ユナイテッド・シネマ豊洲が入っているららぽーと豊洲エントランス脇の壁面に掲示された『ブラック・ウィドウ』ポスターと、劇場内にあるマーヴェル・スタジオ特設セレクト・ショップの案内。
原題:“Black Widow” / 監督:ケイト・ショートランド / 脚本:エリック・ピアソン / 原案:ジャック・シェーファー、ネッド・ベンソン / 製作:ケヴィン・ファイギ / 製作総指揮:ヴィクトリア・アロンソ、ルイス・デスポジート、ナイジェル・ゴストロウ、スカーレット・ヨハンソン、ブラッド・ウィンダーバウム / 撮影監督:ガブリエル・バーンスタイン / プロダクション・デザイナー:クリント・ウォーレス、チャールズ・ウッド / 編集:レイ・フォルサム・ボイド、マシュー・シュミット / 音楽:ローン・バルフ / 出演:スカーレット・ヨハンソン、フローレンス・ピュー、レイチェル・ワイズ、デヴィッド・ハーバー、レイ・ウィンストン、O・T・ファグベンル、エヴァー・アンダーソン、ヴァイオレット・マクグロウ、ウィリアム・ハート、オルガ・キュリレンコ、ライアン・キエラ・アームストロング / マーヴェル・スタジオ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Walt Disney Japan
2021年アメリカ作品 / 上映時間:2時間14分 / 日本語字幕:林完治
2021年7月9日日本公開
2021年9月15日映像ソフト日本盤発売 [MovieNEX|4K UHD MovieNEX]
公式サイト : http://marvel-japan.jp/blackwidow/
ユナイテッド・シネマ豊洲にて初見(2021/8/5)
[粗筋]
1995年、幼いナターシャと家族の穏やかな暮らしは、ある日突然終わりを告げた。帰宅した父アレクセイ(デヴィッド・ハーバー)の指示で逃走し、追っ手をかわし隠していた飛行機で飛び立ち、向かったのはキューバ。そしてナターシャはその日を境に、“家族”と引き離された――
21年後。東側のスパイから《アベンジャーズ》の一員となったナターシャ(スカーレット・ヨハンソン)は、しかし特殊能力者の私的な活動を戒める《ソコヴィア協定》違反のかどにより追われる身となっていた。ロス長官の追跡を交わしたナターシャはノルウェーに潜伏、機を窺う――はずだった。
発電用のガソリンを補充するために車を出したナターシャは、思いがけない襲撃を受ける。マスクと装甲で身を固めた襲撃者が狙っていたのが、車の中に放ってあった荷物であることに気づくと、ナターシャはすんでのところで荷物を守り切り脱出する。
調達屋のリック・メイソン(O・T・ファグベンル)が親切心で残していったその荷物は、ナターシャにとって因縁深いブダペストから送られたものだった。現地に飛んだナターシャはそこで、かつて妹としてともに暮らしたエレーナ・ベロワ(フローレンス・ピュー)と再会する。エレーナは、かつてナターシャも囚われていた、レッドルームの呪縛を脱するガスを入手しており、レッドルームの中心人物ドレイコフ(レイ・ウィンストン)から隠すために、ナターシャのもとにガスの容器を送っていたのだ。
幼くして共産圏のスパイとして育てられたナターシャは、アレクセイ、メリッサ(レイチェル・ワイズ)、エレーナとともに家族を演じてオハイオに潜入していた。しかし3年の静かな生活は本部からの召集によって終わりを告げ、家族は解散、その後の行方は知らなかった。ナターシャはその後、ドレイコフをひとり娘もろとも爆弾で殺したつもりでいたが、ひそかに生き延び、より高度な技術によって洗脳を施した女性スパイ《ウィドウ》を操り富を築いていたという。だが、何者かが洗脳を解くガスを開発、それによって解放されたエレーナが狙われる身となっていた。
このとき《アベンジャーズ》は離散状態、ナターシャに助けてくれる仲間は多くない。そこでナターシャは、エレーナとともに、任務ののちロシアの刑務所に閉じこめられたかりそめの父アレクセイを救出し、情報を得る計画を立てた――
[感想]
2019年まで、マーヴェル作品は年に2、3本のペースで新作をリリースしてきた。だが2020年春頃から世界的に深刻化したコロナ禍により、劇場公開によって上げられる収益が大幅に縮小、製作時点で大金を投じたハリウッドの大作は軒並み公開延期を余儀なくされた。中でも特に封切りが遅れ、ファンばかりか権利者すらヤキモキさせたのは本篇だろう。楽しみがいつまでとも知れず先送りになることもそうだが、本篇はこのあとも多数の計画が既に発表済み、未発表でもやはり多数の企画が動いているはずだ。そんな中で、1本でも公開が遅れれば、続く作品も当然次々と先送りになってしまう。
