『ヘルボーイ』

ヘルボーイ [Blu-ray]

原題:“Hellboy” / 原作:マイク・ミニョーラ / 監督・脚本:ギレルモ・デル・トロ / 原案:ギレルモ・デル・トロ、ピーター・ブリッグス / 製作:ローレンス・ゴードン、ロイド・レヴィン、マイク・リチャードソン / 製作総指揮:パトリック・J・パーマー / 撮影監督:ギレルモ・ナヴァロ / プロダクション・デザイナー:スティーブン・スコット / 編集:ピーター・アムンドソン / 衣装:ウェンディ・パートリッジ / 音楽:マルコ・ベルトラミ、バック・サンダース / 出演:ロン・パールマンジョン・ハートセルマ・ブレア、ルパート・エヴァンス、カレル・ローデン、ジェフリー・タンバー、ダグ・ジョーンズコーリイ・ジョンソン、アンガス・マッキネス、サンティアゴ・セグーラ、ビディ・ホドソン / スターライト・フィルム製作 / 配給:UIP Japan / 映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment

2004年アメリカ作品 / 上映時間:2時間12分 / 日本語字幕:林完治

2004年10月01日日本公開

2005年04月02日映像ソフト日本盤発売 [Blu-ray Discbk1amazon|DVD期間限定版:bk1amazon]

Blu-ray Discにて初見(2009/01/02)



[粗筋]

 今から60年前。敗色濃厚となったドイツは、最後の望みを魔術に託そうとしていた。当時、28歳の若さでアメリカ大統領顧問として働いていたトレヴァー・ブルーム教授は軍と共に密かに隠密行動に及ぶ組織を追跡し、山中で異様な儀式が行われている様を目撃する。ロシアのロマノフ朝を翻弄した妖僧ラスプーチンが、魔界から禍々しいものを呼び出そうとしていたのだ。混戦の結果、ラスプーチンは魔界の門の向こう側に吸い込まれ、事態は一時的に収拾したが、そこには角を生やし、片腕が岩のようになった、真っ赤な赤ん坊が現れていた。ブルーム教授はその赤ん坊を、自分の子供として育て始める。

 そして、現代。ヘルボーイ(ロン・パールマン)と名付けられた悪魔の赤子は、ブルーム教授が監督する、超常現象調査防衛局のエージェントとして、異界から訪れた怪物と戦う仕事に就いていた。ブルーム教授(ジョン・ハート)の薫陶によって心優しく育ったヘルボーイであったが、人とかけ離れた外貌故に隠遁生活を余儀なくされており、心が人間であるが故に悩みを抱えていた。

 超常現象調査防衛局の関係者であっても決して理解されていない彼の存在をずっと庇ってきたブルーム教授であったが、それもそろそろタイムリミットが迫っている――ブルーム教授は病魔に冒されていたのだ。ヘルボーイの身の回りの世話もしてくれる同僚は存在するが、もっと理解者を増やすべく、ブルーム教授は新たな職員を招き入れる。

 そうしてジョン・マイヤーズ(ルパート・エヴァンス)が配属されたその日、博物館に怪物が出現する事件が起きた。マイヤーズに、半魚人の姿をした同僚のエイブ(ダグ・ジョーンズ)らとともに現場に駆けつけたヘルボーイが遭遇したのは、神話の世界の怪物サミュエル。手製の聖水をベースにした銃弾も効かない相手に苦戦しながら、どうにか倒したヘルボーイであったが、追跡中彼はある人物と遭遇する。それはかつて、ヘルボーイを魔界から呼び寄せた張本人、ラスプーチンであった……

[感想]

 ギレルモ・デル・トロ監督は出身地であるスペインにおいては、独自の美学を感じさせる作品を発表しつづけている。スペイン内戦を背景にした『デビルズ・バックボーン』、『パンズ・ラビリンス』と、ホラーやファンタジーのガジェットを悲惨な現実に織りこんで、美しくも哀しい世界を構築して定評を得た。本篇はそんなデル・トロ監督がハリウッドで初めてスマッシュ・ヒットを放った大作である。

 ヨーロッパなどで高く評価された監督がハリウッドに招かれて大作を製作すると、大手スタジオの理論に振り回されて精細を欠く、という事態に陥りがちだが、そんな中にあって本篇はかなりギレルモ・デル・トロ監督の個性を留めた、幸運な例と言えよう。

 スペイン内戦のような背景がなく、陰謀そのものもファンタジックなものになっている分、全般に軽くなっているが、しかしデル・トロ監督らしい魅力的なクリーチャーがふんだんに登場し、独自の映像美も健在である。ハリウッド産アドヴェンチャー大作の系譜を辿る、クライマックスにおける地下迷宮の映像はわりとありがちだが、地下鉄構内に近接する場所に隠されていた敵のアジトの映像や、風情のある街を密かに飛び回るヘルボーイの姿などに、デル・トロ監督独特のセンスが光っている。

 シナリオの精度も非常に高い。葉巻とチョコバーを愛するヘルボーイの、“人間離れ”した外貌ゆえの悩みが実に解り易く描かれ、またそういうキャラクターであればこその風変わりな交流の様も巧みに点綴してある。現代に蘇り、ヘルボーイを利用しようとするラスプーチンの企みや、それとヘルボーイが対決する際の行動の裏付けについても丁寧に伏線が張られており、アメコミ原作ということを意識したシンプルさ、娯楽性を保持しつつも、実にデル・トロ監督らしい美学に彩られているのだ。

パンズ・ラビリンス』で極められた残酷な美しさ、という境地はここには織りこまれておらず、そういったものからデル・トロ監督を評価する目からはあまりに軽くなっているのが残念だが、その作家性をきちんと定着させた、里程標的な作品と言えるだろう。間もなく日本で公開される続篇にも期待を寄せたい。

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