『REC/レック3 ジェネシス』

『REC/レック3 ジェネシス』

原題:“[REC3] Genesis” / 監督:パコ・プラサ / 脚本:ルイス・ベルデホ、パコ・プラサ / 製作:フリオ・フェルナンデス / 製作総指揮:フリオ・フェルナンデス、カルロス・フェルナンデス、アルベルト・マリーニ / クリエイティヴ・プロデューサー:ジャウマ・バラゲロ / 撮影監督:パブロ・ロッソ / 美術監督:ヘマ・ファウリア / 編集:ダヴィガリャルド / 視覚効果監修:アレックス・ヴィリャグラサ / 特殊メイク効果:ダヴィ・アンビット / 音楽:ミケル・サラス / 出演:レティシア・ドレラ、ディエゴ・マルティン、イスマエル・マルティネス、アレックス・モネア、セニョール・ベ、エミリオ・メンチェッタ、ハビエル・ルアノ、クレア・バシェット / 配給:Broadmedia Studios

2012年スペイン作品 / 上映時間:1時間20分 / 日本語字幕:岡田壯平 / R-15+

2012年4月28日日本公開

公式サイト : http://www.rec3.jp/

ヒューマントラストシネマ渋谷にて初見(2012/04/28)



[粗筋]

 クララ(レティシア・ドレラ)とコルド(ディエゴ・マルティン)にとってそれは、記念すべき日になるはずだった。

 双方の親族、友人が大勢集った、豪華な結婚式。お祭り騒ぎのなか、異変は突如として露見する。朝方、犬に手を噛まれた、と言っていたぺぺ叔父がホールの2階から転落、心配して駆け寄った妻の喉笛を噛み千切った。騒然とする式場に、外から異様な興奮状態の人々が乱入、出席者たちを次々と襲いはじめる。

 阿鼻叫喚の惨状となった会場から必死で逃げ出した結果、コルドは新妻クララを見失ってしまった。しかし、友人や家族たちから一転、怪物と化した者たちで埋めつくされたホールに戻ることは出来ない。コルドは換気ダクトからの脱出を試みるが、既に建物の外にも、生ける屍が跋扈していた――

[感想]

 いわゆるP.O.V.――作中に存在するカメラで物語を追うスタイルで製作されたホラー映画として高い評価を得たシリーズの第3作である。

 前作までは、『機械じかけの小児病棟』などで知られるジャウマ・バラゲロと共同での監督だったが、今回は片割れであるパコ・プラサ単独の監督作品となっている。もともと二人三脚で作品世界を構築してきた監督なので、前作までの雰囲気、押さえるべきポイントは決して外していない、とは言い条、本篇は前2作と比較して、大きな違いがある。

 かなり早い段階で、P.O.V.のスタイルを放棄しているのだ。

 前作までの舞台であるアパートから離れ、同時刻の別の場所における惨劇を扱った格好だが、作品世界がリンクしていることを観客に受け入れられやすくするためにだろう、序盤こそ複数のカメラで結婚式の様子から、会場に感染者が溢れかえるまでの流れを追っているが、中心人物である花嫁と花婿が引き離された直後ぐらいで、通常のドラマ仕立ての撮影方式に移行する。

 このP.O.V.のスタイルで、惨劇の舞台の臨場感を味わうことを愉しみにしていた人には残念なところだろうが、しかし全体を眺めると、早い段階でこの方法を取りやめたのは賢明だった、と感じる。

 主観視点のスタイルは圧倒的な臨場感を齎す一方で、カメラに視点が制約されてしまい、たとえば登場人物に脅威が迫り来る様子を描き出すなど、登場人物と事象とを同時に捉えて緊張や恐怖を表現する手法が使いにくい。本篇はそれ故にやりづらかった、細かな仕掛けを随所に配している。

 そもそもどうしても必要な“カメラ”という存在を持ち込むための不自然な振る舞いも必要なくなったので、前作までに提示された、このシリーズ独特の設定を活かした奇怪なシチュエーションを、自在に取り込んでいるのが出色だ。あまり具体的には触れないが、鏡に映り込む姿の表現や、クライマックスでのある趣向などが最たるものだろう。辛くも建物を脱出しようとする人々が目撃する光景は、往年のホラーに対するオマージュを滲ませつつも壮絶な美しささえ湛えている。

 そして、これも主観撮影の方法論では難しかった、えぐいユーモアを鏤めているのも、本篇の特徴であり魅力のひとつである。ホラー初心者、フィクションであっても血を見るのに慣れていない人には充分おぞましい内容だが、ホラーずれした者、許容力のある人には、笑いを誘われるシーンが少なくないはずだ。特に、予告篇でも断片的に用いられている、花嫁の“覚醒”と言うしかないシークエンスなど、残酷であるが人によっては笑いが止まらなくなるに違いない。

 そんな具合に、シリーズが本来備えていながら、主観撮影であるがゆえに活かし切れなかったポテンシャルを、本篇は充分すぎるほど引き出している。それでいて冒頭の、P.O.V.スタイルにて撮影されたパートの描写もほとんど無駄になっていない点にも好感が持てる。

 そうして、巧みにツボを押さえたうえで辿り着くクライマックスがまた素晴らしい。結婚式、というシチュエーションをこれでもか、とばかりに利用した嗜虐的な出来事の数々は、一部の人の表情を歪めさせる一方で、ある種の荘厳ささえ感じさせる。結局はホラー映画らしく悲劇に終わるのだが、この結末はいっそ清々しくさえあるほどだ。

 P.O.V.という方法論を完成させ、一気に普及させた感のある前作、前々作の功績は疑うべくもないし、物語としても、その制約のなかにあっては見事に組み立てている。だが、そうして構築された方法論、世界観に敬意を表しながらも、突き抜けてしまった趣のある本篇は、ホラー映画としては前2作を凌いでいる、とさえ言い切りたい。

関連作品:

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