監督&構成:青木勝紀 / プロデューサー:丹羽多聞アンドリウ 山口幸彦、後藤剛 / 撮影:今宮健太 / 音楽:スキャット後藤 / 出演:ギンティ小林、田野辺尚人、市川力夫、青木勝紀、後藤剛、山口幸彦、はち、木原浩勝、中山市朗、小塩隆之、mono(神聖かまってちゃん)、劔樹人、SRシンレイノラッパーZ / 協力:映画秘宝 / 制作プロダクション:シャイカー / 製作:KING RECORDS、BS-TBS / 配給:KING RECORDS×Astaire
2012年日本作品 / 上映時間:1時間40分
2012年7月28日日本公開
2012年8月11日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon]
シアターN渋谷にて初見(2012/07/28) ※初日舞台挨拶つき上映
[粗筋]
実録怪談本『新耳袋』に登場する心霊スポットをすべて訪れてみたい――そんな思いから始まった、映画秘宝スタッフを中心とする『怪談新耳袋殴り込み!』。ビデオリリースが好評を博し、2011年には遂に劇場公開を果たしたが、その勢いは留まるところを知らず、2012年もふたたび2部構成でスクリーンに帰ってきた。
2012年最初の舞台は、東海道。最初に訪れたのは、シリーズのお膝元ともいうべきKING RECORDSの地下スタジオである。新耳Gメンのスターであるギンティ小林、プロデューサー山口幸彦も奇妙な音を聴いたことがある、というこの場所に、まずは殴り込みをかけた。
しかしここが、実に恐るべき場所であった。その場で奇怪な音を幾度も聴き、複数のカメラにもきっちりと記録されている。編集スタッフとして携わり、今回監督に抜擢された青木勝紀は、この場に相応しいミッションを用意してきたが、ギンティはここで生贄――もとい、スペシャル・ゲストをミッションに招くことを提案した……
[感想]
本篇成立の背景については粗筋と、劇場版先行作『<関東編>』『<沖縄編>』の感想をご覧戴きたい。
つまるところ、いい大人のバカ騒ぎを愉しむシリーズであり、率直に言えば怖さを愉しむものではない。そこを勘違いすると非常に不満を覚えるが、約束さえわきまえていれば今回も外さない。
……とは言い条、本篇はまさに“ガチンコ”で撮影を行っているために、殴り込みを試みたからといって、怪奇映像が確実に撮れるというものではない。実際、本篇においてもかなりあちこちに赴き、様々な出来事に遭遇しているが、その成果については否定的な見解を抱く人もたぶん多いだろう。特に、せっかく映像媒体で製作しているというのに、成果と呼べるもののほとんどが音声であることはかなり残念なところだ。
また、バカ騒ぎが行き過ぎて、本人たちの味わっている恐怖を追体験するのも難しい、という箇所が見受けられるのももったいない。とりわけ、SRシンレイノラッパーZが登場するくだりは、身内受けが行き過ぎ、シリーズを初期から辿っている私でもついていけないものがあった。回を追うごとに色々な約束が蓄積して内輪にばかり通用するネタが増えてしまい、それに拘ってしまうのも理解出来るし、紅一点である市松人形“はち”のように、出所を知らなくても効果を上げている要素もあるが、もう少しセーブしていいノリもあると思う。
しかし、そういう欠点を考慮しても、本篇の冒頭で訪れたキングレコードの地下スタジオと、終盤のトンネルでのひと幕は強烈だった。やっていることは相変わらずバカだし、観ていて笑えるのだが、それでいて怖ささえひしひしと伝わる。その場にいる全員が怪異を実体験してしまった直後に“ミッション”を仕掛け、その過程で更に異様な出来事が記録されてしまうという顛末。トンネルでの“ミッション”は更にバカバカしいが、深夜、まったく灯りの点っていないトンネルであれをやらされると思うと、仮に何もない状況でも怖いだろう。そのうえ、気配があるから余計にパニックを起こしているのが伝わる。シリーズを続けて追っている者にとっては、あまりにレアな光景が目撃出来る、という意味でも必見である。
今回、監督がスタッフ生え抜きとも言える青木勝紀に変わったことで、“ミッション”の見せ方がこぢんまりとなり、全体に自主映画っぽい雰囲気が強まったように思う。ただ、これは決して悪いことではない。予算をかけず、しかし考えようによっては命を惜しまず特攻していることが窺える。それ故に親近感を覚え、笑いも恐怖もより観る者に近づいたような感覚をもたらしている。
翻って、安っぽさもバカっぽさも増大したのも確かで、従来の悪ふざけのムードに親しめずにいた人だと尚更に合わなくなる可能性もあるが、楽しみ方を知っていれば問題はない。
……何にしても、単純に“怖さ”だけを求めているなら、間違いなく楽しめない。DVDを借りるなり購入するなりして、自宅にてひとりで、或いは友人たちとツッコミながらバカ笑いして堪能するのが正しい作品であることは相変わらずだが、現場に持ち込んだカメラが記録した空気を味わい、笑いも恐怖もより強く実感したい、と思うのなら、劇場で観てみるのもいいだろう――如何せん劇場公開の期間が短いので、ここをご覧になっている時点で手遅れになっている可能性は非常に大きいが。
関連作品:
『怪談新耳袋 怪奇』
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