Amazon.co.jpの『バクラウ 地図から消された街(字幕)』配信版商品ページ。
原題:“Bacurau” / 監督&脚本:クレベール・メンドンサ・フィリオ、ジュリアーノ・ドルレネス / 製作:エミリー・レクロー、サイード・ベン・サイード、ミヒエル・メルクト / 撮影監督:ペドロ・ソテロ / プロダクション・デザイナー:サーレス・ジャンクィーラ / 編集:エドゥアルド・セラーノ / 衣装:リタ・アゼヴェド / 音楽:マテウス・アウヴェス、トーマス・アウヴェス・ソウザ / 出演:バルバラ・コーレン、ソニア・ブラガ、ウド・キア、シウヴェロ・ペレイラ、トーマス・アキーノ、カリーヌ・テレス、アントニオ・サボイア、リア・ヂ・イタマラカ、サーデリー・リマ、ルーベンズ・サントス / 配給&映像ソフト発売元:KLOCKWORX
2019年ブラジル、フランス合作 / 上映時間:2時間11分 / 日本語字幕:上田晴子 / R15+
2020年11月28日日本公開
2021年4月2日映像ソフト日本盤発売(配給会社公式通販専売)
公式サイト : http://klockworx-v.com/bacurau/
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/jp/title/81100780
Netflixにて初見(2021/7/22)
[粗筋]
いまから数年後、ペルナンブーコ州西部セラベルテにある、バクラウという小さな村。
祖母カルメリータの葬儀のため、テレサ(バルバラ・コーレン)は久々に帰還した。カルメリータは集落の指導者として親しまれており、住民達の喪失感は著しい。
この日、村には怪事が相次いだ。子供たちの授業中、インターネットで村の所在を教えようとすると、何故かネット上の地図からバクラウの名前が消えている。深夜、騒音に気づいて住民達が家を出ると、近所の牧場で飼われていた馬が逃げ出していた。牧場の経営者に連絡しようにも、何故か集落全体で携帯電話が通じなくなっている。
住民ふたりが馬に乗り、牧場を訪ねると、牧場を営む一家がことごとく殺害されていた。そして、現れた謎の男女ライダーによって、住民もまた殺害されてしまう。
この貧しい村にいったい何が起きているのか――?
[感想]
ひどくざっくりとした粗筋と思われるだろうが、これ以上書くと興を削ぐ。そもそもこの作品、色んな意味で、説明がしにくいのだ。
まずジャンルはなんなのか。ある貧しい集落の群像劇めいているが、それにしては住民の言動にいちいち違和感がある。細かにコミカルな描写があって笑いを誘うが、一方で剣呑さも感じさせる。陰謀を描くミステリーなのか、と思いきや、突如としてUFOが飛んでくる。そして、混沌とした惨劇のあとで待ち構える、狂乱のクライマックス。予告篇ではセルジオ・レオーネの名前を挙げているが、確かにマカロニ・ウエスタンのような匂いもあるのである――舞台を取っても時代を考慮しても“マカロニ”も“ウエスタン”もそぐわないというのに。
しかし、この説明のつかない感覚、着地点の見えない謎の描き方に、驚くほど牽引力が備わっている。この住民は何故、孤立に追い込まれているのか? 何故、市長に対してああも反抗的なのか? 序盤でテレサが飲まされた薬はなんなのか、そして不意に訪れたバイカーと、飛来したUFOの意図は?
巧妙なことに、こうした疑問点は、説明を廃した描写のなかにも、しばしば理由が示される。その緩やかなカタルシスの連続と、そこからまた新たに沸き起こる疑問、そしてインパクトの強いシチュエーションで、絶えず観る者を惹きつけ続ける。一見抑え気味のトーンで綴っているように見せて、緩急のつけ方が非常に洗練されている。
登場人物やその振る舞いは非常に泥臭い。寒村らしい、広がりも彩りも乏しい光景のなか、住民はみなどこかみすぼらしい格好をしている。水の供給もおぼつかないようで、給水車が訪れると、性別を問わず野外で全裸になってシャワーを浴びている。だがしかし、あまりに泥臭いからこそ、終盤の展開が鮮やかで爽快なのだ――血腥い描写も多く、抵抗を感じる人もあるかも知れないが、ある程度耐性を備えた人なら本篇のクライマックスはたまらないはずだ。
本篇は無数に伏線を鏤めているが、基本的に説明めいたくだりはなく、意味が明確にされない点も多い。しかしそれがまた、本篇を忘れがたいものにしている。あっけらかんとしたエロティシズムや、力強いがあとを引かない残酷描写、その端々に滲むユーモア、いずれも奇妙な中毒性を秘めており、ハマってしまうともういちど観たくなる――事実、私よりも先にWOWOWで本篇を鑑賞した母は、私がNetflixで本篇を鑑賞しているとき、途中から一緒に観ていた。
関連作品:
『ワンダー 君は太陽』/『異端の鳥』
『ミッドサマー』/『続・夕陽のガンマン』/『ワイルドバンチ』/『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』
コメント
[…] 母は自室にいると、BSやCSを点けて、てきとーな映画を観ていることが多い。だいたい、時間潰しに点けているだけで、用事のある時間になるとあっさり断念するわけですが、たまに面白い作品があると捕まってしまう。 […]