『マッハ!参』

マッハ!参 [DVD]

原題:“Ong-Bak 3” / 監督、製作、原案&脚本:トニー・ジャーパンナー・リットグライ / 製作:アッカラポーン・デーチャラタナプラスート / 製作総指揮:ソムサック・デーチャラタナプラスート / 撮影監督:ナタウット・キティクン / プロダクション・デザイナー:スプラシット・ブタカーム、ジャーラッド・マグジュン / 編集:ナタウット・キティクン、サラヴット・ナカジャド / 衣装:チャッチャイ・チャイヨン / アクション・スーパーヴァイザー:パンナー・リットグライ / 武術指導:トニー・ジャー / 音楽:テーデサック・ジャンパン / 出演:トニー・ジャー、ダン・チューポン、ペットターイ・ウォンカムラオ、スパコン・ギッスワーン、ニルット・シリジャンヤー、プリムター・デットウドム、サランユー・ウォングガチャイ、ソーラポン・チャートリー / アイヤラ・フィルム製作 / 映像ソフト発売元:KLOCKWORX

※スタッフ名は英語表記を元に、タイ語を知らない深川が推測した読み方が大半ですので、参考程度に解釈してください。

2010年タイ作品 / 上映時間:1時間39分 / 日本語字幕:?

日本劇場未公開

2011年7月6日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|トリロジーBOX:amazon]

DVD Videoにて初見(2011/11/16)



[粗筋]

 ティン(トニー・ジャー)は家族を殺した仇・ラーチャセーナ(サランユー・ウォングガチャイ)に肉迫しながら、あと一歩のところで捕えられてしまった。激しい拷問を受けながらも懸命に抵抗し、当初は脱出を試みることも出来たが、全身の骨を砕かれて身動きも出来なくなってしまう。

 邪魔者を一掃し、これで我が世の春を謳歌できるはずだったラーチャセーナだが、しかしティンを捕えたあたりから異様な悪夢に苛まれる。ティンを捕え、逃走を阻むのに貢献した鴉男(ダン・チューポン)の謎めいた言葉もまた彼の心を揺さぶり、ラーチャセーナは次第に冷静を失っていった。

 そして、いよいよティンを死刑に処す決定を下した直後、にわかに現れたアユタヤ王の使者が、ティンを引き渡すように命じた。最高権力者の命令に、ラーチャセーナも刃向かえず、やむなくティンを解放した。

 ティンを受け入れたのは、かつて彼が父の配慮により匿われていた村であった。村の人々は、追っ手により多くの被害を出しながらも、彼を救うべく尽力する。とりわけ献身的に介護したのは、ティンにとっての幼馴染みであるピム(プリムター・デットウドム)であった。

 瀕死の重傷であったティンは、どうにか意識を取り戻すが、しかし目醒めた彼を待っていたのは、まったく身動きもままならない、という現実。絶望に打ちひしがれたティンは、断崖から身を投げようとするが、それを呼び止める者がいた――

[感想]

 驚くほど中途半端なところで終わってしまった『マッハ!弐』の続篇である。およそアクション映画ではあり得ない種類の結末だっただけに、次があることは予想されたが、残念ながら日本では劇場公開は見送られ、DVDリリースでの紹介となった。とはいえ、世の中には日本での公開はおろか、目に触れる機会すらない作品も無数にあるだけに、鑑賞出来るだけでも喜びたい。

 ……が、ファンにとってはそのくらい渇望された1本であるが、期待に応えられる仕上がりか、と問われると、大いに疑問だ。個人的には、ほとんど期待に応えていない、と断じたいほどである。

 消化不良のまま話を終わらせてしまった前作でさえ、納得がいくかどうかはさておき、ある程度のドラマが存在したし、アクション・シーンに工夫が凝らされていた。しかし本篇は、話があまりに支離滅裂、かつ面白くないのである。

 成り行きだけ辿っていくと、何をしたかったのかは察しがつくのだが、そこに説得力を与えるための配慮がまったくなされていない。どうしてティンは処刑寸前で救われたのか、あの状況で何故ふたたび敵はティンを襲おうとしたのか。自暴自棄になったティンが翻心した理由もいまひとつ伝わりづらいし、その後、彼がどのように変わったのかも解りづらい。並行して描かれるラーチャセーナの狂気の顛末や、彼の後釜にどうしてあの人物が座れたのか、もきちんと説明が為されていない。物語が全体に、印象のみで綴られているようで、腑に落ちないのである。大枠だけ眺めると、どうしてこういう流れにしたかったのか、理解できなくはないのだが、観客に受け入れさせるための努力を怠って意味不明に陥っている。

