原題:“Wreck-It Ralph” / 監督:リッチ・ムーア / 原案:リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン、ジム・リアドン / 脚本:ジェニファー・リー、フィル・ジョンストン / 製作:クラーク・スペンサー / 製作総指揮:ジョン・ラセター / アート・ディレクター:マイク・ガブリエル / 共同アート・ディレクター:イアン・グッディング / ヴィジュアル・ディヴェロップメント:コーリー・ロフティス / アニメーション・スーパーヴァイザー:レナード・ドス・アンジョス / 音楽:ヘンリー・ジャックマン / 挿入歌:AKB48『Sugar Rush』 / 声の出演:ジョン・C・ライリー、サラ・シルヴァーマン、ジャック・マクブレイヤー、ジェーン・リンチ、アラン・テュディック / 日本語吹替版声の出演:山寺宏一、諸星すみれ、花輪英司、田村聖子、多田野曜平、友近、森三中(大島美幸、黒沢かずこ、村上知子)、ハリセンボン(近藤春菜、箕輪はるか) / 配給:Walt Disney Studios Japan
2012年アメリカ作品 / 上映時間:1時間41分 / 日本語字幕:杉田朋子
2013年3月23日日本公開
公式サイト : http://disney.jp/sugarrush/
TOHOシネマズ有楽座にて初見(2013/04/01)
[粗筋]
どこにでもあるゲーム・センター。陽が落ち、営業時間が終わると、LANケーブルで繋がれたゲーム機の登場人物たちはステーションを介して互いの世界を行き来し、交流を重ねていた。
今年で誕生30年を迎えた『フィックス・イット・フェリックス』は、暴れん坊ラルフ(ジョン・C・ライリー/山寺宏一)が壊したマンションを、魔法のハンマーを持つ主人公フェリックス(ジャック・マクブレイヤー/花輪英司)が直していく、というゲームである。マンションではフェリックスを囲んで住人たちが記念のパーティを開いているが、ラルフだけは招待されていない。毎日のように屋上から投げ捨てられ、ゴミ山で暮らし、普段から怖がられ仲間はずれにされる。ラルフはこんな扱いにすっかり嫌気が差し、自分もフェリックスのようなヒーローになりたい、と考えていた。
そのためには、プレイヤーキャラが勝ったときに得られるメダルが必要になる、が、悪役のラルフには当然その資格はない。酒場で愚痴っていたラルフは、『ヒーローズ・デューティ』というゲームの兵士から、そのゲームの壁をよじ登ればメダルが手に入る、と言われ、ゲーム世界のルールで固く禁じられている、他のゲーム空間への潜入を試みた。
自分たちの世界とは段違いの技術と暴力的な世界観に動揺したラルフだったが、ゲーム終了の隙をついて舞台となる塔の頂上まで登りつめ、見事にメダルを手に入れる。しかしそのとき、『ヒーローズ・デューティ』のモンスター、サイ・バグの卵を踏み付け、うっかり孵してしまった。不穏な気配に、脱出用のマシンに飛び乗って離脱を図るが、そのなかにサイ・バグが紛れ込んでおり、襲われたラルフは、気づかぬうちにまた別のゲームの世界に侵入してしまう。
不時着の衝撃で弾き出され、ようやくサイ・バグの脅威から逃れたラルフが冷静になって辺りを見まわすと、そこはすべてがお菓子で出来たレーシング・ゲーム『シュガー・ラッシュ』の世界だった。落ちたときの衝撃で、せっかく手に入れたメダルを落としてしまったラルフは慌てて探し始めるが、そのとき、ヴァネロペ(サラ・シルヴァーマン/諸星すみれ)というちょっと変わった女の子と出逢う……
[感想]
ゲーム版『トイ・ストーリー』と呼んでしまっても、差し支えはないだろう。ただ、だから二番煎じだ、と早合点して観ないのはあまりにもったいない、上質の仕上がりである。
ひとの見ていないところでオモチャたちが勝手に遊んでいるなら、ゲームのキャラクターたちも、稼働を終えたあと、回線を経由して交流しているはずだ、というまでなら誰でも思いつく。しかし、その発想を映画のストーリーを支えるに足るものにするための工夫、配慮を行き届かせるのは楽ではない。ディズニーおよび、現在はその傘下となったピクサーは、こういうディテールの構築に優れているが、本篇においても手腕を遺憾なく発揮したかたちだ。
