綾辻行人『人間じゃない〈完全版〉』

綾辻行人『人間じゃない〈完全版〉』(Amazon.co.jp商品ページにリンク) 『人間じゃない〈完全版〉』
綾辻行人
判型:文庫判
レーベル:講談社文庫
版元:講談社
発行:2022年8月10日
isbn:9784065282779
価格:836円(本体760+税10%)
商品ページ:[amazon楽天BOOK☆WALKER(電子書籍)]
2024年4月18日読了

 著者のデビュー30年となる2017年、それまでに単行本に収録されなかった中短篇をまとめた親本に、同年、講談社ノベルスのオリジナル・アンソロジー『7人の名探偵』に書き下ろした《仮題・ぬえの密室》を加えた全6篇を収録。
 著者は初期は発表ペースも速かったが、近年はすっかり寡作となっている。しかも、本書のあとがきからも窺えるように、短篇に苦手意識があるようで、こちらも数は少なく、親本からこの文庫版の刊行までに新たに発表したのは前述の《仮題~》だけだという。
 それゆえに、本書に収録されているのは、比較的ストレートで純度の高い本格ミステリ《赤いマント》があるかと思えば、作品集『眼球綺譚』にも繋がるイメージの幻想《崩壊の前日》があり、作品集『どんどん橋、落ちた』で見せた強引な荒技が楽しい《洗礼》があるかと思えば、シンプルなホラーで実は『深泥丘奇談』シリーズに連なる《蒼白い女》、『フリークス』に繋がる趣向を持つ《人間じゃない―B〇四号室の患者―》があり、著者やいわゆる“新本格”ファンには嬉しい人物が登場する《仮題~》で締めくくる。意図したわけではないそうだが、著者のキャリアと嗜好が見事に凝縮されたような内容だ。
 著者特有の雰囲気は一貫しているし、列挙したように既出のシリーズや、よく知られた著者の嗜好に沿った作品ばかりなので、ファンとしては違和感を抱かないだろうし、何なら各々の霊布に連なる作品がまとめて楽しめるのは嬉しいくらいだが、小説集としてはまとまりがない、という批判も正しいと思う。著者について何の知識もなく、1冊読んでみるか、と試しに手に取ったのが本書だったとしたらどうか――実際に、そういう体験をした方がいるなら話を伺いたいくらいだ。本書とも繋がる作品集や、《館》や《Another》といった長篇シリーズにも手を伸ばしているのかどうか。
 ただ、そうして“らしさ”が凝縮されている、という意味では、統一感は備えている。自身を模した人物が登場する《洗礼》や《仮題~》の本篇中に、小説家としての迷いや苦しみを織り込みつつ、決して得意ではないからこそ、完成した個々の作品には 、剥き出しに近い著者の感性が滲んでいる。巻末に著作リストが収録されているのは、著者の文庫では恒例なのだが、このことも含めて、作品そのものを通して描いた“作家・綾辻行人の歴史”としても読める。
 ……まあ、正直に言っちゃえば、ファンとしてはそれぞれのスタイルに沿った作品を複数発表して、各々でまとめてもらった方が嬉しいのだ。《赤いマント》のような真っ向からの本格ミステリ短篇集が読んでみたいし、《人間じゃない~》から発展して『フリークス2』なんてのが刊行されたら嬉しい。しかし、それもまた我が儘というものだろう。


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