TOHOシネマズ上野、スクリーン2入口脇に掲示された『フラ・フラダンス』チラシ。
企画&原作:BN Pictures、フジテレビジョン / 総監督:水島精二 / 監督:綿田慎也 / 脚本:吉田玲子 / チーフプロデューサー:高瀬透子 / プロデューサー:大島和樹、岩﨑紀子、伊東貴憲 / キャラクターデザイン&総作画監督:やぐちひろこ / 色彩設計:大塚眞純 / 撮影監督:大神洋一 / 編集:坂本久美子 / 音楽:大島ミチル / 主題歌:フィロソフィーのダンス / 声の出演:福原遥、美山加恋、富田望生、前田佳織里、陶山恵実里、早見沙織、相沢梨紗、上坂すみれ、三木眞一郎、中村繪里子、東山奈央、山田裕貴、ディーン・フジオカ / 制作:BN Pictures / 配給:Aniplex
2021年日本作品 / 上映時間:1時間48分
2021年12月3日日本公開
公式サイト : http://hula-fulladance.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/12/7)
[粗筋]
いわき市の高校に通う夏凪日羽(福原遥)は、3年生になってもまだ進路を決めかねていた。しかし、街でスパリゾートハワイアンズのフラガール募集のポスターを見て、にわかにフラガールを志す。
その時点でフラダンス未経験だったが、日羽は街の教室に通い勉強を重ねて採用試験に挑む。自信はまったくなかったのに、意外にも日羽は合格してしまった。
この年の新人フラガールは日羽含め5人。彼女らは入社とともに、施設内の養成学校に編入した。日羽たちはステージでも踊るかたわら、2年にわたってこの学校で先輩方の指導を仰ぐことになる。
最初のステージは入学から3ヶ月後。しかし、この年の新人たちの成長はあまり芳しくない。フラ甲子園で優勝経験のある鎌倉環奈(美山加恋)、本場ハワイからやって来たオハナ・カアイフエ(前田佳織里)はもちろん、ムードメーカーの多岐川蘭子(富田望生)、人見知りの白沢しおん(陶山恵実里)もフラダンス経験者だが、それぞれに問題があってなかなか揃わない。ダンス未経験の日羽に至っては尚更だった。
それでも、デビューの日はやってくる。全員が緊張で硬くなるなか、日羽は最悪の失敗をしでかしてしまう。その様子は、観客によって拡散され、日羽たちは“今まででいちばん残念な新人たち”のレッテルを貼られてしまう――
[感想]
東日本大震災から10年を経た今でも、かつての日常を取り戻せず葛藤を続けているひとはいる。たとえ、大きな影響を受けなかった、或いは日常を恢復したひとであっても、被災地に暮らす人びとにはいまなお何らかの影を落としていることはある。
震災時に損害を被り、営業が出来なかった福島県のスパリゾートハワイアンズも然り、だ。施設は修繕され営業を再開、休業中は各地を巡業して、PRとともに多くの被災者を励ますことに努めたフラガールたちも、とうに拠点に戻って公演を重ねている。だが、施設には今も生々しい痕跡が刻まれ、あの時に失われた大切なものは帰ってこない。
本篇は、そうした側面を真っ向から描いているわけではない。ただ、序盤では多く語られないヒロイン・日羽の周辺にも、劇中で描かれる施設の状況や従業員の心にも、震災が影を落としており、随所で顔を覗かせる。それっぽくはないが、本篇は確かに、あれから10年の区切りを描いた作品だ。
しかし、基本的には定石に則った、“お仕事”の裏側を描いた物語であり、職業としてフラダンスを選んだ若い女性達のドラマである。
本篇で中心となる新人たちはさすがに少々適性の悪さが強調されすぎているきらいもあるが、経験の乏しさや、実際に働く上でのミスマッチは、多かれ少なかれ誰しも通る道だ。メインである日羽は、採用されたのが不思議なほど経験が乏しく、フラの技術を持つ面々でさえも、協調性の乏しさや極度のあがり症、といったトラブルを抱えている。自らの不甲斐なさに嘆きながらも、実際に現場に出て、先輩たちの努力や裏方の苦労を目の当たりにすることで意識を変革し、次第に成長していく。
残念なのは、尺の制約もあってか、日羽以外の4人が変化するきっかけがあまり明確にされず、印象としてふわっと成長してしまっていることだ。とても細かにイベントがちりばめられているのは確かなのだが、観終わってから、どれが変化の契機だったのか? と振り返ろうとすると思い出せない。日羽が主人公であるがゆえに致し方のないところでもあるが、物足りなさや消化不良が残ってしまう。
もうひとつ気になったのは、アニメらしいファンタジー要素に取って付けた印象が強すぎることだ。劇中の扱いから察するに、意図としては日羽がフラガールを志した理由にも絡めて、物語の節目として活かしたかったのだろう、と思われるが、うまく噛み合わなかったのか、きちんと採り上げられる場面が少なすぎて違和感が著しい。もうちょっと別のパートにも絡んでくるとか、日羽自身が妄想であると思いながら相談や愚痴の相手にする、みたいな描写があれば物語のフックとして機能しただろうが、本篇の扱いでは、話を“いい感じ”に締めたいため、そしてラストシーンを鮮やかなイメージにするために、強引にねじ込んだように映ってしまう。その発想自体は否定しないが、もっと綺麗に収める工夫は必要だった。
近年の劇場用小野路なるアニメーションの例に漏れず、映像としての質は高い。きちんとした取材に基づく美術は、適度にデフォルメしつつ現地の空気をしっかり匂わせる。ダンスシーンは手描きとトゥーンレンダリングを併用しているようだが、どちらも自然で、後者を活かした自在なカメラワークが魅せるクライマックスのひと幕は、楽曲の意外性とも相俟って素晴らしい昂揚感を齎す。
かつての災害や、そこから立ち上がってきた人びとへの敬意も誠実さも感じる。だが、アニメという表現手法でそれらを活かそうと様々な工夫をした結果、バランスを欠いてしまった。登場人物たちの健気さと努力は応援したくなるし、観ているこちらも力づけられる内容だが、もう少し削ぎ落とすべきところを削ぎ落とし、深く掘り下げるべきところを明瞭にするべきだったと思う。
関連作品:
『UN-GO episode:0 因果論』/『若おかみは小学生!』/『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン 』
『アイの歌声を聴かせて』/『キラキラ☆プリキュアアラモード パリッと! 想い出のミルフィーユ!』/『どうにかなる日々』/『スター☆トゥインクルプリキュア 星のうたに想いをこめて』/『泣きたい私は猫をかぶる』/『きんいろモザイク Thank you!!』/『万引き家族』
『風に立つライオン』/『浅田家!』/『ポッピンQ』/『魔女見習いをさがして』
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