成り行きで、極上サスペンス2本立て。

 12日当日はここの記事を用意する余裕が皆無だったため、これを書きはじめたのは明くる日の21時以降でした。

 今年最後の年越しイベント参加の日でしたが、このところなかなか出かける時間が得られず、観たい映画が溜まっていたので、17時前に出かけて2本立て鑑賞へ。但しこの時点で、1本目については絞り込んでいましたが、2本目については決心がついておりません。

 まず赴いたのは、渋谷。現在ルパンIII世に盗まれているモヤイ像のあとを横目に眺めつつ向かったのは、初訪問のシネマ・アンジェリカ。……と言っても、かつてシブヤ・シネマ・ソサエティの名で営業していた劇場で、何度か訪問していたことに、あとで調べて気づきました。道理で見覚えがあるわけだ。ちょうど前の経営者が廃業した2005年に2回続けて訪れたのが最後だったので、記憶も薄れていたらしい。

 鑑賞したのは、ベルギーで国民の10%が観た、という数値を記録した大ヒット作、男たちが密会のために共同で購入した部屋に忽然と現れた女の屍体を巡って謎と秘密の暴露が繰り返されるサスペンスロフト.』(フリーマンオフィス・配給)

 エロティックな要素を交えた密室劇、というだけで食指を誘われて、すぐにDVD化されると知りつつも楽しみにしていた1本でした。もっと舞台を制限し、会話だけで見せるのかと思いきや、過去や周辺の情報もちりばめ、また事実の解釈よりは新事実を巧みな配列で披露していく、構成に面白さのあるサスペンスに仕立てていました。微妙に期待とは違っていたものの、次第に明らかになっていく各人の本性、どんでん返しが繰り返される終盤と、非常に見応えのある作品で、これはやっぱり観ておいて良かった。ベルギーという、日本人としてはあまり多く接しているイメージのない国から届いた作品ながら、都会を舞台にしているせいもあってか文化的な差違を感じることも少なく、たぶん国際的に受け入れられる資質を持った傑作だと思います。

 2本目は当初、すぐ近くの劇場で1時間後から始まるレイトショーを観るつもりでした。そのあいだに夕食を摂って、と考えていたため、シネマ・アンジェリカに向かう道々、周辺の飲食店を眺めていると、ほぼ真向かいにある比内地鶏の店がちょっと美味しそうで、価格的にも手頃だったので、映画が終わったらここで腹ごしらえをしようと決断、劇場を出るとさっそくそちらへ足を向けたのですが――さっきまで営業していたのに、いまは準備中。どうも飲み客相手の深夜営業が始まるまでの休憩時間に当たってしまった模様。

 やむなく、いつも立ち寄る蕎麦屋を目指したのですが、そういえば土曜日の夜はけっこう混む、ということをふと思い出した。ならば先にチケットだけ押さえておいて、ギリギリでも映画自体は観られるようにしておこう、といったん次の劇場に足を向けたところで、これよりは第2候補に考えていた作品のほうが観たいかも、と急に思い始めた。上映館は新宿武蔵野館、開映もこちらの第2候補より早いので、移動を考慮するととうてい食事する時間はない。どうするか、としばし悩んだものの、もう時間がないので、思い切って駅へと向かった。

 ものの20分ほどで新宿駅に到着、そして目的地の新宿武蔵野館へ。開映は20時40分だからギリギリで間に合った、と安堵して窓口に向かい、作品名を口にすると、返ってきた台詞は

「もう本篇が始まっていますので、入場できません」

 ……もう1本、万一のために時間をチェックしていた作品と、開始時刻を取り違えていたらしい。その万一の候補も劇場は同じ新宿武蔵野館、こちらはまだ間に合うので、最近忙しくてなかなか出かける機会もないし、観られるなら観とけ、とばかりに第3候補のチケットを購入してしまいました。

 そんなわけで、ほぼ成り行きで鑑賞した12日の2本目は、『殺人の追憶』のポン・ジュノ監督最新作、我が子の潔白を証明するべく奔走する母親の姿を滑稽に、そして哀切に描いたサスペンス母なる証明』(Bitters End・配給)

 こういう成り行きなので、期待云々どころか何も考えずに観たわけです。……お陰で衝撃はより大きかった。たまたまではありますが『ロフト.』と同じような手法を用いたサスペンスながら、題材の方向性やテーマの扱い方が実に対照的。都会を舞台にスタイリッシュに描いていたあちらに対してこちらは田舎町を舞台にとことん泥臭く事件を掘り下げ、丹念な伏線が齎す結末はまさに衝撃的。ミステリー・ドラマとしても秀逸なら、生きていく難しさ、人間の業の深さを抉り出した作品としても一級品です。

 期せずして、東西の優れたサスペンス映画を2本立てで観ることになりましたが、組み合わせ自体が想定外だった分、満足感もひとしおでした。というわけで、気分的にはお腹いっぱいになりましたが、夕食は食べていないので肉体的には空腹、故に次のイベントに赴く前に、ご一緒する某氏と落ち合って、ファスト・フードで軽く腹ごしらえをするのでした。

 続きは13日付でアップ致します。

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