
ヘブンさんにそんなつもりはない、という真意を語らないことで実に2週間近く引っ張るっていう。
しかし、引っ張りに引っ張った挙句の終盤は、心暖まる楽しいひと幕でした。修羅場といえばそうだけど、途中からベクトルがガラッと変わるのがおかしい。過酷な現実から逃げず描いてもユーモアを損ねない、このドラマらしい見せ場です。35回の泣き笑いのくだりも秀逸でしたが、やはり34回の、トキを愛するあまりの詰め寄り方は本当に面白かった。
史実との対比として面白いのは、トキを女中に雇うか、という場面での、ヘブンの言い草です。氏族にしては脚が太い、ってヒドい物言いですが、どうやら近いことを本当に言っていたらしい。
ただし、文脈は異なる。人品の確かさの保証として、士族の娘を紹介する、という形でセツはハーンの許に連れ出された。当初、ハーンは裕福に育った華奢な娘には女中は務まらない、と乗り気ではなかったところ、実際に顔を合わせたセツは、幼少の頃から家計を支えるため、機織などの仕事に励んでいたため、手足は逞しかった。だから本当に“脚が太い”と評したようなのです。
必要から雇い入れたとはいえ、その太い手足も含むセツの容姿は必ずしもハーンには好ましいものではなかったそうですが、自身も苦労の多い半生を送っていたハーンはやがて、セツのそうした容姿も懸命に生きてきた証として理解し、心を通わせるに従い賞賛するようになったといいます。若干、描写はひねってあるけれど、これもまたセツと八雲というふたりの絆を語るうえでは、重要なひと幕なので、ドラマに採り入れるのは当然。
これでひとまず家族の理解も得、実質、松野家と雨清水家双方の生活を支えるためヘブンのもとで働くことになったトキ。ということはそろそろ、次の段階に入るはずですが、なんか予告の印象からすると、まだ波乱がありそう。個人的には、トキがヘブンに怪談を語るくだりと、あるかも知れない旅行のくだりを楽しみにしてたりする――ハーンはこの時期、鳥取、出雲、日御碕や美保関など、けっこう遠出しているので、この辺も描かれるのに期待しているのです。当時の、こんな感じだったのでは、という松江の風景を見事に表現しているので、この頃の出雲大社の描写も拘ってくれそうだし。


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