偏愛映画を語ってみる。

 きょうも映画は観てません……だいたい日曜日は何だかんだで映画を観るほどの時間が取れません。夜はバラエティ番組ずっと観続ける羽目になってるし。
 あんましダラダラとしたことばかり書き続けても仕方ないので、たまにはちゃんとコラムっぽいことを書いてみることにします。それなりに気力使うので、年中はやらないと思いますが。

 そもそも家が、新聞や業界誌に載る映画広告の版下を製作する会社を営んでいたので、身の回りに映画絡みのものがたくさんあった……わりには、十代のころまでは映画が好きではなかった。幼少時にちょこっとだけカンフー映画を観て、その後シュワルツェネッガーの一部の作品、それからケヴィン・コスナー出演の新作を毎回観る、なんてことをしていた時期もありましたが、映画全体が好きなわけではなかった。
 特に、血を見るのが大嫌いだったのです。作り物と解っていても、変に想像力が働いてしまうのか、拒絶反応の方が大きかった。シュワちゃんでもヴァイオレンスが強いのは避けていたし、ケヴィン・コスナーも『パーフェクト ワールド』はクライマックスが痛くて、なかなか再鑑賞出来なかったくらいなのです。
 中学時代に、母がたくさん持っていた推理小説に手を出すようになり、高校時代に本格化して、遂に創作までするようになった。そうして読み耽った作品群の中に、しばしば映画のホラー、ミステリ作品が語られていたことが、のちに私を映画に導くことになった。
 しかし、どこで読もうが、細切れにしようが楽しめる小説と違い、映画はわざわざ映画館に足を運んで、2時間は座り続けなければいけない。かつてはそれが、どーしても面倒臭くて仕方なかったのです。
 では、なにがきっかけで映画館まで足を運ぶようになったのか。そのきっかけは、けっこう明白で、この映画をきちんと通して鑑賞したことでした。

 デヴィッド・フィンチャー監督/ブラッド・ピット&モーガン・フリーマン主演『セブン』

 これを初めて観た当時、既に『羊たちの沈黙』は体験していた。あれもだいぶ衝撃的な作品でしたが、『セブン』の衝撃はちょっと種類が違った。
 サイコ・サスペンスの文法なのに、なにかがズレている。本格派の謎解きのように見せて、実は明確な謎解きもなく、頭脳戦のようなものが繰り広げられるわけではない。正直に言えば、最初の頃は、訳も解らずに魅せられていた感が強い。
 その後、謎解きやサプライズの趣向がある小説や映画を更に多く接するようになって次第に解ってきた。
 この作品、一般的なミステリ、推理ドラマのお約束を、ことごとく破壊しているのです。
 起きる事件ひとつひとつが“見立て”になっているのに、モーガン・フリーマン演じるサマセット刑事が発見しなければ悟られもしなかった、という事実。あまりにも執着的で、意図の解らない不気味な犯行手段。絶対に予測できないタイミングで犯人が突如として出没する、という展開の驚きもさりながら、それが未曾有の衝撃をもたらす結末への布石となる作りのしたたかさ。そして、観終わってもなお、すべての意図を読み解けない怖さ。
 分類的には『羊たちの沈黙』以降、一時大量に作られたサイコ・サスペンスに属する、と言っていいのでしょうが、本篇の本質は“恐怖”なのではないか、という気がします。得体の知れない目論見に巻き込まれ、操られ、破壊されていく怖さ。
 最初に観たのはテレビ放映のときだったと思います。初めてのときはただショックを受け、それがまるで心の中で反響を繰り返しながら増幅していくように、虜になってしまった。監督のこだわりゆえなかなかDVDにならず、発売されるなり即座に購入、ブルーレイ版も登場後すぐに購入したほどで、いまも私にとっては偏愛する1本となっている。

 この作品を知ったことで、“映画”という媒体で描かれるミステリに初めて明確な関心を持った。
 それでもすぐに映画館通いを始めることこそなかったものの、抵抗が薄れていったことで、年に1本、家族とともに大ヒット作品やジブリの映画を観るくらいだったのが、2001年、デヴィッド・フィンチャー監督×ブラッド・ピット主演という『セブン』のコンビがふたたび組んだ『ファイト・クラブ』が公開したことで、遂に単身で映画館に足を運ぶようになり、ミステリ小説の界隈でも話題になったM・ナイト・シャマラン監督の『シックス・センス』を経て、『クリムゾン・リバー』と『アンブレイカブル』という謎解き映画を立て続けに鑑賞したことで、遂にタガが外れてしまった。2002年には前年の10倍を超える延べ47本を鑑賞、4年後には年間100回の映画館通いをするまでに至ったわけです。
 こんなにも映画を愉しむようになったのは、通い続け、本篇の前に上映される予告篇や場内のチラシを通して、ミステリ以外の作品の面白さも理解していった、というのが大きいのですが、もう一方で、『セブン』を超える衝撃を味わう瞬間を渇望している、というのも一因なのだろう、と思っている。
 しかし、北村薫みたいな言い回しですが、「初恋に優るものはない」。ショックと神憑りなワンアイディアでシリーズ化までした『SAW』、恐怖と暴力を哲学的な領域にまで高めた『マーターズ(2007)』、アメコミのガジェットを援用して社会派の要素まで採り入れたミステリに昇華した『ウォッチメン』、新たな恐怖の表現を生み出した『ミッドサマー』等々、強く惹かれる作品にも多数巡り逢いましたが、いまでも私にとって最高の1本は『セブン』のままなのです。

 ……それゆえに、ここ数年、私は『セブン』を映画館の大スクリーンで鑑賞したくてなりません。出会いがテレビ放映だったために、未だにそのときは訪れていません。
 もしかしたら、各地で催されている企画上映でかかっているのかも知れませんが、すべてをチェックすることは出来ない。
 現状、最も望ましいのは『午前十時の映画祭』でかけてくれること。2019年度でいったん終了が決まった際のリクエストにも投票してみたものの、採用には至らず。2021年、1年ぶりに再開した際のラインナップに加わっていたのは、『ファイト・クラブ』でした。ままならない。

コメント

タイトルとURLをコピーしました