 では、トニー・ジャーの売りであるアクションがどうか、と問われると、こちらも大いに物足りない。前作では様々な武術の要素をミックスした擬斗が随所で組み込まれ、話としては盛り上がりに欠きつつもアクション映画愛好家としてはある程度愉しむことが出来たが、本篇はそもそもアクション・パート自体がかなり減っている。最初の拷問シーンで反撃に出るあたりだけが序盤の見せ場で、あとはティンの恢復する様子とラーチャセーナの変化がだらだらと綴られるばかりだ。しかもこの過程に、後半に対する伏線が仕掛けられているわけでもないので、余計にだらだら感が強い。

 後半では若干アクションが盛り込まれるが、それも中途半端な仕上がりだ。見せ方には随所で工夫が見られるが、それは所詮動きをちょっと綺麗に、格好良く見せる程度の役割しか果たしておらず、アクションの重量感、迫力をさほど表現出来ていない。個性的なアイディアが組み込まれているわけでもなく、驚きや爽快感も希薄だ。いちばん肝心であるはずのクライマックスの戦いですら、まとまりが悪くカタルシスを味わえる部分もない。

 ほとんど全篇ひとり対多数の戦いを繰り広げるトニー・ジャーの姿は雄々しく、若干はファンの溜飲を下げる内容になっているし、これまで以上に象との絡みの多い戦いぶりは、多少は愉しめる――だが、この程度ならシリーズ1作目や『トム・ヤム・クン!』をもういちど観た方がよほど満足感が得られるだろう。

 憶測するに、恐らくもともとは『弐』と『参』の話を合わせて1本の映画として纏めたかったのではないか。だが、作っているうちに尺が微妙に長くなってしまったか――或いは、何らかの事情で、話の途中であってもいちど完成させて公開に漕ぎつけねばならなくなった、といった訳で2本に分けられたのではないか。そうとでも捉えないと、本篇の薄味さ、まとまりの悪さは説明がつかないように思える。

 高度なアクションを披露する俳優としてブレイクしたのち、監督としても活躍した先達に、ジャッキー・チェンがいるが、彼の監督作やその後の変化と比較すると、何が足りないのかよく解る。トニー・ジャーのこの2本の監督作には、彼がそれまで主演した作品とどう違うのか、どんな魅力を示したいのか、という具体的な意志が見えないのだ。ジャッキー・チェンは、ロー・ウェイ監督によって再デビューした時点で既にブルース・リーの二番煎じでは通用しないことを感じており、自分の思うような作品を撮ってもらえない、という状況を打破するためにいちど外に飛び出し、それから初めての監督作を手懸けている。だがトニー・ジャーの2作品はプラッチャヤー・ピンゲーオ監督のもとで撮った2作品と比較して、アクションの見せ方にしても、彼自身の立ち居振る舞いにしても、せいぜい「自分を格好良く見せたい」という程度の違いしか見受けられない。考え方はそれでも別に構わないのだが、格好良く見せるための話作り、アクションの構成などにほとんど配慮がないので、ただピンゲーオ監督作品を退化させただけの結果に陥っている。きつい言い方だが、志が低いのだと思う。

『弐』の公開から1年半のブランクを経てどうにか届いた本篇だが、残念ながら『トム・ヤム・クン!』までのパワーを望んでいたファンの期待に応える出来とは言いがたい。あくまで、どうしても彼の新作に触れておきたい、物足りなくてもその最も新しい勇姿を網膜に焼き付けておきたい、フィルモグラフィーのすべてを押さえておきたい――という人ぐらいにしかお薦めできない。該当しない方は、ふたたびプラッチャヤー・ピンゲーオ監督と組んで製作しているという『トム・ヤム・クン2』の到着を待っているほうが無難だろう。きっとトニー・ジャーという俳優は、自分で監督をするよりも、彼の個性、魅力をよく解っている監督にコントロールしてもらった方が、遥かに活きるはずだから。

関連作品:

マッハ!!!!!!!!

マッハ!弐

トム・ヤム・クン!

七人のマッハ!!!!!!!

チョコレート・ファイター

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