千葉聡『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』

千葉聡『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』(Amazon.co.jp商品ページにリンク) 『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』
千葉聡
判型:新書判
レーベル:ブルーバックス
版元:講談社
発行:2020年3月1日
isbn:9784065187210
価格:1100円
商品ページ:[amazon楽天BOOK☆WALKER(電子書籍)]
2025年5月15日読了

 古生物学を経て進化学に携わった著者が、雑誌『本』に寄せたエッセイを再編、ダーウィンによる進化論の発端と後世の発展、更に著者自身の研究歴をもとに、進化論の変遷を紐解いた1冊。
 SNSで進化論についての話題が出た際、本書の宣伝が貼られていて、興味を抱きBOOK☆WALKERのリストに加えておいた覚えがある。実際に購入したのはしばらくあとだったし、きちんと読み始めたのもだいぶ遅れた。本書の内容を敷衍すると、現在の進化学はまた“進化”を遂げていると思われるが、世間の認識がダーウィンの名前に留まっていることへの懸念や、その後継者と言える多くの学者たちの探求、努力がいま我々の知る進化論を形作り、いまなお掘り下げられ続けていることが感じられる内容となっている。
 正直なところ、ダーウィンについての誤解のくだりがまず意外だった。ダーウィンが進化論の着想と確信を得たのが、ダーウィンの名が冠せられたダーウィンフィンチでも、その特異性の明瞭なウミイグアナでもなく、ガラパゴスマネシツグミだったということ、現在はざっくりとダーウィンの功績とされる進化論の内容が、後継者たちの研究成果と、彼らのダーウィンに対する敬意によってそんな風に認識されるに至ったことは、門外漢が本書から得られる驚きであるが、しかしその一方で、納得も生まれる。
 本書の内容は次第に著者がどのように進化学者になっていったか、そして著者の研究に関わった次世代がどのように進化学を発展させていったか、に移っていく。ここで面白いのは、ほとんどのことが著者の想定通りには展開していないことだ。もともとは、古生物学者であった著者が思わぬところから進化学者として成果を上げ、その進化学の研究においても、有能な後進が挙げた成果が決して想定通りではなかったりする。そういう経緯を包み隠さず描く潔さも見事だが、それを読み物として昇華させ、進化学への関心に繋げていく語り口も見事だ。
 かなり省力を加えているし、簡潔にまとめてはいるが、カワニナやカタマイマイの進化、種の分岐や交雑についてのくだりは専門用語も多数含まれているので、このジャンルについての知識が乏しすぎる私にはすっと頭に入らず、少々まごついたのも事実だ。しかし、そんなレベルでも丁寧に読んでいけば理解は出来る。進化というものの複雑さと興味深さ、それこそ進化体系のように枝分かれしていくことが窺えるが、だからこその面白さも実感出来る。
 進化論の全体像までは解らない、というか、それを知るよしもないから学問は面白いのだが、そのとば口としての役割は充分に果たせる1冊だと思う。何となく進化論に興味はあるけれど、漠然としか把握していない人がまず第一歩を踏み出すにはたぶん丁度いい。


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