『ブロークン』

『ブロークン』

原題:“The Broken” / 監督・脚本・製作:ショーン・エリス / 製作:レネ・バウセガー / 製作総指揮:フランク・コロー / 撮影監督:アンガス・ハドソン / 美術:モーガンケネディ / 編集:スコット・トーマス / 衣装:ヴィッキー・ラッセル / メイクアップ:ダレン・エヴァンス / 音楽:ガイ・ファーレイ / 出演:レナ・ヘディリチャード・ジェンキンス、ケイト・コールマン、アシエル・ニューマン、メルヴィル・プポー、エリオット・ホームズ、ウルリク・トムセン、スタン・エリス / 配給:LIBERO

2008年アメリカ作品 / 上映時間:1時間28分 / 日本語字幕:堤洋子

2008年11月15日日本公開

公式サイト : http://www.broken-movie.jp/

テアトルタイムズスクエアにて初見(2008/12/13)



[粗筋]

 放射線技師のジーナ・マクヴェイ(レナ・ヘディ)は、地下鉄から出たところで、赤いチェロキーを運転する、自分と瓜二つの女を目撃する。そのあとを尾けていったジーナが、もうひとりの自分の暮らすアパートメントで見つけたのは、自分の父ジョン(リチャード・ジェンキンス)とよく似た男性と並んで映る、もうひとりの自分。

 アパートメントを逃げ出したジーナは、動揺のあまり自動車事故を起こしてしまう。幸いにして怪我は浅かったが、見舞にやってきた恋人ステファン(メルヴィル・プポー)の言動に覚えた違和感をきっかけに、迷宮に嵌りこんでいく……

[感想]

 今年初頭に日本公開された長篇第1作『フローズン・タイム』で鮮烈な印象をもたらした、カメラマン出身の映画監督ショーン・エリスの第2作である。前作で示した圧倒的な映像の美しさを留めつつ、空想的でキュートな恋愛物であった前作から一転、緊張感に満ちたサスペンスを展開している。

 しかし、全体の印象は前作ほど芳しくない。最大の問題点は、スリラーに慣れた観客の目からすると展開が読めてしまう点だろう。途中で、ヒロインが覚えるのとは別種の違和感に、これはこうじゃないかな、と思うと、ほぼその通りの場所に着地してしまう。

 予測通りでも面白くなることは充分にあるのだが、本篇の場合、それを盛り上げるための周辺の展開がややモタモタしているために、作品全体としての緊張感を引き立てることに失敗している印象なのだ。ヒロインに直接関わらない部分での出来事が、ヒロイン自身の周辺にある危険を強調するところに達していないのが問題なのだろう。

 とはいえ、主題に関連するモチーフを随所に鏤め、妖しげな雰囲気を盛り立てる手腕は見事だ。ドッペルゲンガーを思わせる要素にカプグラ症候群、対称性に気を配った映像の数々など、物語の謎と直結していなくとも、それを仄めかす素材を無数に埋め込むことで、全体の幻想性を膨らまし、緊張感を引き立てている。

 そして映像美の観点からは、決して前作に劣っていない。前作のあのラストシーンが備える驚異的な美しさには至っていないが、場面の一つ一つに美学を感じさせる点においては前作以上とさえ言える。また、そうした美的感覚と、緊張感の演出や主題の表現がきちんと噛み合っている点は、物語としてのシンプルさを補って、作品に独特の存在感をもたらしている。

 珍しくシンプルになってしまった粗筋からも察せられる通り、未見の方には語りづらく、また決して完成度は高くないストーリーゆえに、積極的には薦めづらいのだが、美学を伴った映像やモチーフに拘った作品世界に惹かれる、という方であれば一見の価値はあるだろう――気に入るかどうかまでは保証しづらいのだが。

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