原題:“Annabelle Comes Home” / 監督&脚本:ゲイリー・ドーベルマン / 原案:ジェームズ・ワン / 製作:ピーター・サフラン、ジェームズ・ワン / 製作総指揮:マイケル・クリアー、ミッシェル・モリッシー、ブィクトリア・ペルメリ / 撮影監督:マイケル・バージェス / プロダクション・デザイナー:ジェニファー・スペンス / 編集:カーク・モッリ / 衣装:リー・バトラー / キャスティング:リッチ・デリア / 音楽:ジョセフ・ビシャラ / 出演:マッケナ・グレイス、マディソン・アイズマン、ケイティ・サリフ、ヴェラ・ファーミガ、パトリック・ウィルソン / アトミック・モンスター/ピーター・サフラン製作 / 配給:Warner Bros.
2019年アメリカ作品 / 上映時間:1時間46分 / 日本語字幕:佐藤真紀
2019年9月20日日本公開
公式サイト : http://annabelle-museum.jp/
[粗筋]
1971年、コネチカット州に拠点を置き、各地の怪奇事件を調査・解決に導いていたエド(パトリック・ウィルソン)とロレイン(ヴェラ・ファーミガ)のウォーレン夫妻は、ある若い女性看護師とその友人たちから、怪奇現象をもたらすアンティーク人形について相談を受ける。霊が憑いているのではなく、魂を奪うために悪魔が媒介としている、と見抜いたロレインは、清めたり焼き払ったりしても解決にならない、と悟り、自分たちが引き取ることを決めた。そうして“アナベル”と呼ばれる人形は、教会から引き取ったガラスケースに閉じ込められ、他の様々ないわくつきの調度と共にウォーレン家の保管庫に収められた。
……それから1年。ウォーレン夫妻はハリスヴィルの心霊事件を解決するなど活躍を重ねていたが、その一方でマスメディアからは懐疑的な声が上がっている。
その影響は夫妻の幼い娘ジュディ(マッケナ・グレイス)に及んでいた。ウォーレン夫妻をペテン師呼ばわりする記事が新聞に載って以来、ジュディは一部の生徒からイジメを受けている。間もなくジュディの誕生日だが、パーティに招待しても誰も来てくれない可能性もあった。
夫妻が出張のため留守にする夜、ベビーシッターをしている高校生メアリー・アレン(マディソン・アイズマン)は、ジュディのために一足早いお祝いをすることを思いつく。
ジュディとメアリーが一緒にケーキの用意をしていると、ウォーレン家を突然、メアリーの同級生ダニエラ(ケイティ・サリフ)が訪ねてくる。彼女は弟も噛んでいるジュディへのいじめについて謝罪し、自分も一緒に祝いたい、と言った。雇われ先に勝手に人を招くのはいけない、と知りつつも、プレゼントを喜ぶジュディのために、メアリーは承知した。
だが、ダニエラにはある思惑があった。ジュディたちの目を盗んで、夫妻の書斎から鍵をくすねると、封印されていた保管庫に潜入、収蔵品に次々と触れていく。そして遂に、アナベルの収められたガラスケースまでも開けてしまった。
ダニエラは自らの過ちに気づくことなく、メアリーとともにジュディを祝福する。だが、母の才能を受け継いだジュディは、家の中に満ちる異様な気配を感じはじめていた……。
[感想]
怪奇現象を研究し、現地に赴き解決にもあたっていたウォーレン夫妻と、彼らの保管庫は実在している。なかでも特に危険な人形アナベルも、現実に存在している――但し、実物は映画のように見た目から不気味なものではないが。
ウォーレン夫妻が実際に取り組んだ事件に基づく『死霊館』シリーズと異なり、このアナベル人形を中心としたスピンオフ作品は本篇を含め事実ではない。だが、だからこそ追求できる怖さを突き詰めた作品となっている。
製作と原案を手懸けたジェームズ・ワンの傑作『インシディアス』シリーズがそうだったように、本篇はさながら“観るお化け屋敷”とでもいうような趣がある。観客の期待に応えるように高まる緊張感と恐怖、その随所にちょっとしたユーモアを挟んで緩和をもたらしつつ、更なる恐怖を積み重ねていく。
本篇の場合、このホラー映画の王道的な展開をうまく支えているのがダニエラだ。自らもこの世ならざるものを見る力のあるジュディ、真面目にベビーシッターとして働くメアリーだけなら波風立つことなく過ぎたであろう一夜に、彼女の行動が異変のきっかけを与え、その後も結果的に事態の悪化を招く。
展開としては見え見えなのだが、見え見えであることが観客に予感と期待を与え、繊細なひとには緊張と恐怖を、マニアなひとには興奮と歓喜をもたらす。適度に肩透かしや笑いを誘う描写を銜えつつも、その都度緩急を作り楽しませる姿勢は全篇で貫かれている。
登場人物も舞台も極度に絞り込んでいることもまたひとつのポイントだろう。伏線は外の世界で張られるが、基本的に事件はすべてウォーレン宅で繰り広げられる。少しだけ関わってきた第三者までが申し合わせたかのように現れて巻き込まれ、きちんとその立ち位置ならではの仕事をしていて、終始そつがない。
観終わって振り返ると解るが、本篇にはホラー映画ではありがちなことを意識的に回避している。それゆえに物足りなさ、生温さを感じるひとも恐らく少なくない。だが、それはシチュエーションそのものが持つ怖さと、その怖さを観客が共有している、という確信に基づくものだ。『死霊館』および『アナベル』の諸作でその世界観が浸透しているからこそ成り立つ趣向であり、本篇は即ちシリーズに対する敬意と信頼とで作られている、と言える。
少々“生ぬるい”とも感じる作りだが、年齢層を問わずに鑑賞出来る気軽さ、欲求に応える質と分量を備えた恐怖表現、そしてそれを引きずることのない快適な匙加減で、いい意味で安心して楽しめるアトラクション・ムーヴィーに仕上がっている。いつまでもあとを引くような怖さのある作品ももちろん欲しいが、こういう観ているあいだだけ恐怖と興奮に浸り、観終わってサッパリと出来るような作品だってあるべきなのだ。
関連作品:
『死霊館』/『アナベル 死霊館の人形』/『ラ・ヨローナ~泣く女~』
『インシディアス』/『インシディアス 第2章』/『インシディアス[序章]』
『13ゴースト』/『戦慄迷宮3D THE SHOCK LABYRINTH』/『グレイヴ・エンカウンターズ』/『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』/『ウィンチェスターハウス アメリカで最も呪われた屋敷』
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