意地と誇りと人情と。

 月後半の追い込みの時期、ですが、あんまり根を詰めても、それはそれで鬱々としてくる。折しも、母も「観たい」と言っていた映画が先週からかかっており、あれどうする? と訊ねたところ、最近は仕事のスケジュールが変わって木曜日が空いたので、この日なら、と言う。どのみち私も観たかった作品なので、朝から連れ立って出かけてきました。
 訪れたのはTOHOシネマズ上野、鑑賞したのは、白石和彌監督が草彅剛を主演に迎えて初めて挑む時代劇、有名な落語の演目をもとに、清廉を貫く武士とその娘が誇りを賭けた仇討ちに挑む碁盤斬り』(kino films配給)
 落語がベース、白石監督初の時代劇、浪人となった草彅剛の仇討ち、と妙に惹かれる要素が多くて期待していた1本です。期待に違わぬ、渋みとドラマ性のある良作でした。
 何せ『孤狼の血』の白石監督の描く復讐劇ですから、血みどろになるのかと思いきや、序盤はひたすらに淡々とドラマが進む。随所に仄かな緊張感、素性を秘めた武士の父娘の様子をミステリアスに描いていますが、そこから不意に父娘の過去と、どこか二重写しになる新たな疑惑が浮上する。五回や偏見に翻弄された父娘がそれぞれに覚悟を決めることで、物語は復讐劇として大きく動き始める。
 もととなった落語『柳田格之進』は知らなかったのですが、観てから調べてみると、けっこう大胆なアレンジをしているのですが、新たに付け加えた要素がことごとく効いていて、滑稽味や人情が溢れ出る落語とは違う、渋みに満ちたドラマへと昇華されている。実は原作にはまったく含まれない“仇討ち”という部分が、特に本篇を骨太にしています。原典にもある武士としての“誇り”に1本筋を通し、それ故の悲愴感が際立つようになったすべてを集約したクライマックスのスピーディで壮絶な立ち回りが、このお膳立てによって、より際立っている。
 そしてこの作品、俳優陣がとてもいい。融通の利かない一徹な武士の風格と信念を見事に体現した草彅はもちろん、娘役の清原果耶、仇を演じた斎藤工と、主要なキャストはみんないい。特に、萬屋の主であり、最初はあまり好ましくない人柄であったのが、格之進の清廉な姿勢に打たれて変化していく源兵衞に扮した國村隼、その源兵衛に商いを叩き込まれ、変転していく状況に翻弄される弥吉に扮した中川大志がいい。
 時代劇にお馴染みのセットを多く用いながら、違った佇まいと風情を感じさせるカメラワークも秀逸。個人的に、いちばん好きなタイプの時代劇でした。
 実のところ、売店でちょっとしたゴタゴタがあったり、帰りに食事をテイクアウトしようとしたら想定外のトラブルがあったり、と気分を害することもあったんですが、映画自体は観ておいてよかった、と素直に思える内容でした……これで映画まで微妙だったら、たぶんこのあとの作業にも影響してる。

TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『碁盤斬り』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『碁盤斬り』チラシ。

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