TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『オールド』チラシ。
原題:“Old” / 原案:ピエール=オスカル・レヴィ、フレデリック・ペーターズ / 監督&脚本:M・ナイト・シャマラン / 製作:M・ナイト・シャマラン、マーク・ビエンストック、アシュウィン・ラジャン / 製作総指揮:スティーヴン・シュナイダー / 撮影監督:マイケル・ジオラキス / プロダクション・デザイナー:ネイマン・マーシャル / 編集:ブレット・M・リード / 衣装:キャロライン・ダンカン / 音楽:トレヴァー・ガレキス / 出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、ヴィッキー・クリープス、ルーファス・シーウェル、アレックス・ウォルフ、トーマシン・マッケンジー、アビー・リー、ニキ・アムカ=バード、ケン・レオン、エリザ・スカンレン、アーロン・ピエール、アレクサ・スウィントン、キャスリーン・チャルファント、ノーラン・リヴァー、カイリー・ベグリー、ミカヤ・フィッシャー、エンベス・デイヴィッツ、イーモン・エリオット、グスタフ・ハマーステン、フランチェスカ・イーストウッド、カイレン・ジュード、M・ナイト・シャマラン / 配給:東宝東和
2021年アメリカ作品 / 上映時間:1時間49分 / 日本語字幕:風間綾平
2021年8月27日日本公開
公式サイト : https://old-movie.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/9/2)
[粗筋]
ガイ(ガエル・ガルシア・ベルナル)とプリシラ(ヴィッキー・クリープス)のキャパ夫妻は、マドックス(アレクサ・スウィントン)とトレント(ノーラン・リヴァー)というふたりの子供とともに、南の島へと赴く。既に夫婦仲は冷え込んでいたが、家族として最後の想い出を作るため、ひょんなことから知ったこのリゾート地へとヴァカンスに訪れたのだ。
豪華なスイートルームで一夜を過ごしたあと、キャパ一家はホテルの手配したバンに乗り、崖に塞がれ、立ち入りの厳しく制限されたプライヴェート・ビーチへと案内された。ビーチには他に、心臓外科医のチャールズ(ルーファス・シーウェル)と母親のアグネス(キャスリーン・チャルファント)、モデルをしている若い妻クリスタル(アビー・リー)、その娘のカーラという一家に、看護師のジャリン(ケン・レオン)と精神科医のパトリシア(ニキ・アムカ=バード)がやって来た。
一同がそれぞれにビーチを楽しんでいるなか、彼らがやって来るより前に訪れていたらしいラッパーのミッドサイズ・セダン(アーロン・ピエール)は、何故か海に近づくこともなく、遊ぶ人びとを遠巻きに眺めているだけだった。
異変は突如として起きた。海で泳いでいたトレントは、流れ着いた女性の遺体を発見する。既に息絶え、手の施しようもない状態だった。一同はホテルに連絡を取ろうとするが、何故か誰の携帯電話も通じない。
しかしそれは、予兆に過ぎなかった。本当の異変は静かに、ガイたちに訪れていた。彼らがそのことに気づいたのは、しばらく物陰で遊んでいた子供たちが揃って、文字通りひとまわり成長した姿で現れたことがきっかけだった。
このビーチは、おかしい。だが、そう気づいたときには既に、誰もここから逃げ出すことは出来なくなっていた――
[感想]
『シックス・センス』の成功により名を上げたM・ナイト・シャマラン監督は、それ故に“サプライズ”に呪縛され続けたひとだと思う。
それ以降しばらくは観客の期待が高すぎ、監督の用意した趣向がその期待に及ばず不興を買う、ということがほとんどだった。サプライズや伏線の妙は効果を上げず、監督が好んで採り上げる“家族の絆”というテーマも、サプライズを超える充足感をもたらせなかった。結果、次第に人気は低迷し、しばらく“消えた人”のようになってしまった。
しかし、『ヴィジット』のスマッシュヒットで息を吹き返すと、続いて初期作『アンブレイカブル』と繋がる連作『スプリット』『ミスター・ガラス』で注目度を恢復した。依然として、そのサプライズの趣向や、いくぶん屈折したストーリーの構成に反発を招いていたきらいはあるが、自らの作家性への確信を新たにしながら、構成面でも演出面でも成熟を覗かせた仕上がりは、今後の活躍に期待を抱かせるに充分なものだった。
