『カメラを止めるな!』

TOHOシネマズ日本橋が入っているコレド室町2入口に掲示されたポスター、。

英題:“One Cut of the dead” / 監督、脚本&編集:上田慎一郎 / プロデューサー:市橋浩治 / アソシエイトプロデューサー:児玉健太郎、牟田浩二 / 撮影:曽根剛 / 特殊造形&メイク:下畑和秀 / ヘアメイク:平林純子 / 録音:古茂田耕吉 / 主題歌&メインテーマ:鈴木伸宏&伊藤翔磨 / 歌:山本真由美 / 音楽:永井カイル / 助監督:中泉裕矢 / 制作:吉田幸之助 / 出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山粼俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、浅森咲希奈、吉田美紀、合田純奈、秋山ゆずき / 製作:ENBUゼミナール / 配給:Asmik Ace×ENBUゼミナール

2017年日本作品 / 上映時間:1時間36分

2018年6月23日日本公開

公式サイト : http://kametome.net/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2018/08/07)



[粗筋]

 とある廃墟で始まったゾンビ映画の撮影は行き詰まっていた。監督(濱津隆之)が恐怖の演技にこだわるあまり、ワンシーンで42回ものNGを出し、演者はすっかり萎縮してしまっている。

 ひとまず休憩を入れたところ、建物の外で悲鳴が上がった。撮影助手が何者かに襲われ、腕をもがれた無惨な姿で絶命した――と思えば、突如として助手は蘇り、待機していたキャストとメイク係を襲う。

 ゾンビ映画を撮っていたはずが、気づけば撮影隊は、本物のゾンビの脅威に晒されていた――

[感想]

 いつになく短めの粗筋だが、実のところ、この程度ですら書くべきか否か悩んでいた。伊集院光氏が自身のラジオ番組にて、この作品は予備知識を限りなく少なくして観たほうがいい、何ならポスターのコピーも語りすぎてる、といった趣旨の話をされていたが、実際に観てみるとまったくその通りで、気になるのなら上の粗筋、それどころかこの感想ももう読むことなく、まずは劇場に足を運ぶなり何なりして、現物に触れたほうがいい。

 そういう類の作品なので、感想の書き方も非常に悩ましい。極力、内容に触れすぎないように本篇を語るなら、この作品は、ものを創造するための工夫や努力、誠意といったものが、そのままでエンタテインメントとして昇華されたものなのだ。

 まず度胆を抜かれるのが前半1/3以上を使って描かれるパートだろう。このシチュエーションだからこその緊迫感が、採り上げたシチュエーションも相俟って存分に効果を上げている。

 しかし、ここは実のところ、導入に過ぎない。ぶっちゃけ、この冒頭の趣向だけなら前例は多々あるし、もっと長尺で実践した作品も存在している。しかし、本篇はこの序盤のくだりが、中盤の展開によって、新たな表情を見せていく。

 驚くべきはその緻密な構成、計算ぶりである。いちど観て解らなくとも、二度、三度と続けて鑑賞すれば、その厄介さは理解できるはずだ。きちんと細部まで考え抜き、綿密にリハーサルをしたうえでなければ、この作品は撮りえないのである。表面的には、劇中のシチュエーション通りのライヴ感を感じさせ、随所にアドリブめいた自然さを醸しだしているが、そういうかたちに持っていくためには、役者もスタッフも自分の役回り、関与するタイミングをしっかり叩きこんで置かねばならない。自然に見える、ということ自体がそもそも賞賛に値するのだ。

 序盤のワンカットの場面を観たとき、その緊張感に満ちた展開に拳を握りしめながら、恐らくは何らかの違和感を抱くはずである。しかし、そこで覚えた違和感のほとんどは、終盤で説明がつく。そうしてたくさんの違和感が解き明かされることで、本篇は序盤の興奮を再構築すると共に、得がたい爽快感を醸成していく。

 しかもそこに、きちんとドラマ性も盛り込んでいる。ここもあまり詳述はしたくないのだが、モチーフ自体は有り体ではあるものの、現実を踏まえ、的確に嵌め込んでいるからこそカタルシスに繋がっているのである。

 ここで描かれているのは、ごく限られた世界の話のようでいて、本質的には様々なジャンルの“物作り”に通じる出来事とも言える。それが、随所で観客の感情を刺激し、最後には痛快な余韻を残す。短時間に凝縮された多くの努力が明快に報われるさまは、そうしたことを日々繰り返しているひとに、極上の爽快感をもたらしてくれるはずである。

 ……とりあえず頑張ってはみたが、やはり内容になるべく触れずに書くのは難しい。これでもかなり書きすぎているように思う。繰り返すが、気になるようなら是非とも自らの眼で確かめていただきたい。低予算ではあるが、しかしそんなことなどどうでもいい、と思えるほど、堂々たるエンタテインメント作品であることは確かだから。

関連作品:

ゾンビ [米国劇場公開版]』/『ショーン・オブ・ザ・デッド』/『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』/『REC/レック』/『SUPER8/スーパーエイト』/『新選組オブ・ザ・デッド

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