どうにか公開はされたが、未だ世界各国で感染拡大が完全に収まっていないこともあって、配信サイト《Disney+》にてほぼ同時で配信も始まっている。通常料金に、プレミアアクセス料金を追加で支払うことでようやく鑑賞出来る仕様であるから、映画館で鑑賞することを優先したい層にはそこまで影響はないはずだ――が、折悪しく、同様に2020年公開予定だった大作が同時期に陸続と封切られたせいで上映スクリーンの数が絞られてしまった。特に都内では、よりによってオリンピックの影響により交通状態が悪化した湾岸地区ばかりになったのは痛恨だったのではなかろうか。
――と、劇場公開に際して様々な苦境に見舞われた本篇だが、ある意味で“この作品らしい”と言えるかも知れない。《アベンジャーズ》サーガで早い段階から登場していながら、大きな区切りとなった『アベンジャーズ/エンドゲーム』を終えてやっと単独映画が製作される、という現実上の不遇ぶり、そしてこれまで明確には語られなかったが、劇中の過去、そしてシリーズとしてのクライマックスにおいても非業の運命を背負わされたブラック・ウィドウ=ナターシャ・ロマノワをよく象徴している。
シリーズ序盤から登場していたわりに、彼女の出自は明確ではなかった。もともとスパイであった、というのは大前提として共有されているが、どこのスパイであったのか、どんな経緯で《アベンジャーズ》に加わることを決心したのか、はほとんど描かれていない。そしてそれは、彼女自身の物語でもある本篇でも、決して全容は明かされていない。本篇でもナターシャは、虚構の家族の記憶、それを共有する面々との共闘、というかたちを取っている。
やもするとぼんやりした内容になりそうだが、そうならないのは、ブラック・ウィドウがそもそもスパイであり、他者を偽ることが任務の一部であるというキャラクター性、そしてそうした偽りの中にも、生死を共にした仲間たち、精神的な家族に対する責任感、献身といった確固たる芯が通っているからだ。
本篇に登場する、任務のために構成された“家族”とのやり取りにもその個性は巧みに織り込まれている。再会するなり、相手の命を奪いかねない激しい戦いを繰り広げたかと思えば、すぐに協力して追っ手を振り切っていく姉妹。自己顕示欲は強いが、ある意味では誠実な父親役アレクセイを適度にあしらいつつもその能力を信じているさまや、母親役メリッサとの腹を探りあうような会話にも、嘘の世界にあって信じられるなにかを模索してきたナターシャというキャラクター性が浮き彫りになっている。ここに登場した3人の家族はいずれも原作コミックに登場してはいるが本篇のような位置づけ、関係性にはなく、それぞれの設定を敷衍しながら絶妙に活かしているあたりにも、本篇のスタッフ、とりわけ10年以上の長きにわたってナターシャを演じてきたスカーレット・ヨハンソンの、キャラクターに対する深い理解が窺える。
そしてストーリー的にも、本来がスパイである、というブラック・ウィドウに相応しく、スパイ・アクション映画のお約束をきっちり踏まえてくる。国境を幾度も超え、様々な先進技術を用いてスパイ活動を図り、随所で“ミッション”という名の縛りを課したアクションも展開される。《アベンジャーズ》はその世界観故に、現実を大幅に超越した科学技術を用いたギミックが頻出するが、それが娯楽性を最大限に追求した時代の《007》を彷彿とさせるアクション・シークエンスの誕生を正当化する。近年はシリアス路線に転向していた《007》も、往年の空想科学的なギミックに回帰しつつあるが、それでもまだ往年の冒険アクション的な方向性に懐かしさを覚えるようなひとに本篇はハマるかも知れない。
また同時に本篇は、時として権力者によって弄ばれてきた“女性”というジェンダーの力強い反撃をもテーマとして取り込んでいる。《レッドルーム》と呼ばれる組織が何故、幼い“女性”を選んで洗脳していたのか、はのちに首謀者の口から語られるが、その論理は、多くの女性を抑圧してきた社会の論理にも通じるものがある。その欺瞞を、自らの力で振り払い、特殊能力なしで強大な敵と対峙してきたブラック・ウィドウが打ち払う、という筋書きには、隠喩というにはあからさますぎるほど強い意図が窺える。露骨だが、それゆえに、まだ残されていた軛を剥ぎ取り拳を放つナターシャの姿は痛快だ。
