原作:超平和バスターズ / 監督:長井龍雪 / 脚本:岡田麿里 / 企画&プロデュース:清水博之、川村元気 / プロデュース:齋藤俊輔 / 演出:長井龍雪、黒木美幸 / キャラクターデザイン&総作画監督:田中将賀 / 美術監督:中村隆 / 色彩設定:中島和子 / セットデザイン:川妻智美 / 楽器設定:岩崎将大 / 撮影&CG監督:森山博幸 / 編集:西山茂 / 音響監督:明田川仁 / 音響監督:上野励 / 音楽:横山克 / 主題歌:あいみょん『空の青さを知る人よ』『葵』 / 出演:若山詩音、吉沢亮、吉岡里帆、松平健、落合福嗣、大地葉、種崎敦美、上村祐翔、吉野裕行 / 制作:CLOVER WORKS / 配給:東宝
2019年日本作品 / 上映時間:1時間48分
2019年10月11日日本公開
公式サイト : http://soraaoproject.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2019/10/14)
[粗筋]
秩父の高校に通う相生あおい(若山詩音)は、進路希望調査に“東京に出てバンドをやる”と答えた。小さい頃からベースを熱心に練習して、同世代よりも技術のあるあおいは現在誰とも組んでいないが、卒業後すぐにでも秩父を出るつもりでいた。
理由はたったひとりの家族、あかね(吉岡里帆)にある。いまのあおいと同じくらいの歳に両親をいちどに失い、それから13年、ひとりで姉妹の生活を支えるためにたくさんの我慢を重ねてきたはずの姉を、これ以上縛りたくない、と思っていた。
あかねの同級生で市役所職員の中村正道(落合福嗣)が企画に携わった“音楽の都フェスティバル”の準備で騒がしくなったころ、あおいは正道の口から“しんの”の名を聞いて、動揺する。
しんのは両親が亡くなるまであかねの恋人であり、あおいがベースを弾き始めるきっかけになった人物だった。ミュージシャンを志して秩父を離れ、東京に行ったきり音信は途絶えていた。
胸騒ぎを抑えるように、いつも練習で使っているお堂に駆け込んだあおいはベースを力強く奏でる。すると突然、お堂の奥から「うるさい」と怒鳴りつけられた。
声の主はなんと、しんの(吉沢亮)だった。13年前とまったく変わらない姿に驚き、慌ててお堂を飛び出して姉に知らせに行くが、どう伝えればいいか悩んでいるあいだに、正道が駆けつけてきて、急に手助けを求めてきた。
“音楽の都フェスティバル”の目玉として招待したご当地ソングの大家が、地元について知るために早々と来訪するのだという。出迎えの横断幕を掲げる頭数として連れ出されたあかねとあおいは、バックバンドとして帯同していた面々を見て、愕然とする。
ギタリストとして加わっていたのは、“しんの”こと慎之介――13年前よりも確実に老けた男が、そこにいた。
[感想]
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』、『心が叫びたがってるんだ。』に続く、“超平和バスターズ”による秩父を舞台としたアニメーションの3作目である。
同一スタッフが、大まかなトーンを変えることなく、一つの土地を舞台に作品を生み続ける、というのは他にあまり記憶がない。西部劇のようなジャンル映画ならまだしも、日本のアニメとしてはたぶん初めてではなかろうか。それくらい、このスタッフと秩父という土地の風土が合っていたのだろう。
かといって似たような話ばかりを量産しているわけでもない。本篇では初めて、大人になってからの生き方、街を出るか残るか、という題材を採り上げている。
題材も、その願望の象徴として“音楽”を用意したことも決して突出したアイディアではないが、このスタッフらしく、切り口はひとひねり加えられている。面白いのは、バンドに所属せず楽器を練習し続けているあおいが選択したのがベースである、という点だ。無論そこには、きちんと意味があるのだが、小柄な少女がパワフルな低音を奏でる姿には、熟成された感情を叩きつけるかのような気迫が漂っている。ストーリー的にも、人物像を浮かび上がらせる上でも絶妙な効果を上げている。
そして勿論、より粒立った趣向は、しんのの生き霊の存在だ。お約束として、本体が死んでいるつもりで接していると、ほどなく現在進行形で呼吸をしている慎之介と遭遇する。生きているなら、この“しんの”はいったい何なのか? その強烈な疑問符が、あおいの行動を促すとともに、観客の関心を強く惹きつける。そして、この“しんの”という存在が見事にあおいや、他の登場人物を縛るものを巧みに象徴しているのだ。
主題はありがちなものでも、着眼や切り口、そして着地点の選び方の独自性が際立っている。あまり詳しく書いてしまうと興趣を損なってしまうので、あまり語ることは控えたいが、本篇で何よりも粋なのはタイトルだろう。観終わったあとではさほど気に留めなかった、というひともいるだろうし、ピンと来なかったひともいるかも知れないが、あとで物語を振り返りながら、“空の青さを知る人”は誰だったのか? を考えていただきたい。主人公はあおいだが、タイトルに該当する人物は、少なくとも本筋のなかにおいては彼女ではない。実はこの物語はずっと、確かに“空の青さを知る人”を中心に動いている。
こういう切り口で語られる青春ドラマは、ありそうであまり記憶がない。地に足のついた表現と適度で節度のあるユーモア、そしてアニメーションらしい趣向を加えて書き出した作品もたぶん稀だ。同じスタッフ、同じ舞台で物語を繰り返し紡いだからこそ達し得た境地だろう。軽快でほろ苦くて、そして清々しい後味を残す、良質の青春ドラマである――しかも、現在進行形で青春まっただ中にいるひとびとだけでなく、そんな時期を通り過ぎてしまった、と思っているひとびとの青春も含んでいるのだから、実に憎い。
関連作品:
『銀魂2 掟は破るためにこそある』/『劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル』/『リズと青い鳥』/『ぼのぼの クモモの木のこと』/『プリキュアミラクルユニバース』
『初恋のきた道』/『サマーウォーズ』/『この世界の片隅に』/『ポッピンQ』/『レディ・バード』/『翔んで埼玉』/『HELLO WORLD』
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