れた不動産会社で彼を担当することになるのだが、立場が明らかに事故物件専門らしく描かれていたり、喜々としてヤバそうな物件を勧めてくるかと思えば、終盤では思わぬ活躍を見せたり、と出番のわりにメインのキャストよりも目立っている……それだけに、ある点で非常に惜しくもあるのだが。


関連作品:
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