『ミスター・ガラス』により初期から抱いていた構想のひとつを完結させたシャマラン監督が新たに発表した本篇は、そんな期待を更に強める、新たなステージに突入した印象をもたらす出来映えだった。
これまでも特殊能力、超常現象を扱ことの多かった監督だが、本篇はそのなかでも突出してユニークであり、インパクトが強い。肝心の舞台であるビーチに入っていくまでが少々迂遠に感じられるが、いざビーチに入っていくと、矢継ぎ早にあり得ない事態が起こっていく。
予測不能の展開も巧いが、そこから法則性を見出していくのに、きちんと手順を踏んでいく脚本の繊細さも、以前に比べ洗練されている。特殊なルールをすぐに察するのではなく、周囲で起きた出来事から推理し、辿り着いていく。一見、突拍子もない出来事が相次いでいるように見えても、その配置は自然だし、わざとらしくなく登場人物たちをルールへと導いている。
特筆すべきは、本篇がそうした印象的な趣向、描写の積み重ねで観客を魅せ、決してサプライズの衝撃に頼らず作品の面白さを構築している点だ。
サプライズで注目されていた時期においても、シャマラン監督は構図や映像の美しさにこだわりを持っていたのだが、如何せん良くも悪くもサプライズの印象が強いために、ファンや丁寧に分析を試みるような観客以外はあまり意識していなかった感がある。そして、サプライズに至る伏線という性質が重視されたが故に、細かな場面の妙味や繊細さも、あまり観客には伝わっていなかった。
だが本篇は、サプライズ以上に、前提としたシチュエーションが強いことを活かし、インパクトの強い場面、印象深い表現を細かに鏤めている。楽しい時間が一瞬で暗転する死体発見のシーン、少しのあいだ姿を隠していた子供たちが瞬く間に成長していたことに気づくくだり、そして時間経過が早すぎるが故に起きる、壮絶な悲劇。監督は、この特異なシチュエーションだからこその見せ場を幾つも生み出し、様々な恐怖やドラマを演出している。
恐怖の種類も多彩だが、とりわけ、初期作品からしばしば重点を置いている“家族の絆”を巡るドラマも、この異様な状況だからこそ、他では観られない背景があり、強烈に目を惹く。たびの序盤、既に破綻寸前だったキャパ夫妻の関係が、救いようのない事態を間近に控えて、減点へと立ち戻るくだりなど、哀しくも感動的だ。従来のシャマラン作品にもこうしたエモーショナルな展開は用意されていたことはあるが、本篇ほど強烈に響いたことはない。
本篇にもちゃんとクライマックス、驚きと衝撃が待っている。だが、それが過程のもたらした情感を圧倒したりしない。はっきりと用意された伏線と絡みあいながら、一種の哀感すら称えて迫ってくる。
シャマラン監督は決して、自身の作家性を翻したりはしていない。むしろ、一時期の悪癖を蘇らせて、まあまあ出番のあるキャラクターとして劇中に顔を出すようなこともしている。しかし、稀有な着想を得た幸運もあって、監督は自身の作風を洗練し、成熟させることに成功させた。誰もが納得するレベルの傑作だ、とまではまだ言えないが、監督が今後も同じ路線を進んでいくなかで、更なる高い水準を示してくれるのでは、という期待を抱かせる作品である。
関連作品:
『サイン』/『ヴィレッジ』/『レディ・イン・ザ・ウォーター』/『ハプニング』/『エアベンダー』/『スプリット』/『ミスター・ガラス』/『デビル(2011)』
『リミッツ・オブ・コントロール』/『もうひとりのシェイクスピア』/『ファーザー(2020)』/『ヘレディタリー/継承』/『ジョジョ・ラビット』/『ザ・ランドロマット-パナマ文書流出-』/『X-MEN:ファイナル ディシジョン』/『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』/『アメイジング・スパイダーマン2』/『エクソダス:神と王』/『エヴァとステファンとすてきな家族』/『トゥルー・クライム』
『シャイニング 北米公開版〈デジタル・リマスター版〉』/『アザーズ』/『ハウンター』/『ミッドサマー』/『バクラウ 地図から消された街』/『ライトハウス』
コメント
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