『ボス・ベイビー(吹替)』

TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『ボス・ベイビー』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン8入口脇に掲示された『ボス・ベイビー』チラシ。

原題:“Boss Baby” / 原案:マーラ・フレイジー『赤ちゃん社長がやってきた』(講談社・刊) / 監督:トム・マクグラス / 脚本:マイケル・マッカラーズ / 製作:ラムジー・ナイトー / プロダクション・デザイナー:デヴィッド・ジェームズ / 編集:ジェームズ・ライアン / 音楽:ハンス・ジマー、スティーヴ・マッツァーロ / 声の出演:アレック・ボールドウィン、マイルズ・バクシ、スティーヴ・ブシェミ、ジミー・キンメル、リサ・クドロー、トビー・マグワイア、ジェームズ・マクグラス、コンラッド・ヴァーノン / 日本語吹替版声の出演:ムロツヨシ、芳根京子、山寺宏一、石田明(NON STYLE)、乙葉、宮野真守、銀河万丈、立木文彦、新津ちせ、加藤央陸、たけまさふみ、神代知衣、釘宮理恵、森川智之 / 配給:東宝東和 / 映像ソフト発売元:NBC Universal Entertainment Japan
2018年アメリカ作品 / 上映時間:1時間22分 / 吹替版翻訳:中村久世
2018年7月20日日本公開
2019年3月6日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|:Blu-ray Disc]
公式サイト : http://bossbaby.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2018/04/04)


[粗筋]
 空想癖のあるティム・テンプルトン(マイルズ・バクシ/芳根京子)だったが、優しい両親のもとで幸せな毎日を過ごしていた――ある日、突如として“弟”がやって来るまでは。
 ティムにはその赤ん坊が自らタクシーに乗って我が家に乗り込んできたように見えた。パパ(ジミー・キンメル/石田明)と同じ名をもらったテッド(アレック・ボールドウィン/ムロツヨシ)という赤ん坊はティムの弟として、パパやママ(リサ・クドロー/乙葉)の愛情と労力を瞬く間に独り占めしてしまった。
 どうにかかつての地位を取り戻そう、と考えていたティムは、ある日、衝撃的な光景を目撃する。自分の部屋にいたテッドが、玩具の電話を相手に、大人とまったく変わらない会話を交わしていたのだ。
 どうやらテッドがただの子供ではない、と察したティムだが、親に話したところで信じてもらえないのは間違いない。密かにテッドの動向を探っていたティムは、テッドがほかの赤ん坊と共に会議を催している現場を目撃した。どうにか証拠音声を録音するが、赤ん坊チームの追撃によってテープは壊れてしまう。そして、赤ん坊に意地悪している、と思いこまれたティムは、罰として当分のあいだ、テッドと一緒に過ごすことを命じられてしまう。
 だが、これはテッドにとっても困った事態だった。彼は赤ん坊がやって来る会社《ベイビー社》の社員であり、ある特命を帯びて地上へと派遣されていた、という。しかし、ティムと閉じこめられているに等しいこの状況では、任務を果たすことなど出来ない。テッドもまたこの世界に赤ん坊として降り立つことは不本意であり、任務を完遂すればこの家から去る。つまり、ティムにとっても、テッドに協力するのが最善の判断だった。
 テッドこと《ボス・ベイビー》いわく、赤ん坊の地位は今や、可愛い子犬によって脅かされているという。このままでは、家族の愛情は子犬によって奪われてしまう。フランシス・フランシス(スティーヴ・ブシェミ/山寺宏一)の経営する《ワンコ社》が発売する新しい子犬は、この優位を決定的にしてしまう恐れがあるため、《ベイビー社》はこれを阻止しなければいけない。ティムの父は《ワンコ社》の社員だったために、《ベス・ベイビー》の潜入先として選ばれたのだ。
 ティムは父の会社の仕事参観の日に乗じて、《ボス・ベイビー》と共に《ワンコ社》の内部へと潜入、極秘ファイルの入手を試みる。しかし、行く先には思わぬトラブルが待ち構えていた――


