ヴァイオリニストを志して、中学生にして上京するも挫折、のちにデュオ《グレープ》としてデビューしたさだまさし。音楽家・渡辺宙明の息子であり、18歳にしてフォークグループ《赤い鳥》の2代目ドラマーとしてメジャーデビュー、解散後に作曲・編曲・指揮で活躍する渡辺俊幸。同じ事務所に所属したことから始まり、《グレープ》解散コンサートに当時の渡辺のバンドが参加したことをきっかけに、さだのソロ活動を、渡辺が編曲・プロデュースで支える関係となった。
長きに亘るパートナーシップを生んだ無二の絆は如何に結ばれ、育まれたのか。さだまさしの音楽活動50周年の2022年に企画・刊行された書籍を、初めて共にツアーを回った1976年からちょうど50年目となる2026年に文庫化。
私自身もさだまさしファンなので、ここで語られるさだまさし本人についてのエピソードは概ね既知のものだった。渡辺俊幸という人が、プロデューサーとして、アレンジャーとして長年に亘ってさだを支えてきたことも先刻承知ではあったが、さすがにここまでしっかりと両人を絡めて綴ったのは本書が初めてではなかろうか――たぶん本書の刊行を境にして、渡辺がさだのラジオ番組に出演することが増えたようで、そんな場面で改めて語っていたことも多いが、ここまで尺を使って、丁寧に語った文章として読むのは、少なくとも私は初めてであった。
両人の関係性と絆は確かに“運命的”と言っていい。さだまさしは吉田政美と組んだ《グレープ》として世間に認知され、既に高い人気を誇ったグループ《赤い鳥》が所属する事務所に迎え入れられた。同じ頃、赤い鳥からドラムスの村上“ポンタ”秀一が抜け、代わりに加わったのが、まだ18歳だった渡辺だった。この縁により、渡辺は赤い鳥解散後に結成したバンド・ハミングバードでグレープ解散コンサートをサポートする。このとき、既に表舞台を離れるイメージを持っていたさだに、ソロでの活動を促したのが渡部だったという。
その後の紆余曲折、成長が、確かに両者のコラボレーションが現在までに生み出した諸作と、現在の関係性に繋がるものであり、なるほど素晴らしい絆であり、理想的なパートナーシップである、と実感する。細かいところは、是非とも本書を読んで触れていただきたい。ファンでなくても、いちどこの2人が紡いだ音楽に触れてみたくなるし、ファンであっても、馴染みのある曲の印象が変わってくるはずだ。
と、内容的にはいいと思う一方で、個人的に本書は終始、歯がゆさを覚える作りだったことは触れておきたい。
恐らく本書は著者が聴き手となって、さだ・渡辺両者の対談を文章に起こしている、という体裁なのだが、どうもその醍醐味が薄い。各人の言葉が、口から出てきたもの、というより、変に整理し、“台詞”となって書き連ねられているようで、違和感が色濃いのだ。ラジオ番組や、ライブのトークで聴くさだの喋りと、本書の“台詞”に懸隔を感じる。
なにせさだはほぼ年イチペースのアルバムリリースに年間何十本にも及ぶコンサート、そして各種イベントや執筆活動に追われ、渡辺もそんなさだのサポートに限らず、劇伴の作曲に、近年は新作オペラへの挑戦も行うなど、どちらも多忙を極めている。対談形式とはいえ、いちどでは片づかなかったり、もしかしたら、個別にインタビューを行ったものも含め、あとから対談形式に整理したものなのではなかろうか。全体に、著者の個性、癖が強いように感じてしまう。
ただし、このあたりに否定的な印象を受けるのは、私がさだまさしのファンで彼の喋り方に馴染みすぎていることや、対談を書き下した書籍としての本篇のトーンがどうしても肌に合わない、つまりは、趣味に合わない書き方だった、というのが大きい。そこにこだわりのない方、寛容な方であれば、さだ・渡辺両氏の波瀾万丈の遍歴と、そうして蓄積した経験が、両氏の代表作『風に立つライオン』や、2000年代以降に顕著となった、さだまさしというアーティストに対する評価の高まり、そしてさだの音楽活動50周年を超えてなおクオリティを向上させる創作の充実ぶりを裏打ちしていることに感銘を受けると思う。
ちなみに、さだ・渡辺がアーティストとプロデューサーとしてタッグを組んで50年となる今年にも、このコンビはさだのニューアルバム『神さまの言うとおり』をリリースしている。
映画『お終活3 幸春!人生メモリーズ』のテーマを依頼されて作った表題作が超難産だったため、他の曲の作曲・レコーディングを都合3ヶ月くらいで行い、その間の1ヶ月はさだがレギュラーのラジオ番組を欠席する、というほど追いつめられたにも拘わらず、アルバムとしての出来映えは非常にいい。しかも曲想も多岐に亘っていて、芳醇だ。
50年も活動を続けているなら、多少守りに入っても良さそうなものだが、このお二方にはまだまだその気配はない。アルバム『神さまの言うとおり』のCD売上が好調だったため、「また次も作れます」と言っているくらいである。ファンとしては、少しはご自愛ください、と申し上げたい一方、その精力的な活動ぶりが頼もしくもある。
実際、本書を読むと、おふたりにはまだまだ創作意欲も、それに見合うだけの引き出しがたくさんありそうだ。今後の活動にまだまだ期待させられてしまい、それに付き合うために元気でいなければ、と改めて思わされる1冊でもある。価値があるとも言えるし、罪深いとも言える。
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