『続・夕陽のガンマン』

続 夕陽のガンマン [DVD]

原題:“Il Buono, Il Brutto, Il Cattivo” / 英題:“The Good, The Bad and the Ugly” / 監督:セルジオ・レオーネ / 脚本:セルジオ・レオーネルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ、フリオ・スカルペッリ / 製作:アルベルト・グリマルディ / 撮影監督:トニーノ・デリ・コリ / 編集:ユージニオ・アラビソ、ニノ・バラグリ / 音楽:エンニオ・モリコーネ / 出演:クリント・イーストウッドリー・ヴァン・クリーフイーライ・ウォラック、ルイジ・ピスティッリ、アルド・ギュフレ、アントニオ・カサーレ / 配給:UA / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント

1966年イタリア作品 / 上映時間:2時間42分 / 日本語字幕:宍戸正

1967年12月30日日本公開

2010年8月4日DVD日本最新盤発売 [DVD Video:amazonBlu-ray Discamazon]

DVDにて初見(2010/10/11)



[粗筋]

 トゥッコ(イーライ・ウォラック)は、各地で働いた様々な犯罪により、2000ドルの懸賞金をかけられた悪党だ。しかも、ブロンディ(クリント・イーストウッド)という男に捕まると、懸賞金を山分けにする条件で、自分をいちど突き出させ救出させる、という小狡い詐欺まで働きはじめた。

 だがこのブロンディという男、一筋縄ではいかなかった。懸賞金が3000ドルに上がったところで再度同じペテンを働くと、「これ以上懸賞金は上がらない」と言い、トゥッコを砂漠の真ん中で解き放ったのである。縛り首にされる直前だったため、両手を縛められたままの状態で。

 しかしどうにか砂漠を脱したトゥッコは、拳銃と仲間を調達すると、ブロンディを追い始めた。他の仲間を見つけ、ふたたび懸賞金詐欺を働こうとしていたブロンディを捕らえると、意趣返しとばかりに、トゥッコは彼に水も食料も与えず、砂漠越えを強要する。

 だが、トドメを刺そうとしたとき、思わぬ事態が出来する。どこからともなく現れた馬車を止めると、客車には無数の屍体と、瀕死の男が詰まっている。死にかけた男は水と引き替えに、大金を隠した場所を教える、と言い出したのだ。その男――ビル・カーソン(アントニオ・カサーレ)から具体的な場所を聞き出そうと、トゥッコが水を用意しているあいだに、もはや身動きもままならないように見えたブロンディがビルに近づき、男が死ぬ間際に、肝心の情報を聞き出してしまったのだ。

 かくしてトゥッコは、いちどは裏切られた相手を介抱しなければならなくなる。だがこのとき彼らは知らなかった――ビル・カーソンの隠した大金を追うもうひとりの男がいることを。

[感想]

荒野の用心棒』、『夕陽のガンマン』に続く、セルジオ・レオーネ監督&クリント・イーストウッド主演による西部劇3部作最後の作品である。

 3部作、とは言い条、ストーリー上の繋がりはない。いずれもイタリアで制作された南北戦争期の西部劇であり、セットやイーストウッド演じる主人公の人物像が意図的に使い回しされている程度だ。『夕陽のガンマン』に続いて登場したリー・ヴァン・クリーフは前作の影を帯びたガンマンから一転、金のためならあらゆる手段を取る悪党になっているし、更にこのふたりを凌駕する存在感を示した3人目、“卑劣漢”のイーライ・ウォラックが加わったことで、一見したところ趣は変わっている。

 だが、“面白さ”の性質はさほど違っていない。黒澤映画の企みに満ちた脚本を下敷きにした『荒野の用心棒』と、根っこにはシンプルな復讐劇の趣向がある『夕陽のガンマン』と2本だけ並べるとかなり変わったように見えるが、しかしそのあとに本篇を置いてみると、製作陣が求めていた面白さは一貫しているのが解る。名前があったとしても背景の窺い知れないクリント・イーストウッド演じる主人公を軸とした、込み入った駆け引きと、先読みの出来ないストーリー展開、そして決闘のカタルシス。なまじ緻密な仕掛けのあった『荒野の用心棒』があるせいで惑わされるが、そうした見せ場の組み立ては通底しているのだ。

夕陽のガンマン』のヒットを受けて、予算の大幅に膨れあがった(それでもハリウッドの大作とは比較にならないレベルだったようだが)本篇は、だがそのせいで若干散漫になった感も否めない。尺はちょっと怯むぐらいの長さになっているし、これまでは世界観として仄めかされているに過ぎなかった南北戦争というものを、最前線付近を舞台にすることで直接描いたことで、西部劇ならではの悪党同士の駆け引きに壮絶な戦争シーンと戦場でのドラマを組み込んだことで、焦点がいささかぶれた印象はある。戦場でブロンディらが出逢う大尉のキャラクターの味わいや、そこにも駆け引きをさり気なく織りこむ周到さは見事だが、さすがに盛り込みすぎたように思えた。前2作に較べて、ガン・アクションの趣向が単純化してしまったのも少々残念なところだ。

 しかし、どれほど尺が長くても、捕まっては解き放たれ、また捕らえられては意外な展開が待ち受ける本篇は、観ていてほとんど飽きが来ない。そうして紆余曲折を経て辿り着く、ラストの決闘の緊張感、そして人を食った締め括りはやはり痛快の一言に尽きる。イーライ・ウォラック演じるトゥッコにいささか食われた感のあったイーストウッドも、最後の最後で切れ者ぶりを見せており、そんな彼に向かって吐き捨てられる最後の台詞は愉快この上ない。

 教訓も何もない、娯楽にひたすら徹した天晴れな西部劇である。――それだけに、『続』とつけたことで、繋がりを強調してしまったのは、配給時の戦略とはいえ軽率だったように思われる。確かに、通底するものはあるが、中途半端に繋がりを意識させるよりはすっぱり別の邦題をつけるべきだったのではなかろうか。

 ハリウッドにおいては様々な制約から西部劇映画に出演できず、結果としてイタリアに新天地を求めることになったクリント・イーストウッドは、人気故に彼を縛っていた『ローハイド』の終了に伴い、ようやく制約から解き放たれた。そうして念願の、ハリウッドでの西部劇主演作『奴らを高く吊るせ!』に結びついていく。この作品は同時に、イーストウッド自身の製作会社“マルパソ”の第1回作品であり、のちの輝かしい功績の第一歩ともなるのだが――

 なお、この作品から42年後に韓国で『グッド・バッド・ウィアード』という、満州を舞台にしたアジア流西部劇が作られている。本篇の原題を意識したこの作品、ストーリーはまるで違うものの、重要なシチュエーションは踏襲していて、本篇に非常な敬意を示していたのを今更ながらに実感した。本篇を愛しているが故に避けていた、という人もいるかも知れないが、そういう方は是非あちらにも触れていただきたい。この感想を読んで本篇を鑑賞し、興味を惹かれた、という稀有な方にも無論お薦めする。

関連作品:

荒野の用心棒

夕陽のガンマン

許されざる者

グッド・バッド・ウィアード

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