原題:“Repo! the Genetic Opera” / 監督:ダーレン・リン・バウズマン / 原作戯曲・脚本・作詞作曲:ダーレン・スミス、テランス・スダニック / 製作:ダニエル・ジェイソン・ヘフナー、カール・マッツォコーネ、オーレン・クルーズ、マーク・バーグ / 製作総指揮:ダーレン・リン・バウズマン、ピーター・ブロック、ジェイソン・コンスタンティン、ジョナサン・マクヒュー、ティム・ペレン、サラ・グリーンバーグ / 撮影監督:ジョゼフ・ホワイト / プロダクション・デザイナー&第二班監督:デヴィッド・ハックル / 編集:ハービー・ローゼンストック,ACE / 衣装:アレックス・カヴァナー / メイク責任者:マリベス・クニゼフ / 音楽プロデューサー:YOSHIKI、ジョゼフ・ビシャラ / 出演:アレクサ・ヴェガ、アンソニー・スチュアート・ヘッド、サラ・ブライトマン、パリス・ヒルトン、オーガ、ビル・モーズリイ、ポール・ソルヴィノ、テランス・ズダニック / 配給:XANADEUX
2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間38分 / 日本語字幕:関美冬 / R-15
2009年3月21日日本公開
公式サイト : http://www.repo-movie.jp/
[粗筋]
遠くない未来の話。
多臓器不全を引き起こす伝染病が蔓延したことで、臓器の製造、販売を行うジーン社が急成長した。ジーン社は高額になる臓器移植の費用をローンで貸し付けることにより、多くの人命を救い政治的権限をも拡大していく。だがジーン社はそれを利用して、返済が滞った場合の臓器回収を合法化してしまった――結果、支払能力の無くなった人々は、“レポマン”と呼ばれる怪人の襲撃を受け、移植された臓器を抉り取られるのだった。
ここに、シャイロ(アレクサ・ヴェガ)という少女がいる。既にこの世にいない母親マーニから伝染した血液の病のために、父ネイサン・ウォレス(アンソニー・スチュアート・ヘッド)によって自宅に幽閉されていた。しかし、夢見がちな年頃の娘の心を、小さな空間に閉じ込めておけるはずがない。シャイロの、外の世界に対する憧れは日増しに膨れあがっていた。
だが、シャイロが知らないのは外の世界のことばかりではない。実は、シャイロの母親は、父が治療のためと思って薬を飲ませた結果、絶命したのである。更に、世間で怖れられているジーン社の臓器回収者“レポマン”の正体は、他でもないシャイロの父ネイサンだったのだ。
その悲劇の背後には、ジーン社のCEOロッティ・ラルゴ(ポール・ソルヴィノ)が存在する。かつてマーニはロッティの恋人であったが、ロッティがその才能を見込んでいたネイサンとの出逢いで心変わりをした。そして、ネイサンとの子を身籠もったマーニに、ロッティは凶悪な手段で復讐を目論んだのである。
成長したシャイロの面影は、在りし日のマーニに近づきつつあった。いま、籠の外を夢見る彼女に、ふたたびロッティが接近する……
[感想]
いちおうミュージカルという体裁だが、音楽はすべてロック調、衣裳やセットなどデザインはいずれもゴシック風に整えられ、身体を引き裂き臓腑を抉り取るといった酸鼻を極める描写が無数に鏤められた、独特の作りだ。恐らく、オーソドックスなミュージカルを好む人は受け付けがたい類の作品であろう。
臓器が売買の対象となっている社会、支払の滞った購入者から臓器を回収する行為、そして臓器売買を牛耳るジーン社のCEOロッティ・ラルゴの子供たちの異様な言動などなど、刺激的な描写が多いのだが、しかしホラーに馴染んだ観客からするとさほどインパクトはない。そうした要素を、挑発的でノリのいい音楽に乗せたことで、却ってマイルドにしてしまったような印象を受けた。
だがそれ以上に気に懸かるのは、ロック主体の音楽で隅々まで彩ったせいで、却って全体の流れが平板に陥ってしまったことだ。曲調自体は細かくコントロールしているものの、ほとんど休みなく音楽を使い、強烈な響くフレーズなどもないせいで、騒々しい状態で均一になってしまっている。よほど作中の何らかの要素に強く心惹かれるか、音楽のそのものを好んでいる人でもない限り、途中で退屈してしまう危険があるだろう。
ストーリーの構成も失敗しているきらいがある。シャイロにとって衝撃的な事実が、冒頭1/3くらいであらかた観客側に提示されるのだが、そのせいで謎で牽引することが難しくなっている。のちのち真実を知った際の登場人物の反応が印象的であればまだいいのだが、おおむね予想の範囲を超えず、やはり緩急を演出できていないのだ。
しかし、このように欠点は多く指摘できるが、そうしたところまで含めて、奇妙な魅力を放っているのも間違いない。オリジナルの戯曲執筆に携わり、出演もしてきたテランス・スダニック演じる“案内人”の奇妙な存在感、人の臓腑を抉り血飛沫に顔を汚すレポマンの表情が見えないからこそ滲む悲愴感、ジーン社の“子供たち”の整形癖や凶暴な言動に滲む残酷なユーモア、墓場や殺人現場など凄惨な場所ばかりを舞台としているが故の不気味なムード。ナレーション主体で物語る場面では、アメコミ風のイラストを用いて表現する趣向も面白い。
特筆すべきは、ヒロイン・シャイロのアメリカ映画には珍しい種類の生硬な可憐さが放つ魅力と、中心となる悲劇に直接的絡まず、だが重大な影響を及ぼすブラインド・マグの悲しみを湛えた存在感だ。
ストーリーの構成の失敗ゆえに充分に効果を発揮できなかった嫌味はあるが、シャイロの透きとおった純粋さは、どす黒く汚れた世界観のなかで強烈な光芒を迸らせている。クライマックス、可憐な顔立ちを血に汚して歩きだす姿は、希望と絶望が半ばしているだけになおさら美しい。
ブラインド・マグは、これが映画初出演というソプラノ歌手のサラ・ブライトマンが演じているが、その歌唱力は言うに及ばず、盲目であったために与えられた人造の虹彩が見せる非現実的な紋様や、だからこそ成立する曖昧な表情が湛える不思議な存在感が、やけに生臭い登場人物たちのなかで光っている。クライマックスで示す行動のインパクトは、そうしたキャラクター性とうまく溶けあっているからこそ、本篇のなかで格別な者になっているのだ。
率直に言って、宣伝で語っているほどオリジナリティは感じない。本篇はむしろ、様々なジャンルにある“様式美”を融合して、それぞれに異なる光を注いだものだ。本篇の価値は何よりも、そういうすっ飛んだアイディアを形にしたことにあると思う。
ホラー慣れしている者にはまだまだぬるく感じる一方で、やはり血に弱い人にはショックだろう。前述のように普通のミュージカルを好む人には受け付けにくい世界観かも知れないし、平気な人であっても構成の緩さには首を傾げる可能性がある。全体に未成熟、荒削りの感は否めないが、しかし不思議と心惹かれ、新しい発展を期待させる意欲作である。ホラー、スプラッタ、ゴシック、ロック・ミュージカル、このあたりのキーワードが二つ以上引っ掛かるような方なら、いちど観ておくのもいいだろう。
関連作品:
『SAW2』
『SAW3』
『SAW4』
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