『ボディガード』

TOHOシネマズ日本橋、通路に掲示された案内ポスター。(※『午前十時の映画祭9』当時) ボディガード [WB COLLECTION][AmazonDVDコレクション] [Blu-ray]

原題:“The Bodyguard” / 監督:ミック・ジャクソン / 脚本:ローレンス・カスダン / 製作:ケヴィン・コスナーローレンス・カスダンジム・ウィルソン / 撮影監督:アンドリュー・ダン / プロダクション・デザイナー:ジェフリー・ビークロフト / 美術監督:ウィリアム・ラッド・スキナー / 編集:ドン・カンバーン、リチャード・A・ハリス / キャスティング:エリザベス・リュースティグ / 音楽:アラン・シルヴェストリ / 出演:ケヴィン・コスナーホイットニー・ヒューストン、ゲイリー・ケンプ、ビル・コッブス、ラルフ・ウェイト、トーマス・アラナ、ミシェル・ラマー・リチャーズ、マイク・スター、デビー・レイノルズ / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.

1992年アメリカ作品 / 上映時間:2時間10分 / 日本語字幕:太田直子

1993年3月6日日本公開

午前十時の映画祭9(2018/04/13〜2019/03/28開催)上映作品

2018年2月7日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

初見時期不明

TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2018/8/04)



[粗筋]

 シークレットサービスとして大物政治家の警護を経験しながら、非番の日に起きた事件を気に病んで辞職したフランク・ファーマー(ケヴィン・コスナー)は、そののちフリーのボディガードとして、窮地に陥った大物を短期間警護し、また別の任務に就くことを続けていた。

 そんな彼のもとを訪ねたビル・デヴァニー(ビル・コッブス)が持ちかけたのは、現在飛ぶ鳥を落とす勢いの大スター、レイチェル・ロマン(ホイットニー・ヒューストン)の警護だった。かつての経験から有名人の警護は敬遠していたフランクだが、レイチェルが必要としている、と繰り返し懇願され、やむなくレイチェルの豪邸を訪問する。

 しかし、ビルの話とは異なり、レイチェルに危機感はなかった。門は古く監視カメラもなし、邸内で盛大に撮影を行っているため、多くの人間が無秩序に出入りして、セキュリティは最悪に等しい。何より、他でもないレイチェルが、現在のボディガードであるトニー・シペリ(マイク・スター)だけで充分だ、と言い、フランクを必要としていない。

 踵を返したフランクだったが、ビルやサイ・スペクター(ゲイリー・ケンプ)はふたたび追いすがった。実は、レイチェルは知らないが、彼女には本当に危険が迫っている。繰り返し脅迫状が届き、楽屋には爆発物入りの人形が置かれていた。幸い、運転手が軽傷を負っただけで済んだが、犯人が邸宅に侵入した痕跡もある。プロの必要性を痛感したフランクは、自分の指揮のもと、セキュリティを強化することを条件に、ようやく引き受けるのだった。

 こうして邸宅の改造を始めたフランクだったが、未だに自分が狙われていることを知らないレイチェルは、平穏を奪う騒がしさに苛立ち、露骨にフランクに反発する。だが、新しいMVの発表会において、そんな彼女でさえもようやく自らの危機を悟らざるを得ない事件が起きた――

[感想]

 この作品、脚本家のローレンス・カスダンは、『ブリット』『ゲッタウェイ』など、アクションでも演技でも定評のあったスティーヴ・マックィーンを主演に想定して書いたのだという。実際にマックイーン主演で準備が進められていたが降板、そのまま幻となってしまったが、それから15年を経て、ケヴィン・コスナーが自ら製作に加わり、ようやくかたちになった作品である。

 恐らく、それ故に、なのだろうが、本篇のケヴィン・コスナーの佇まいは随所でスティーヴ・マックィーンを彷彿とさせる。もともとコスナーは多弁な印象はないが、言葉数少なく、プロフェッショナルたろうと己を律する姿は、マックイーンが数々の作品で示したヒーロー像に迫っている。マックイーンのファンみんなが納得する、とまでは言わないが、コスナーが先達に払った敬意と誠意がはっきりと窺える演技だ。

 ただ、ストーリーの組み立ては、率直に言えばだいぶ大味だ。本篇の物語は、フランクとレイチェルの関係の変化と共に、誰がレイチェルを狙っているのか? という謎も軸となっているが、どちらももうひとつ描写が足りず、全般に展開が唐突なきらいがある。レイチェルの、如何にも大スター然としたムラッ気のある性格を考慮しても、フランクと親しくなるタイミングが少々急すぎるし、彼女自身の感情の起伏はいささか恣意的に映る。また、レイチェルを狙う人物の謎は、わりあい序盤から見抜きやすいが、その一方で行動理念などの掘り下げが乏しく、取って付けたような印象を残すのがもったいない。

 しかし、細かな辻褄合わせに汲々とせず、巧みに緩急をつけて観客の歓心を惹くことに徹しており、エンタテインメントとしての質は高い。安全を図っていちど街を離れるくだりでリラックスした描写挟みつつも、それでも危険が迫ってくる。だいたいこういうことだろう、と察しはついていても、それらの情報を提示するタイミングは絶妙で、観る者は終盤近くまで翻弄されるはずだ。サスペンスは十二分に味わわせてくれる。

 エンタテインメントという意味では、ほぼ全篇でポップ・ミュージックを採り入れていることが特に大きい。なかでもやはり、ホイットニー・ヒューストンの使い方が素晴らしい。各地で熱狂的に迎えられる大スター、という役割を、この当時、まさに大スターであった彼女が演じ、レイチェルとして演奏したことが、作品の雰囲気を洗練されたものにするのと同時に、桁違いの説得力をもたらしている。むろん歌唱力のある女優は当時も多くいたはずだが、設定に裏打ち出来る実績がある、という意味では最適だっただろう。

 彼女を起用した効果は何よりも、作品とセットで強く印象づけられる、『I Will Always Love You』が象徴的だ。あの鮮烈なサビの歌声とともに、もはやホイットニー・ヒューストンの楽曲として認識されてしまっている1曲だが、実はもともとカントリーだった。劇中、フランクとレイチェルがデートするくだりで、店のなかで流れるこの曲の歌詞を「暗すぎよ」とレイチェルが笑うひと幕がある。だが、そうした伏線を張ったうえで、最後に“レイチェル”の歌声でこの曲をふたたび繰り出して来るから、余計に強く印象づけられるのだ。たぶん、これほどに使い方が巧くなかったら、この演奏の認知度がここまで上がることはなかったのではなかろうか。

 ロマンスとしてもサスペンスとしても、もうひとつ大味ではあるが、しかしエンタテインメントとしての完成度は高い。思いがけず早くこの世を去ったホイットニー・ヒューストンの歌声とともに、これからも長く愛される作品だろう。。

関連作品:

パンデミック・アメリカ』/『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』/『ドリームキャッチャー

パーフェクト ワールド』/『マン・オブ・スティール』/『オズ はじまりの戦い』/『ブラック・ダリア』/『雨に唄えば

荒野の七人』/『ブリット』/『用心棒

ザ・シークレット・サービス』/『マイ・ボディガード』/『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』/『ウルヴァリン:SAMURAI

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