原題:“Monsters” / 監督、脚本、撮影、プロダクション・デザイン&特殊効果:ギャレス・エドワーズ / 製作:アラン・ニブロ、ジェームズ・リチャードソン / 製作総指揮:ナイジェル・ウィリアムズ、ニック・ラヴ、ルパート・プレストン / 編集:コリン・グーディー,G.B.F.T.E / 録音:イアン・マクラガン / 音楽:ジョン・ホプキンス / 音楽監修:ロル・ハモンド / 出演:スクート・マクナリー、ホイットニー・エイブル / 配給&映像ソフト発売元:KLOCKWORX
2010年イギリス作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:山門珠美
2011年7月23日日本公開
2011年11月25日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://www.monsters-movie.com/
DVD Videoにて初見(2014/04/15)
[粗筋]
6年前、太陽系に飛来した地球外生命体のサンプルを回収しようとしたNASAの探査船がメキシコ上空の大気圏で大破、その直後、メキシコに未知の巨大生命体が発生する。メキシコの大半は“危険地帯”として隔離され、アメリカ軍を中心とする掃討作戦が繰り広げられているが、未だに駆逐するに至っていない。
フォトジャーナリストのアンドリュー・コールダー(スクート・マクナリー)はどうにかメキシコに潜入し、“地球外生命体”によって蹂躙される世界を撮影するべく奔走していたが、勤務する大手新聞社の上役から、経営者の令嬢であるサム・ウィンデン(ホイットニー・エイブル)をアメリカまで無事に連れ戻すよう命令を受けた。3年を費やして交渉し、どうにかメキシコ入りを果たしたコールダーは渋るが、経営者から直々のお達しに、頷くしかない。
だがこの旅路は、コールダーの予想以上に困難なものだった。鉄道は途中で下りざるを得ず、タクシーでようやく辿り着いた港では法外な乗船料を要求される。しかも、コールダーが夜中に酒を呑み、その際に部屋に招いた女によって彼らのパスポートごと有り金を奪われ、まごついているあいだに港が軍によって封鎖されてしまう。
残された経路はただひとつ。ひとを雇い、危険地帯を突っ切って国境を越える。人件費も含めた高額な運賃を、サムが嵌めていた婚約指輪でどうにか賄うと、ふたりは案内人に導かれ、モンスターの跳梁する領域へと足を踏み入れた……
[感想]
題名や設定から、モンスター映画だ、と普通なら考えるだろう。だが、これは紛う方なき“モンスター映画”ではあるが、有り体のモンスター映画とは間違いなく一線を画する。
標準的なモンスター映画のイメージで接した場合、おそらくかなり確実に、モンスターの造形や設定に失望するはずだ。断言できるのか、と首を傾げるかも知れないが、個人的にはほぼ確実だ、と言い切りたい。まるでイカをそのまま巨大化したかのようなデザインは安易だし、途中で示されるメキシコに繁殖した理由など、生態についても首を傾げるポイントがある。『エイリアン』がその悪夢的なデザインにおいても特殊な設定においても優れたアイディアを提示し、古典と呼べるまでに定着したことを思うと、本篇にはそこまでの魅力はないように感じる。
だがこの作品の着眼、映画としての秀逸さは、未知の生命体がもたらす脅威のなかでひとびとが見せる行動を、ふたりの中心人物に絞って描くことで、現実味を与えていることである。
モンスターの生態自体には疑問はあっても、それがもたらす影響、脅威は動かしようがない。モンスターたちの跳梁によって危険地帯となったメキシコでどんなことが起きるのか、周辺の国家は、そしてマスメディアや志のあるひとびとはどう対処するのか? どんな事態でも当たり前にある人間の営みを、個人の視点から切り取る語り口は、モンスターの設定の胡散臭さを圧倒するくらいに生々しい。交通機関は次から次へと使い物にならなくなり、対応を迫られる国家は民衆を閉め出してでも完全の確保に努める。そして、そういう状況でもまだ人間たちは金を頼みにする。
本篇について、“中盤はだらだらと会話しているだけ”という批判もあるようだ。事実、過程においてはさほど意味のない会話、状況にそぐわないトラブルについての話が出て来て、「それよりモンスターの凄さとか怖さとかをもっと見せろよ!」とわめきたくなるひとも多いだろう。だが恐らく、どんな抗いがたい危機に直面していても、そのわずかな隙にはどうでもいい、他愛のない話に興じるのがひとというものだ――そうやって現実から逃避し、絶え間ない緊張から心を休めねば対処できないのが普通だ。現実は映画のように2時間程度の尺で危機が去ってくれるわけではないのだから。あらゆる危機を圧縮した2時間に詰めこんでくれなければ納得できない、というひとには向かない作りだが、そういう危機におけるひとびとの姿をリアルに描く作品、という意味では間違いなく本篇は優秀な出来映えなのだ。
モンスターの造形自体は残念と言わざるを得ないが、しかしその特異さを現実に溶け込ませた映像のクオリティ自体はなかなかだ。監督はVFX畑出身のようだが、それ故に、どういうヴィジュアルを組み込めば巨大生物に蹂躙された世界、というものに実在感を与えることが出来るのか、よく理解していることが窺える。ところどころ映像のトーンが暗く、DVDではいまひとつ何が起きているのか伝わりづらい場面があったが、スクリーンやブルーレイなど、或いは周囲の照明を落とした理想的な環境であれば感覚は変わるかも知れない。
ひとつ惜しいのは、最後の展開である。人間の心理としてあり得ないものではなさそうだが、ちょっと唐突すぎ、これほどリアリティに誠実であった映画としては、もう少しこの展開に繋がる布石や必然性を用意しても良かったのでは、と思う。ただ、そのあとの出来事にちょっとした細工を施して、終わりの見えない事態を1篇の物語としてまとめるあたりも憎く、トータルではやはり語り手としての巧さを匂わせる。
文句のつけようのない傑作とは呼びがたい、ただ作り手のセンスはこれ以上ないほどまざまざと感じられる作品である。内容そのものより、今後の活躍に期待の出来る才能に触れておく、という意味合いで観ておいて損はないだろう――少なくとも、本篇によって注目されたことで、日本が誇るモンスター映画、否、怪獣映画の代表『ゴジラ(1954)』の新たなハリウッド・リメイク版に起用されたことには、とても深く頷けるはずである。
関連作品:
『エイリアン』/『宇宙戦争』/『スカイライン−征服−』/『世界侵略:ロサンゼルス決戦』/『バトルシップ』
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