長い不在さえ、物語の一部。

 本日の映画鑑賞は、決めるのにちょっと時間を要しました。最優先にしたい1本はある、しかしこれの尺の長さが、どうしてもネックになる。上映時間が長いと、上映回数も限られ、なおかつ私の生活に填め込もうとすると、だいぶイレギュラーな動きをせねばならなくなる。食事の時間もズレるし、午後の仮眠もまともに取れなくなり、そのあとの作業にも大いに影響を及ぼしかねないので、ずーっと躊躇していました。
 が、ここまで気になっている作品を後回しにすれば、楽しみというより気がかりとなって作業の妨げになる。内容によっては、長い尺を眠気と格闘しながら観ることにもなりかねないので、いっそのこと、1日くらいは犠牲にする覚悟で臨むべきだ。ここまで開き直って、やっと決意がついたわけで。
 朝のうちにあれこれと用事を済ませ、やや早めに電車にて日比谷へ……バイクにしなかったのは、安い駐車場は埋まっている可能性が高く、他の駐車場だと高くつくからです。
 まずは昼食です。ふだんよく行くラーメン店の類は基本11時からの開店なので、11時10プン開映の作品に合わせるには、10時台に営業している店で済ませねばならない。ネットの情報から選んだ候補のひとつは、どうやらデータが古いか誤っていたようでまだ開いておらず、目的地であるTOHOシネマズシャンテの目と鼻の先にあるウェンディーズ・ファーストキッチンを利用することに……何なら何百回くらいのレベルで前を通っているのに、利用したのは初めてです。システムもなんも解らなかったので注文で戸惑いましたが、無事に食事を済ませてから劇場へ。
 鑑賞したのは、超寡作の名匠ビクトル・エリセ31年振りの長篇最新作、撮影中に姿を消した俳優を追うドキュメンタリーを軸としたドラマ瞳をとじて(2023)』(GAGA配給)。先日、『エル・スール』を鑑賞したのは、もちろん観たかったのが第一なんですがこれの予習という側面もあったのです。
 率直に言えば、序盤は戸惑いの方が強かった。これまでよりも遥かに多い台詞、デジタルを採用した明瞭な色彩。冒頭の劇中劇でこそ、やはりフランコ独裁政権についての言及があるものの、『ミツバチのささやき』のような言論弾圧に対するメッセージ性とも、その手法を援用した二層的構造の『エル・スール』とも明らかに方向性が違う。やはり丁寧で繊細ではあるけれど、それぞれのシーンや引用に籠めたものよりも、視点人物である映画監督の振る舞いから滲み出す彼自身の人生、そしてその向こう側から現れる、失踪した俳優の人生が匂い立つ。
 ひとつひとつのシーンを丹念に見せていく描写は少々間延びして思えますが、味わい深さは計り知れない。そして何より、終盤に来て、一連の描写が急速に重みを増してくる。そして、あの締め括りの絶妙さ。
 本篇には登場人物ばかりではなくビクトル・エリセ監督の映画作家としてのキャリアまで織り込まれているのがまた趣深い。『ミツバチのささやき』のアナ・トレントがふたたび《アナ》を演じているのもさることながら、主人公の人生や作品を巡る運命に、映画監督ビクトル・エリセがちらつくのです。だからなおさらに、クライマックスの趣向が沁みますし、この結末を選んだことも意味深に映る。
 まさにビクトル・エリセ監督だからこそ成立する、重厚で濃密な映画体験。生活のリズムを大幅に崩してでも駆けつけただけの甲斐は充分すぎるくらいにありました。

 食事も済んでいるので、鑑賞後はまっすぐ帰宅――はしませんでした。いつもより早い時間に食べたせいか微妙に小腹が空いていたので、自宅最寄りのコンビニに立ち寄って、いつもはサイドメニューにしているすみれのワンタンスープを買って軽く小腹を満たしてから、遅めの仮眠を取りました。これでいちおうは辻褄が合った……その代償として、やや食べ過ぎてしまい、透析での除水量が多くなってしまいましたけど、まあ今週はまだ日数に余裕があるので良しとする。

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