原作:東堂いづみ / 監督:大塚隆史 / 脚本:村山功 / キャラクターデザイン原案:稲上晃、川村敏江、香川久、馬越嘉彦、高橋晃 / 作画監督&キャラクターデザイン:青山充 / 美術監督:釘貫彩 / 色彩設計:澤田豊二 / 美術デザイン:平澤晃弘 / 撮影監督:高橋賢司 / CG監督:鈴木大介 / 製作担当:末竹憲 / 音楽:佐藤直紀、高梨康治 / 声の出演:小清水亜美、折笠富美子、三石琴乃、水樹奈々、水沢史絵、桑島法子、久川綾、川田妙子、くまいもとこ、沖佳苗、喜多村英梨、中川亜紀子、小松由佳、こおろぎさとみ、松野太紀、三瓶由布子、竹内順子、伊瀬茉莉也、永野愛、前田愛、仙台エリ、草尾毅、入野自由、朴路美、樹元オリエ、榎本温子、山口勝平、松来未祐、渕崎ゆり子、岡村明美、本名陽子、ゆかな、田中理恵、関智一、矢島晶子、池澤春菜、谷井あすか、山寺宏一 / 配給:東映
2011年日本作品 / 上映時間:1時間11分
2011年3月19日日本公開
公式サイト : http://www.precure-allstars.com/
TOHOシネマズ西新井にて初見(2011/03/25)
[粗筋]
北条響(小清水亜美)と南野奏(折笠富美子)のふたりは、新しい大型ショッピング・モールを訪れた。初めて見る大勢の人に、妖精のハミィ(三石琴乃)は大はしゃぎして、広場で行われていたファッションショーの舞台に上がってしまう。人に知られてはまずい、と響と奏は大慌てで舞台に向かうが、壇上にいた3人の少女は、人語を話す猫の出現にも、さほど驚く様子もない。
が、そこへもっと驚く出来事が起きた。突如として空から大量の妖精が降ってきて、気づけばショッピングモールの周辺は、様々な異世界とごっちゃまぜのとんでもない光景に変貌する。妖精たちは、響たちの住む世界と妖精たちの住む世界とを繋ぐプリズムフラワーの力に異変が起きているのかも、と語る。
そこに現れたのは、複数の怪人たち。地球のすべてを闇に呑みこむことを目論んだ闇の王・ブラックホールが、かつて倒された怪人たちを復活させ、地上に送りこんだのである。場の成り行きに戸惑いながらも、プリキュアに変身した響と奏は――自分と一緒にいた少女達19人もまた一斉にプリキュアに変身したことに仰天する。
総出で怪人たちに戦いを挑もうとしたプリキュアたちだったが、しかし魔女の力によって、3つの世界へと別々に吹き飛ばされてしまった。
一緒に戦ってきた仲間と離されて、プリキュアたちは満足な力が発揮できない。しかも、彼女たちが消えた本来の世界では、妖精たちもまた怪人と対峙していた。果たしてプリキュアたちは、この窮地を脱することが出来るのか……?
[感想]
現在進行形でテレビ放送中のシリーズで活躍するメンバーを含む、すべてのプリキュアが集うオールスター・ムービーの第3作にして、現段階では“完結篇”となる、と言われている作品である。
傍目にもこのシリーズは制約が多く、なかなかに扱いが難しい。本来の対象年齢層が知っている、記憶しているのは最近の2年程度のシリーズに過ぎないだろうが、少し上の世代で未だ初期のシリーズに愛着があって劇場に足を運ぶファンもいるだろうし、かと思えば私のようにいい歳をして、ストーリーやシリーズを通しての変遷といった部分などに関心を抱いて全作きっちり鑑賞した上で観に来る客もいる。最後の層は基本無視して構わないにせよ、なるべくすべてのキャラクターに出番を設けねば、いずれかのファンの不興を買う、と考えると、匙加減の大変に厄介なシリーズであることは疑いを容れない。
実際、オールスターズの先行2作品は、どうも尺的に無理のある出来だった。ヒロイン格がふた桁以上集って画面狭しと活躍するヴィジュアルはそれだけで見応えがあるが、先にも触れた通り、本来の対象年齢層の興味が最近の作品に絞られる、という読みもあってのことだろう、物語的には概ね最新シリーズのキャラクターが中心となり、前シリーズのヒロインが牽引して先輩たち(設定上、ほとんどのキャラクターは同年齢なので先輩後輩という位置づけは無効化されているはずだが、そこには考えないであげよう)の輪に導く、という構図を採用しており、必然的に初期のシリーズのキャラクターほどお座なりにされている印象が強かった。華やかだが、あくまで“お祭り”的な作品という趣だったのである。