[感想]
 新たに家にやって来た“赤ちゃん”が家族の愛も生活のペースも支配して、一家のボスになってしまう――という感覚を味わったひとは、世界各国どこにでも少なからずいるのではなかろうか。その感覚がもたらす空想を、そのまんま物語として紡ぐ、という発想がまず秀逸だ。発展した先はどんどんファンタジーになっていったとしても、節度を保っていれば充分に、多くの人を共感させる物語として成立する。
 加えて本篇は、メインであるテッド・ジュニア=ボス・ベイビーの声優として大人を起用したのが絶妙だ。私自身は本国版で鑑賞していないので、そちらのイメージや評価を記すことは出来ないが、日本語吹替版に起用されたムロツヨシはまさに適役だった。どんな役に扮しても滲み出る本人のアクの強さが、基本アメリカンなユーモアで演出された《ボス・ベイビー》のキャラクターにこれ以上ないほどハマっている。役者としての彼を見慣れた者には、序盤こそ顔が思い浮かんでしまうだろうが、気づけば違和感はなくなっているはずだ。
 そして、子供目線の物語に相応しく、子供心を昂揚させるような困難と冒険が本篇には満ちている。親の愛を奪うライヴァルに焦るティムと“赤ん坊”チームの、いかにも子供らしいアイテムを駆使した戦い。やがて共通の敵に立ち向かう経緯になると、逆になかなか子供だけでは立ち入ることの出来ない領域での冒険へと発展していく。
 面白いのは、極めて空想的な表現をしている一方で、同じ世界にいる“大人たち”からは基本、ティムも《ボス・ベイビー》も普通の子供として見えるように描いている点だ。終盤でこそ、ティムの両親が陰謀に巻き込まれ、いささか荒唐無稽な状況と展開になっていくが、そこまでの親近感とドライヴ感が観客を自然と惹きつけてクライマックスへと引っ張っていく。大人も子供も楽しめるような作りになっている。
 ただ、本篇には大人だからこそニヤリとする要素もまたたくさん詰めこまれているのが魅力だ。重要なモチーフとなるビートルズの名曲『Black Bird』もそうだが、妙なところで登場するアメリカ・エンタテインメントの最大の“立役者”から、『メリー・ポピンズ』や『ピーターパン』など、古典的なファンタジーのモチーフもちりばめられている。忍者や海賊など、子供もまたワクワクする要素をざっくりと採り入れつつも、濃厚なパロディやユーモアからすると、むしろ大人であればこそハマれる内容とも言える。
 終盤で“現実”の世界にまで《ベイビー社》の空想性が入り込んでしまったことや、現段階でも冷静に考えれば問題になり得る、動物虐待と捉えられる描写があることなど、懸念すべき点も多い。しかし、子供らしい妄想を出発点にして、大胆に飛躍しつつも大人心をも擽る遊び要素をちりばめた本篇は、まさに“ファミリー向け映画”だと思う。その観点からも理想的な着地がまた心地好い。

 本篇は本国での大ヒットによりすぐさま続篇が計画され、2021年末には日本でも封切られた。
 こちらも私は日本語吹替版にて鑑賞している。《ボス・ベイビー》役には当然の如く、最高のフィックスだったムロツヨシが起用された。ほかの主要キャストも同様に再起用されており、その意味での違和感はまったくない。
 ただ、1作目である本篇を鑑賞した時点でうっすら危惧していたことは、残念ながら現実となっていたが――詳しくは続篇『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』の感想にて。


関連作品:
ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』/『アイランド(2005)』/『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』/『とらわれて夏
銀魂』/『SING シング』/『バケモノの子』/『秘密結社鷹の爪 THE MOVIE II ~私を愛した黒烏龍茶~』/『聖☆おにいさん』/『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』/『ズートピア
メリー・ポピンズ』/『燃えよドラゴン』/『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』/『摩天楼を夢みて』/『マトリックス』/『マトリックス リローデッド』/『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』/『トイ・ストーリー3』/『未来のミライ

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