『ばけばけ』感想&うんちく日誌、その12。

ばけばけ
【NHK朝ドラ公式】連続テレビ小説「ばけばけ」。主演は髙石あかり。キャスト相関図・見逃し配信・あらすじ・放送予定など。小泉セツ&八雲(ラフカディオ・ハーン)夫妻がモデルの物語。明治の松江。怪談を愛する夫婦の何気ない日常を描きます。【作】ふじ...

 あああああ、やっと書けるー!!

 放送第12回は、それまでに書いたことを繰り返すくらいしか思いつかなかったので、飛ばしました……思うところはあったけど、ドラマでそのうち触れるであろうことはなるべく明かされてから語る、というルールにしてしまったので、書けなかったのです……。
 ……という書き出しを昨日用意して、色々と描かれてから改めて書こう、と思ってたんですが、まさかその翌日、あんな形でぶっ込んでくるとは。やはり司之介どのがいちばんヤバい。
 まあ、ネット記事で無遠慮に言及するところも多かったみたいですし、ドラマの中でもこのところはわりと露骨に仄めかしてましたから、もうさすがに察していた人も多かったでしょうが、トキは雨清水家から養女として<松野家が預かった娘だったわけです。
 これはきちんと史実に沿っていて、モデルの小泉セツは、お七夜にして稲垣金十郎とトミの夫妻の養女となり、稲垣セツとして暮らしていた。子のない稲垣家の跡取りとなるため、予め約束されていた、というのも史実に沿っている。ドラマの中で養父・司之介と養母・フミは《おトキ》と呼んでいましたが、資料によれば、“オジョ(お嬢)”と呼び、慈しんでいたそうです。ドラマにおいて祖父の勘右衛門が“お嬢”と呼んでいたのは、まさにこの事実を反映したものだし、窮乏のために食事が少なくなっているのに、しじみ汁のしじみをトキに譲る、という描写も、孫に対する愛情もあるけれど、それ以上に名家から預かった大切な娘だから、という意識があった、と読み取れます。
 予備知識を仕入れず素直に干渉していた方は、このことを踏まえて、ドラマ序盤から観直してみてください。この事実を踏まえた繊細な心情表現が随所で為されていて、その丁寧さに打たれるはず。
 とりわけ、フミと実母である雨清水タエのやり取りはもの凄く含むところが多く複雑です。実母であるが故の愛情と、たとえ血を分けていなくとも愛をもって育てていた養母としての矜恃に、崩壊したとはいえ歴然としていた家格の違いによる振る舞いの差と、そこに似合わぬ、いくぶんの厳しさを含む緊張したやり取り。この双方の心情が滲み出す会話のくだりは、録画や配信などで確認していただきたい。

 この事実、もうちょっとあとに訪れるはずの節目で明かすのか、と思いきや、あんなコントじみた流れで明かしてしまうのもこのドラマの好さです。やもすると、これまでのおかしみを称えたトーンを壊してしまう危険もあったのですが、こういう形にすることで、巧みにユーモアの緩衝材をまとわせた。
 婿入り早々、嫁は他家の看病で留守にして、しかもその出生の秘密を「トキには黙っておれ」と口止めされる、という、貧乏と同じくらいの重荷を背負わされた銀二郎はもはや災難です。ある意味、このあとの展開の免罪符を得た……って、これはもうちょっと先ですが、まあ私にも伏線を張らせてください。ここまで頑張って書かずにいたんだから。

 そういえば、私の読んだ資料では、小泉セツがいつから自身が養女であった、と知っていたのか、明確にしたものがありません。セツ本人の回想では、前々から知っていたように読めますが、幼少の頃に記したものよりも、長じたあと、小泉八雲の伴侶として記したものが大半なので、知ったうえで書くのが大前提になりますから、そういう意味では確かな参考にはならない。私が読み落としているのか、知らない資料があるのか、先日の松江怪談談義で、イベント終わりのサイン会にときに、八雲から数えて四代目の小泉凡氏に訊ねてみよう、と思ってたんですけど、バタバタしてタイミングがなかった。
 江戸時代、そしてそこからまだ家の重要性が変わっていない明治初期において、養子を取ることは珍しくないし、古地図を参照しても小泉家と稲垣家はさほど隔たっておらず、ドラマと同様に実父母は養女に取られた娘にも愛情を注いでいたことは確かなようなので、セツは知っていた可能性が高い、と私は考えてます。
 ただ、そこをあえて、何も知らずに育てられた、という設定にしたのは、よく調べて事実として織り込んだとしても、脚色して採り入れたとしても賢明だと思います。ドラマ序盤の引っかかりになり、心情描写にも前述のような幅が出る。

 ドラマ自体は暗い気配が続きます。雨清水傳は無事に恢復するのか、織物工場の経営はどうなるのか、不安は尽きません……って言っても、この辺も史実を踏まえると察しが付くのですが、どう描いていくのか。
 そして、婿殿はどこまで秘密を守れるのか、新妻にどこまで沈黙を通せるのか。本当に、銀二郎には気の毒だけど、この辺は笑える展開になりそうな気がしてなりません。

 ……1日空けただけでえらい長文になってしまいましたが、それもこれも急に司之介どのがぶっ込んできたせいです。これでもまだ書くタイミングじゃない、と控えた部分もあるんだぞ。

参考文献
 企画展『小泉セツ ラフカディオ・ハーンの妻として生きて』図録(小泉八雲記念館)

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