そういう評価だったため、私は本篇に対して決して大きな期待を抱かず、あくまでシリーズ全体を認めている者として楽しむだけのつもりで劇場に足を運んだのだが――そういう意味では、驚くほどに優れた出来だった。
物語の発想、舞台のアイディアなどにはさほど見るべきところはない――というより、過剰なほどに単純化されている。現行シリーズのヒロインである響と奏が前シリーズのヒロインつぼみたちと出逢い、戦いに突入するまで恐らく10分程度しかない急スピードだし、戦いの舞台は過去のプリキュア劇場版で登場した異世界をモザイク状にしたものだ。終盤の話の流れもおおよそ定番通りと言っていい。
だがその代わり、ほぼすべてのプリキュアが、それぞれに見合った活躍、見せ場が与えられ、取り漏らしがないように、実に巧みに構成されている。都合21人、というとんでもない人数の変身シーンを、端折りつつもうまく構成してすべて見せることに成功しているし、必殺技も主立ったものはあらかた網羅したうえ、クライマックスでは旧シリーズのお定まりの映像をそのまま使うことなく新たに書き起こす、というサービスもしている。
全篇変身したままで話が進むが、そんな中でもすべてのキャラクターに、個性を踏まえた描写が盛り込まれているのにも唸らされる。直情的なキュアブラックは、ホワイト相手にするようなごくごくアバウトな言動をして一緒にいる仲間と揉めるひと幕があるし、通常サポートに回ることの多い青系統のヒロインたちは、率先して動く仲間がいないためにペースを乱す姿が描かれる。黄系統ではお姉さん体質のキュアルージュが懸命に場を仕切ろうとする傍らで、やたらマイペースなキュアレモネードと素直なシャイニールミナスが勝手に話を進めてしまい振り回される、という『プリキュア5』を思い出させるようなやり取りを繰り広げる。タコが苦手、という設定のあったキュアベリーがタコの怪物を前に明らかにたじろぐ素振りを覗かせたり、もとのシリーズではミルクが誰よりもかれんに懐いていた、という設定を窺わせる振る舞いも組み込まれている。とりわけ、基本は“可愛い”ヒロインばかりであるなかで、かなり壊れた表情を見せ、テレビシリーズ同様に優れた道化役の立ち位置をこなしたキュアマリンの不変ぶりは見事だ。
基本はプリキュアにのみ焦点が合わせられているが、妖精たちにさえ活躍の場が用意されているし、さりげなく主立った脇役はほとんど顔を連ねているのも、シリーズを追ってきた者には嬉しいサービスだ。意地の悪い見方だが、仙台エリがミルキィローズを担当する前に第1シリーズで演じていた脇役の志穂、キュアルージュの竹内順子が『Splash Star』のなかで演じていた健太にわざわざ台詞を用意してあげた節があるのも、憎らしい趣向と言える。
そして、お定まりのパターンではあるが、悲壮な決意と共に全力で強大な敵に立ち向かっていく終盤のカタルシスに、それぞれのキャラクター像や価値観をうまく繋げていくあたりが実に絶妙だ。この流れのお陰で、テレビシリーズの回想を細かに盛り込み、そちらから親しんでいた観客の記憶を喚起して余計に感動を強める効果も上げている。
『Yes! プリキュア5 GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』併映の短篇まで含めると3作、それらで蓄積された経験を元に、キャラクターの見せ方、活かし方を工夫し、可能なところまで完成度を高めた、オールスターズの最高傑作にして見事な完結篇である――内心、来年長篇第4作が発表されてもおかしくはないし、もし公開されれば次も観るつもり満々であるが、本当に本篇で終わりなのなら、素晴らしい有終の美を飾ったと言える。最近の作品しか観ていない人でも充分に楽しめ、シリーズの多くを鑑賞した人であれば決して観逃すべきでない1本だ。
関連作品:
『劇場版 ふたりはプリキュア Max Heart 2 雪空のともだち』
『ふたりはプリキュア Splash Star チクタク危機一髪!』
『Yes! プリキュア5 GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』
『プリキュアオールスターズDX/みんなともだちっ☆奇跡の全員大集合!』
『フレッシュプリキュア! おもちゃの国は秘密がいっぱい!?』
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