妖・怪談義の帰り道のこと。
降車駅の都合で、後ろのほうの6ドア車両に乗り、いつものごとくドアのそばで本を読みながら到着を待つ。と、三人掛けのシートを挟んだ隣のドアの付近で水音がする。何気なくそちらを見遣ると。
若者が、ドアに向かって、激しく リ バ ー ス していた。
固形物が殆ど混ざっていなかったあたり、既に吐き尽くしていたか、酒ばかり胃に入れていたのだろう。紙のように白い顔色をして、呆然とドアにもたれかかっている。間もなく次の駅に着き、私から見て反対側のシートに座っていた人が降りていったので、入れ替わりにその若者が腰を下ろした。
なんとも微妙な沈黙が車内を支配している。運悪く隣の席になってしまった青年が、指先も思うままにならないらしい若者のためにポケットティッシュを引っ張り出して渡していた。それを受け取って、汚れたズボンやドアを拭いている若者。誰かが気を遣ったのか、ほんのりと車内には芳香剤らしき匂いが拡がっていた。
こちらも体調が万全でなく、移動のあいだに駅員や車掌と出会うこともなかったので、処置を頼む余裕も機会もなく、その後どうなったのかは知らない。ただ、席に座ったあと、背中を折りシートの脇に片腕をだらんと垂らしていた彼が無事に降りられたのか、そして扉付近の汚れは(もし他の誰かが駅員などに注進していたとして)どう処置したのか、未だに気になって仕方ないのだった。
いちおう見出しで警告はしておきましたが、誤って食事中にも拘わらず「続きを見る」をクリックしてしまった方、及び日付への直接リンクでここを見てしまった方、ごめんなさい。
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