だがその一方で、ナターシャは罪悪感も抱えている。彼女はいち早くその境遇から脱出した。自らの力もあったのは確かだが、そうした理屈では打ち消せなかった罪悪感を、偶然から追随したエレーナの登場によって自覚させ、本篇クライマックスにおける振る舞いへと繋げていく。そこで見せるナターシャの言動は、スパイとして、《アベンジャーズ》のひとりとして、多くの場で己を押し殺していた彼女の、偽らざる想いだったのだろう。それが解るからこそ、クライマックスで“解放”されるくだりがより感動的なのだ。
そして、こうした“家族”や“女性”としての本質、そして決断が、ひいてはファンを驚愕させた『アベンジャーズ/エンドゲーム』での選択を裏打ちする。この出来事を経たあとのナターシャに、恐らく迷う余地などなかったのだろう。
個人的には『エンドゲーム』だけでも納得はしていたが、本篇を観たあとなら、疑問を抱いていたひとも彼女の決断に納得せざるを得なくなる、と思う。長きにわたってシリーズを支え、確立してきた人物像を更に明瞭にした、キャラクターへの理解と愛情を窺わせる作品である。
しかし惜しむらくは、なまじシリーズの1篇として丁寧に作られているほどに、単品として楽しむのは難しくなっていくことだろう。『エンドゲーム』で大きな節目を迎え、仕切り直しにするか、と思われたが、どうやらここまでに構築してきたものを切り捨てるつもりはないらしい。多数のクリエイターたちで書き継ぎ、壮大なユニヴァースを構築したコミックをもとにしているからこそ、の思考ではあるが、どんどん“一見さんお断り”の度合いを強めているのが、個人的には少々惜しまれる。むろん、単独でも楽しめる、という点をまったく疎かにはしていないのだが、なまじ律儀に追ってくるほどに、ハードルがちょっとずつ上がっていることが気懸かりになるのだ。
関連作品:
『アイアンマン』/『インクレディブル・ハルク』/『アイアンマン2』/『マイティ・ソー』/『キャプテン・アメリカ ザ・ファースト・アベンジャー』/『アベンジャーズ』/『アイアンマン3』/『マイティ・ソー/ダーク・ワールド』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』/『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』/『アントマン』/『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』/『ドクター・ストレンジ』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』/『スパイダーマン:ホームカミング』/『マイティ・ソー バトルロイヤル』/『ブラックパンサー』/『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』/『アントマン&ワスプ』/『キャプテン・マーベル』/『アベンジャーズ/エンドゲーム』/『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』
『ゴジラvsコング』
『ジョジョ・ラビット』/『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』/『ヘルボーイ(2019)』/『女王陛下のお気に入り』/『キング・オブ・シーヴズ』/『ロビン・フッド(2010)』/『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』
『ノーカントリー』/『顔のないスパイ』/『007/スカイフォール』/『キック・アス ジャスティス・フォーエバー』/『ワイルド・スピード SKY MISSION』/『キングスマン』/『デッドプール2』/『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』/『ジョーンの秘密』/『万引き家族』/『パラサイト 半地下の家族』/『ノマドランド』
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