『ドラゴンロード』

ドラゴンロード デジタル・リマスター版 [DVD]

原題:“龍少爺” / 英題:“The Dragon Lord” / 監督:ジャッキー・チェン / 脚本:ジャッキー・チェンバリー・ウォン / 製作:レイモンド・チョウ / 撮影監督:チェン・チン・チュウ / 音楽:フィリップ・チャン / 出演:ジャッキー・チェンチャーリー・チャンシドニー・チャン、ウォン・インシク、ティエン・ファン、マース / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan

1982年香港作品 / 上映時間:1時間35分 / 日本語字幕:宍戸正

1982年4月10日日本公開

2011年4月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]

大成龍祭2011上映作品

TOHOシネマズ六本木ヒルズにて初見(2011/07/17) ※トークイベント付上映



[粗筋]

 名家の御曹司ドラゴン(ジャッキー・チェン)は、父によって自宅に招かれた講師たちから武術や学問を学ばされていたが、当人にやる気はなく、講師たちを懐柔して抜け出しては、親友のガウ(マース)と遊び歩いている。

 ある日ふたりは河原で巡り逢ったサウライ(シドニー・チャン)という女性に揃って一目惚れし、どちらがアプローチをかけるかで争いになる。しまいにはお互い騙しあって大喧嘩になり、当のサウライに軽蔑されるわ、ドラゴンの父に見つかって大目玉を食らうわ、散々な目に遭う。

 すぐに仲直りをし、ガウはドラゴンが彼女にアプローチをする手助けをするが、しかしこのことが、ふたりを思いがけないトラブルに導いてしまうのだった……。

[感想]

 初のハリウッド進出が失敗に終わり、香港に戻ったジャッキーが撮った最初の作品である。

 娯楽作品としては洗練度の高いハリウッド流の作り方は、だが必ずしもこの当時のジャッキーにとってはあまりしっくり来ないものだったようで、その反動か本篇は従来以上に様々な趣向が盛り込まれている。

 最たるものが、作中に組み込まれたオリジナルのスポーツである。日本のファンのあいだでは“ドラゴン・キッカー”と称されているようだが、作中ではそうした名称を強調している様子はない。羽根のついたシャトルを蹴り上げ、仲間にパスをして敵陣のゴールへと運ぶ、という、ボールを用いないサッカーのような競技だ。

 カンフーの足技を活かしたスポーツのような趣なので、ジャッキーのアクションを欲して鑑賞するような人には充分見応えがあるのだが、恐らくこういうスポーツを組み込みたい、という意欲だけが先行していたのだろう、どうもストーリーにうまく嵌っていない。直前まで恋の鞘当てをして、親友同士で争う、というひと幕を演じていたのに、それが影響している様子も、あとの展開に影響する様子もなく、いきなりこの“ドラゴン・キッカー”がある。観ていて面白いのは確かだが、いきなり接すると戸惑いを禁じ得ないだろう。

 そもそも、恋の鞘当て、という展開があるのもジャッキー作品としては少々異色だ。新しい要素に挑んでいくその意欲は評価出来るが、実年齢よりも若い人物を演じているとは言い条、あまりにも子供っぽすぎる駆け引きにはさすがに苦笑させられる。仲直りするのはいいがこのふたりを一緒にしておくのがいちばん危ない、というぐらい、ジャッキー演じるドラゴンも、『プロジェクトA』でも共演するマース演じるガウも非常に馬鹿だ。友情や恋愛をコメディとして描こう、という意欲が、ちょっと過剰に働きすぎた感がある。

 しかし、アクションでも相変わらず様々な実験を試みており、そちらのインパクトはさすがの強烈さだ。特にクライマックス、家の倉庫のなかで繰り広げられる決戦の壮絶さは出色である。先行作『ヤング・マスター/師弟出馬』と同様、遥かに格上の相手に、倒されようと倒されようと向かっていく姿は愚かしくも観ていて胸が熱くなるし、ハシゴや中二階を用いた戦いぶりは従来以上に立体的で、視覚的な迫力が増している。この立体構造を駆使したアクション、という考え方が、たとえば『プロジェクトA』の細い路地を自転車で走り回るシークエンスから伝説的な時計台からの転落に至るシーンの源であり、さらにのちの作品で披露される走行中のバスの上に乗って逃げまわったり、デパート吹き抜けの飾りを伝って飛び降りる、といったあまりにデンジャラスなアクションに繋がっていく、と考えると、実に興味深い。

 アイディア同士の連携の悪さ故に全体の印象が散漫としており、香港映画が伝統的に色々いい加減な作りをしていること、ジャッキーの映画でもまだ初期に属することを考慮に入れても、あまり出来映えは良くない。ただそれでも、アクション映画に対する意欲の大きさは相変わらず窺えるし、場面場面の面白さでは、前後にある代表作と比べても決して見劣りはしない。上り調子にあるスターの底力を感じさせる作品といえよう。

 ちなみに本篇は当初、『ヤング・マスター/師弟出馬』の続篇として企画されたものだという。製作の途中で構想が変わっていったため、内容的にはほぼ別物になっているが、そのつもりで眺めると、確かにあちこち続篇らしき片鱗が窺える。『ヤング・マスター』では養子で本篇は実子、という違いはあれど師範の息子という設定が共通しているし、『バトルクリーク・ブロー』でジャッキーがいちど短くした髪をわざわざ本篇のためにふたたび長くしていること、また(香港映画、初期のジャッキー映画ではよくあることだが)多くのロケーションが一致していることなど、そのつもりで鑑賞すると発見が多い。

 興味のある方は敢えて2作品を続けて鑑賞してみるのも一興だろう。

関連作品:

ヤング・マスター/師弟出馬

クレージーモンキー/笑拳

プロジェクトA

カンニング・モンキー/天中拳

スネーキーモンキー/蛇拳

ドランクモンキー/酔拳

バトルクリーク・ブロー

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ/天地黎明

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