ゲームのキャラクター同士の交流が可能でも、それぞれのゲームのなかには、相手の世界に持ちこめば致命的な影響を及ぼすものがあるから、互いに持ち込みは禁止。また、懐かしい類のアクションゲームなら幾らプレイヤーキャラが死んでも復活するが、他のゲームの世界では死んだらおしまい。考えてみれば当たり前ではあるが、こういうルールをきっちりと決め、それをちゃんと物語のなかで活かしている。
ルール以外のところで目を惹くのは、ゲームセンターの営業終了後、各ゲームの悪役たちが集まっているくだりだ。作品の特性を表現する必要から、と解釈することも可能だが、しかしこの場面、やり取りがまるっきりグループカウンセリングだ、というのがおかしい。恐らく悪役だからこそ溜まるストレスがあるはず、それを解消するために何をしているのか? という前提があるのが解る。日本ではこういうグループカウンセリングは一般的とは言い難いが、それでもシチュエーションの滑稽さは伝わる。
そうした練り込んだシチュエーションのそれぞれが、その場限りで終わることなく、きちんとドラマ作りにも、その後の展開の伏線としても機能している。普通のこと、といいたいところだが、しかし本篇の鮮やかさには終始唸らされる。ゲームの中の住人を描いているのだから、プレイヤーが覗きこむモニターを使って、逆にキャラクターたちが外の世界を眺めている、というのも当然と言えるのだけれど、こんな有り体の事実まで、本篇は物語にきちんと奉仕させている。単なる挿話のひとつかと思っていた事実がのちのち効いてくる、という趣向もあって、終始驚きと興奮が待ち受けているのだ。
ただ、こういうフィクションに馴染んでいると、どうしても引っかかる描写が序盤にある。それは、ゲーム内の“同僚”たちが、悪役であるラルフの、終業後の接し方だ。確かに作中は悪役だし、設定通り暴れん坊であるのも間違いないのだろうけれど、終業後に筐体の枠を超えた交流があり、それぞれにねぎらいあっている、という世界観からすると、正直なところラルフよりも、ゲーム内の同僚たちの態度のほうがよほど問題があるように見える。率直に言えばあれはほとんどイジメで、たとえフィクションと解っていても、またこれがディズニーのアニメーションで、ハッピーエンドは約束されていると承知していても、眉をひそめるひとはあるのではなかろうか。ヴァネロペに対する扱いも、少し過剰なきらいはある。
しかし、そういう嫌味を払拭してしまうほどに、過程のドラマ表現は巧みだし、難点があるが故に終盤のカタルシスが増しているのも事実なのだ。自らの設定、特徴故のジレンマに苦しむが、だからこそヴァネロペという、自分と同様にはみ出してしまった存在と共鳴し、“認められる”心地好さを知る。幾つもの伏線が集積し、違和感なく盛大に描き出されるクライマックスは、そうした過程の不満を一気に解消してしまうほどに爽快だ。
最近はいささか低調になっているものの、ゲームの世界において、日本が世界に与えた影響は極めて大きい。本篇のスタッフもそれは重々承知していて、日本でお馴染みのゲームキャラクターが多数ゲスト出演しているばかりか、多くのモチーフがちりばめられている。序盤の悪役の会合では『スーパーマリオブラザーズ』のクッパや、『ストリートファイター』のキャラクターが顔を連ね、仕切り役である『パックマン』のモンスターの小部屋が会場として提供されている。ソニックやディグダグなどがちらりと姿を見せている。更には邦題にも採り上げられた中盤以降のメイン・ステージ『シュガー・ラッシュ』のゲーム世界の美術やキャラクター・デザインは日本のお菓子や原宿のファッションをベースにしているそうで、日本人にとっては非常に観ていて親しみやすく、居心地のいい作品でもある。デザインは子供にも親しみやすい一方で、ゲーム関連のモチーフは昔からゲームに親しんでいる大人にとっても馴染みのあるモノや、“コナミコマンド”と呼ばれるアレまで登場していて、ストーリーの完成度も含め、決して子供騙しには終わっていない。
仮に日本人でなかったとしても、この徹底した組み立て、カタルシスに向けた揺るぎのない構造には魅せられるはずだ。アカデミー賞こそ逃したものの、ディズニー映画史上最高の興収を上げたのも宜なるかな。ディズニーの底力を見せつけられた心地がした。
関連作品:
『ボルト』
『トロン』
『トロン:レガシー』
『ラ・ワン』
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