原題:“The Other” / 原作、脚本&製作総指揮:トマス・トライオン / 監督&製作:ロバート・マリガン / 撮影監督:ロバート・L・サーティース,A.S.C. / プロダクション・デザイナー:アルバート・ブレナー / 編集:フォルマー・ブラングステッド,A.C.E.、O・ニコラス・ブラウン / 衣装:ジョアンヌ・ハース、トミー・ウェルシュ / 音楽:ジェリー・ゴールドスミス / 出演:ユタ・ヘーゲン、ダイアナ・マルドア、クリス・ユダバーノキー、マーティン・ユダバーノキー、ノーマ・コノリー、ヴィクター・フレンチ、ポーティア・ネルソン、ジョン・リッター / 配給&映像ソフト発売元:20世紀フォックス
1972年アメリカ作品 / 上映時間:1時間34分 / 日本語字幕:清水俊二
1973年5月12日日本公開
2011年5月20日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video:amazon]
DVD Videoにて初見(2011/05/21)
[粗筋]
鄙びた街で暮らす少年ナイルズ(クリス・ユダバーノキー)と双子の兄ホランド(マーティン・ユダバーノキー)は仲のいい兄弟だ。だが、ナイルズは父の死以来鬱ぎこんでいる母アレクサンドラ(ダイアナ・マルドア)のことが常に気にかかり、その表情には常に影が差している。
ある日ナイルズは、物置でホランドと遊んでいたとき、従兄弟のラッセル(クラレンス・クロウ)に、持っていた指輪を見咎められた。それは本来、墓の下にあるべきものだったからだ。
不安に怯えるナイルズに、祖母のエダ(ユタ・ヘーゲン)はいつものように一風変わった精神統一の方法を指南する。実際にそこにある、自分以外の何かに心を投影し、それが目にする光景を想像する、というものである。このときナイルズは、1羽のカラスに自分を投影した。恐怖に襲われながらも空を舞った直後、ナイルズは不思議な胸の痛みを感じて我に返る。
そしてその日、悲劇は起きた。納屋で遊んでいたラッセルが、飼い葉に埋もれていたフォークに刺さって命を落としたのだ。
この出来事を契機に、ナイルズの周囲で不吉な事件が繰り返されるようになる――
[感想]
竹本健治が『匣の中の失楽』の登場人物のニックネームに“ナイルズ”と“ホランド”を用い、綾辻行人が自著『暗闇の囁き』や『Another』に影響を及ぼした、として名前を掲げていることから、映画好きでなくともミステリ愛読者のなかには本篇の名前を記憶していた人はいたはずだ。だが、原作小説は長らく絶版状態、映画版もDVD化が実現しないために、半ば幻となっていた作品である。前述の作品群に思い入れのある者としては、DVDリリースの一報に触れて我慢できず、すぐさま予約注文してしまった。
鑑賞して、まず最初に覚えた感想は、ダリオ・アルジェント監督作品に本格的に触れたときと似ていた。――綾辻行人作品だ。
無論、逆である。綾辻行人作品のカラーがこうした作品から強く影響を受けていることの証拠であり、それほど完成されていることの証明でもある。
ただ、これを観て“綾辻作品そのものだ!”と思うほどミステリに耽溺しているような人であれば、恐らく本篇の趣向は早めに察しがつくに違いない。アイディアとしては秀逸だが、多くの類例が生まれてしまっている現在、本篇の見せ方は少々素直すぎるように映る。
それでも本篇を観ながら感嘆を禁じ得ないのは、背景を察していても、まったく察知出来なくとも、終始物語の異様な緊迫感によって、終始引きずられてしまうことだ。正体不明の不安がつきまとい、さり気ない描写にさえ恐怖が滲む。エダがナイルズを落ち着かせようと指導する精神統一法でさえ、その和やかさ、快い飛翔感とは裏腹の不穏さを孕んでいる。
極めておぞましい出来事が相次いでいるにも拘わらず、肝心の部分を見せない描き方も本篇のポイントだ。恐らく、この作品を観たあと、臆病な人は画面に終始、血の色が飛び交っていたような印象を留めているだろうが、実際には直接、残酷な状況を撮した場面は全くない。雰囲気の醸成が非常に巧妙なのだ。
そして本当に驚くべきは、作中で真相が明かされたあとの展開だ。ほとんどの観客が漠然と感じていたことが幾度も裏切られ、足許を揺さぶられる描写の数々が、更なる恐怖を喚起し、この上なく不穏な余韻を残す結末へと繋がっていく。惨劇の様子そのものを描いていないこともここでは奏功して、余計に観る者に不安を残すのだ。
説明もないので、描写をよく咀嚼し解釈する習慣のない人は、ただ投げっぱなしになっている、或いは筋の通らない内容に思えるかも知れない。だが、きちんと描写の背景を探るような人ほど、その丹念さに戦慄し、敢えて放り出した結末に恐怖を味わうはずだ。サプライズを売りとする作品が多数作られた今に至ってもなお上位に属する、良質の心理スリラーである。
関連作品:
『アザーズ』
『箪笥』
『ゲスト』
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