走って逃げるハシゴ。

 先週の火曜日は、付近での上映が間もなく終了する『ジェントルメン』を優先したため、通常ならここに突っ込むはずの午前十時の映画祭11上映作品を先送りにしてしまいました。なので、きょうは考えるまでもなく映画祭上映作品……なんですが、ひとつだけ、困ったことが起きた。
 上映開始が無茶苦茶早い。
 各映画館の事情に合うよう、今年度からこの映画祭はタイトル通りの“午前十時”上映に縛ることをやめた。そのため、作品によっては1日2回以上の上映をする場合もある。しかし今コマの作品、私の定小屋であるTOHOシネマズ日本橋は何故か変な時間帯にかけてる。先週は12時過ぎ、という、仮眠を挟まないと夜が辛い私には厳しい時間割、そして今週はなんと、8時45分スタート、という、朝一番にもほどがある早さ。しかし、コンプリートを考える以上、それでも行かないわけにはいかない。
 きのうはとにかく1日眠気に悩まされていた。それでも頑張ってある程度作業を進めたあと、いつも聴いている伊集院光のラジオを序盤で我慢して就寝。眠気が強かったのが逆に幸いしたのか、かなり深く眠った一方、早めに設定した目覚ましでしっかり起き出すことが出来ました。問題なく上映開始までに映画館に到着。

 というわけで、いつもならまだ家でうだうだしている時間帯に鑑賞した午前十時の映画祭11今コマの作品は、デニス・ホッパーやピーター・フォンダらが自ら脚本・製作を手懸け、低予算ながらも世界的に大ヒット、いわゆる“アメリカン・ニューシネマ”の代表作に数えられるようになったロード・ムーヴィー『イージー★ライダー』(コロムビア映画初公開時配給)
 ……正直、朝一番に観るにはしんどかった。昨日よりはましになったとは言い条、まだ残っていた眠気をかなり刺激されました。だって序盤、特にストーリーがないんだもの。
 ただ、中盤以降になって次第に見えてくるものが重い。従来の価値観を逸脱したライフスタイルを選択したとはいえ、土地に根を下ろした生活にも敬意を払い、マリファナの取引以外は犯罪に手を染めていなかった主人公たちに向けられる排他的な視線、敵意。劇中、デニス・ホッパー演じるビリーが「アメリカは自由の国だったのに」と嘆く場面がありますが、本当に自由を謳歌するひとびとにとっては決して優しくはない。いわば、この時代から生まれた新しい“差別”を、本篇は抉っている。
 その一方で、映像の美しさ、格好良さがまた秀逸。大陸を横断しているからこその祐大で多彩な風景、長く伸びる道を悠然と走るハーレーダビッドソンの凛々しさ、それを彩るロックナンバーの数々。この映像感覚と、アウトローな姿は確かに魅力に溢れてる。主題としても未だ有効な作品ですが、映画としても優れている。いまさらですが、今年のアカデミー賞受賞作『ノマドランド』にはこれへの目配せもあったのだな、と実感。

 この『イージー★ライダー』、上映開始が早いうえに、尺も1時間35分と短め。なので、観終わってもまだ10時半……いけるかも、と思って調べてみたら、新作のなかに尺が短く、かつ10時50分スタート、という間隔的にもちょうどいい時刻の作品があった。しかも、これは是が非でも観なければいけない、と思っていた1本。鑑賞ポイントも貯まっていたので、無料枠で確保してしまいました。
 時間割がうまくハマったのも道理で、上映は『イージー★ライダー』が終わった直後のスクリーン1。なので、あえて座席も同じところを確保してしまいました。
 本日2本目は、『Search/サーチ』で話題を攫った新鋭アニーシュ・チャガンティ監督の長篇第2作、障害のある女性が、母の束縛から逃げるために奮闘するサスペンスRUN/ラン』(kino films配給)
『Search/サーチ』よりもストレートな作りなのがやや心配だったのですが、杞憂でした。前作同様、趣向と気配りに優れた好篇。
 まず感心したのが、障害のある女性の表現が完璧なこと。実はそれも当然で、ヒロインを演じたのは日常で車椅子を使用しているかたらしい。あえてはじめから障害のある俳優を起用するつもりだった、とパンフレットに書いてありました……だとすると、もっと驚くべきはアクションのほうです。障害があるからこその困難とその対策のために身体を張るシーンもほぼ自分で演じてるんですから、その根性に敬服します。
 そして、アイディアとしてはシンプル、舞台も極めて限定されているのに、見事なまでにサスペンスに満ちた組み立てが素晴らしい。前述した、障害があるが故の困難で惹きつける一方、新事実の提示や状況の変化でひねりを加える手管も巧み。ただひとつ、最後にヒロインがある事実を知るくだりの状況作りが雑なのがちょっと引っかかりましたが、あとは隙がない。
『Search/サーチ』がまぐれでなかったことを証明するクオリティ。この監督には今後も期待して良さそうです。ただ、パンフレットで予告されてる『Search/サーチ』続篇は原案のみ、監督は前作で編集を手懸けたコンビが担当しているらしい。とはいえ、スタッフの布陣はほぼ一緒なので、これはこれで楽しみ。

 鑑賞後は、予め目をつけてあった初訪問のラーメン店へ。混んでいたらもっと入りやすい店にするつもりでしたが、空席があったので素直に食べてきました。

コメント

  1. […] 原題:“Easy Rider” / 監督:デニス・ホッパー / 脚本:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、テリー・サウザン /  […]

  2. […] 原題:“Run” / 監督:アニーシュ・チャガンティ / 脚本:アニーシュ・チャガンティ、セヴ・オハニアン /  […]

  3. […]  6月22日のレポート。危うく月をまたぐところだった。 […]

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