原題:“師弟出馬” / 英題:“The Young Master” / 監督、脚本&武術指導:ジャッキー・チェン / 脚本:ラウ・ティンチー、トン・ロー、エドワード・タン / 製作:レイモンド・チョウ / 撮影監督:チン・チンチュ / 編集:チャン・ヤオチュン / 武術指導:フェン・ケーアン / 音楽:フランキー・チェン / 出演:ジャッキー・チェン、ウェイ・ペイ、ユン・ピョウ、シー・キエン、リリー・リー、ティエン・ファン、ウォン・インシク / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:Paramount Home Entertainment Japan
1980年香港作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:山崎剛太郎
1981年3月21日日本公開
2011年4月8日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
大成龍祭2011上映作品
DVD Videoにて初見(2011/07/20)
[粗筋]
村で恒例の獅子舞合戦は、例年正風道場が制している。今年も道場の面々は勝つ気満々だったが、獅子頭を担当するはずだったキョン(ウェイ・ペイ)が直前に怪我をし、急遽弟弟子のロン(ジャッキー・チェン)が獅子頭を担当した。
威儀道場が相手であれば負けるはずがない、と思っていたが、競技中、威儀道場の獅子頭の中を見たロンは驚愕する。相手方の獅子頭を担いでいたのはキョンだったのだ。動揺のあまり、ロンは獅子頭を取り落とし、合戦はまさかの敗北を喫する。
師匠(ティエン・ファン)はロンを叱責し、弟子たちに苛立ちをぶつけるが、その夜キョンが娼婦を招き入れる現場を目撃、同時にキョンが威儀道場から金を受け取っていたことも発覚し、師匠は怒りのあまりキョンを破門する。
獅子舞合戦の敗北がきっかけですっかり面目を失った正風道場は村で馬鹿にされるようになり、師匠は弟子たちを打擲して鬱憤を晴らす。耐えかねたロンは自らも道場を飛び出し、行方をくらましたキョンを探す、と宣言した。
その頃キョンは、役人に追われる身分となっていた。威儀道場の師範とともに役人たちを襲撃し、助け出した囚人キム(ウォン・インシク)を含めた一団で銀行強盗を働いたのである。役人たちが得た手懸かりは、犯人のひとりが大きな白い扇子を持っていたことだけ――その扇子は、キョンとロンがお揃いで持っていたものであり、ロンもまたそれを手懸かりにキョンを追っていたことで、ロンはあらぬ疑いをかけられてしまう……
[感想]
ジャッキー・チェンが長いこと対立していたロー・ウェイ監督のもとを完全に離れ、当時の香港最大手の制作会社であったゴールデン・ハーヴェストに移籍、初めて発表したのが本篇である。
ジャッキーとロー・ウェイ監督との相性の悪さは、ここまでにアップしたジャッキー初期作品の感想を辿ってご確認いただきたい。初期作から順繰りに鑑賞するとちょっとした苦痛が味わえるほどだが、そうした流れののち、2作限りのレンタル移籍による『スネーキーモンキー/蛇拳』『ドランクモンキー/酔拳』の誕生があり、ヒットを生む力を証明したジャッキーはゴールデン・ハーヴェストに迎えられたわけだ。ハリウッド初進出となる『バトルクリーク・ブロー』、『キャノンボール』を挟んでいるが、ホームであった香港で撮影された本作こそジャッキー・チェンにとって本格的な“再出発”作品と見るべきだろう。
『バトルクリーク・ブロー』は舞台も内容もハリウッドを意識し、ジャッキーの身体能力を活かしつつもガラッと趣を変えていたが、本篇は過去の中国を舞台に、カンフーを巡る駆け引きを中心にしたストーリー、という本来のスタイルに戻っている。
だが、土台は一緒でも、ストーリーの展開を支える要素がかなり変化している。カンフー映画ではありがちだった復讐劇、陰謀劇ではなく、複雑な感情の入り乱れる師弟関係から生まれた軋轢で道場を飛び出した兄弟子をジャッキーが捜し、その過程で遭遇した悪事と対決する、という、ありそうでいてちょっと珍しい構図を描いている。
巧妙なのは、この構図のなかで繰り広げられるやり取りが、当事者たちはけっこう真面目なのに、人死にがない分、シリアスに傾きすぎずに済んでいることだ。そのお陰で、ジャッキーが少しずつ掘り下げてきたコメディ・タッチのアクションが従来よりも自然に溶け込んでいる――まあ、冷静に考えると唐突で無茶がある、という趣向も多々見受けられるが、壮絶な復讐劇や深刻な駆け引きのさなかにやられるよりはよほど受け入れやすいし、素直に愉しめる。
また、従来の“修行の成果として技を手に入れる、対抗法を思いつく”というのとは異なり、コメディとしか思えないやり取りの中に、のちの戦いを有利に運ぶための着想がある、という、のちのジャッキー作品ではしばしば用いられる方法論を最も明確に打ち出した、という点でも本篇は注目に値する。象徴的なのが、スカートを穿いた女性との戦いである。女性は足技をどのように繰り出すのか、ジャッキー演じるロンに悟らせぬよう、スカートを翻して足許を見せないようにするのだが、あとあとジャッキーはこれを応用して敵と闘う。コメディとしてもアクションとしても絶妙のアイディアである。
もうひとつ特筆すべきは、本篇あたりから、ジャッキー演じる主人公の強さがほどほどに抑えられている点だろう。これ以前の作品、それこそ『バトルクリーク・ブロー』までは、ジャッキーは事実上、作中で最強、或いは最強まで登りつめてしまうことが多い。クライマックスを三人がかりで闘う『飛龍神拳』ぐらいが例外として浮かぶのみで、他は何らかの事情で力を抑えざるを得なかったのが解き放たれたり、修行の成果で、最強の敵に肉迫するレベルに達する、というのが殆どだった。それに対し本篇は、クライマックスに至っても最後の敵を超えているわけではない――まあ負けないのだろう、ということは察しがつくが、その勝ち方はちょっと異様だ。これ以降の作品ではもう少しスマートになっていくが、力及ばずとも勝利のために腐心する、という趣向が明示されたのは本篇が最初と見ていいのではないか。
まだ監督業に進出して間がなく、香港映画らしい雑さ、いい加減さも随所に見られて、完成度は決して高くないが、しかしそれまで以上に娯楽映画作りへの意欲、カンフー映画に対する情熱を窺わせると共に、その後のジャッキー作品の魅力に繋がる趣向も散見され、やはりファンとしては観逃せない1本だろう。何より、ロー・ウェイ監督の下で撮影された作品のような息苦しさはまったく感じず、素直に愉しめるのが快い。
関連作品:
『プロジェクトA』
『飛龍神拳』
『キャノンボール』
コメント
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