
リヨに加えて、松江中の小谷くんが介入し、にわかに騒がしくなったトキとヘブンの周辺です。
とは言え、恋愛ドラマというわけではありませんから、感情的な諍いが生じるわけでもない。まだ江戸時代の感覚も残っているなかで、リヨのアプローチだって一定の節度を保っているし、小谷くんだって学生丸出しの接触の仕方をしてる。そもそもヘブン先生、今週は半分以上、寒波にやられて寝込んでたし。
ただ、そんな中で、トキとヘブン、双方の心のざわめきを、控えめだけど随所に織り込んでいて、繊細な情緒も匂い立つ回になっている。ヘブンの風邪が快癒したら小谷と出かける、というトキを快く送り出しながらも、やけにそわそわとしているヘブンの描写がもどかしくも微笑ましい。
それにしても第50回、トキと小谷くんのデートは、如何ともし難いすれ違い、の典型みたいな内容でした。怪談好き故に、前にいちど訪れた場所でもはしゃぐトキに対し、あからさまに引いている小谷。挙句の小谷の行動は、ある意味当然だし、当時の知識階級の発想では充分にありうるけれど、それにしたって失礼です。直後の勘違いしまくった物言いも、トキの家族の態度から誤解した結果ではあります……が、さすがに思い上がりが甚だしい。面白かったけれど、小谷くんの印象はあんましよくない締めくくりでした。彼、このあとも出てくるんだろうか。
ついでに言えば、このくだりを観て、なんで清光院が実物と異なる佇まいなのか、がちょっと頷けた気がします。現在残る清光院、そして松風が逃げ込んだ位牌堂は整備されており、あんな荒れ寺ではない。そのまま再現すると怪談っぽい雰囲気は出ないし、小谷くんのあの行動が引き立たないのです。
あと触れておきたいのは、ヘブンさんの絵。実際に八雲は、聞いた話や、その中に出てくる妖怪をスケッチしていて、このドラマの放送に先駆けて、八雲が関心を抱いた妖怪の解説と共に収録した『小泉八雲の妖怪図鑑』という書籍にまとまっています。小泉八雲記念館や各種展示でもあんまりお目にかかることがない資料なので、気になる方はお手にとってください。
恋の嵐は来週も吹き荒れそうな予告をしてましたが、小泉八雲とその作品に触れた身として楽しみなのは、いよいよ『怪談』を生む、八雲とセツの創作スタイルがドラマの中で描かれそう。
参考文献
小泉凡[監修]『小泉八雲の妖怪図鑑』(三才ブックス)


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