『デリシャスパーティ♡プリキュア 夢みる♡お子さまランチ!』

TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『デリシャスパーティ♡プリキュア 夢みる♡お子さまランチ!』チラシ。
TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示された『デリシャスパーティ♡プリキュア 夢みる♡お子さまランチ!』チラシ。

原作:東堂いづみ / 監督:座古明史 / 脚本:田中仁 / 総作画監督&キャラクターデザイン:松浦仁美 / 作画監督:廣中美佳 / 美術監督:渡辺佳人 / 色彩設計:清田直美 / 撮影監督:高橋賢司 / 音楽:寺田志保 / 映画主題歌:後本萌葉、北川理恵&Machico / 声の出演:菱川花菜、清水理沙、井口裕香、茅野愛衣、高森奈津美、日岡なつみ、半場友恵、前野智昭、内田雄馬、花江夏樹、和牛(水田信二&川西賢志郎) / 配給&映像ソフト発売元:東映
2022年日本作品 / 上映時間:1時間11分
2022年9月23日日本公開
2023年1月25日映像ソフト発売 [DVD通常版DVD特装版Blu-ray特装版Blu-ray特装版・Amazon.co.jp限定特典付]
公式サイト : https://2022.precure-movie.com/
TOHOシネマズ上野にて初見(2022/9/27)


[粗筋]
 和実ゆい(菱川花菜)たちの暮らす街に、新しいテーマパーク《ドリーミア》が誕生した。ひとりの天才科学者が開発した新しいエネルギーを動力として、“お子さまランチ”をテーマに様々なアトラクションや、子供の喜ぶ食べ物ばかりが提供されるフードコートを用意している、という。
 ゆいは仲間たちと妖精3人と連れ立って訪ねてみた。何故か異常に大人を警戒するロボットが現れ、子供でも大人でもないコメコメ(高森奈津美)たち妖精が捉えられるが、ロボットが放つ光線を浴びると、全員が人間の姿に変わった。
《ドリーミア》では“お子さまランチ”をモチーフにした様々なアトラクションが存在し、支給されたリングに遊んだデータが蓄積すると、フードコートで自分だけのお子さまランチが食べられるという。
 アトラクションを満喫するゆいたちだが、同じように友達と《ドリーミア》を訪れた品田拓海(内田雄馬)の「大人はお子さまランチを食べない」という言葉に、コメコメは楽しみにしていたお子さまランチを食べない、と言い出す。
 その頃、ゆいたちに《プリキュア》となって戦う力を与え、クッキングダムから奪われたレシピボンを取り戻すため協力しているローズマリー(前野智昭)は、レシピボンを感知するデリシャストーンが《ドリーミア》に反応していることに気づき、調査にやって来る。しかし、《ドリーミア》のロボットはローズマリーを強固に拒絶、捕らえると園内のゴミ箱に押し込もうとした。たまたまその現場に行き会ったゆいたちはローズマリーを助けようとするが、一緒になってゴミ箱の中に仕掛けられたトンネルから転落してしまう。
 転落した先には大量のぬいぐるみが転がっており、大人を排除しようとする巨大なロボットがローズマリーを襲いに来た。ゆいは《デリシャスパーティ♡プリキュア》に変身して応戦するが、コックの格好をした巨大ロボットに反撃された拍子に、キュアプレシャス、キュアスパイシー、キュアヤムヤムがコメコメたち妖精と切り離されて変身が解けてしまう。そしてロボットはローズマリーをぬいぐるみに変えると、コメコメもろとも吸いあげてしまう。
 コメコメ達は、《ドリーミア》の園長・ケットシー(花江夏樹)のもとへと送りこまれた。子供たちにはひたすら優しいケットシーは、妖精達を歓待するが、コメコメは提供されたお子さまランチを前に、「早く大人になりたい」という想いが再燃する。そんなコメコメを慰めるケットシーだが、その胸にはある企みがあった。
 一方、唯一変身を保っているキュアフィナーレと、彼女たちに手を貸す戦士ブラックペッパーのお陰で辛くも窮地を逃れたゆいたちだったが、ゆいはこの《ドリーミア》での出来事に、ある記憶を蘇らせていた――


[感想]
 本篇が公開された2022年は、世界中に猛威を振るったコロナ禍がようやく落ち着き始めたころだった。かつては春先に、まだテレビ放映が始まったばかりの新しいプリキュアを中心に、過去のプリキュアたちが協力する《オールスターズ》のシリーズが、秋頃にその年にテレビ放映されているシリーズの劇場版が公開されていたが、『プリキュアミラクルリープ みんなとの不思議な1日』の封切が半年近い延期を余儀なくされたことを契機に《オールスターズ》は製作されなくなった。結果、それまでは春先の《オールスターズ》にて顔見せ的にスクリーンデビューを飾っていたが、先行する『トロピカル~ジュ!プリキュア』と本篇は、顔見せの機会を失い、それぞれタイトルを冠した秋口の作品が、劇場作品において唯一メインを務める作品となってしまった。抗いようのない社会情勢に加え、プリキュア劇場版としての成績も低調に陥っていた遥なので、作品数を抑えるのも致し方のないところだったかも知れない。
 ただ、作品数が絞られ、《オールスターズ》の製作が途絶えても、このシリーズの実験精神とサービス精神の豊かさは変わりない。本篇からもそのことははっきりと見てとることが出来る。
 個人的には、日本の3DCG、トゥーンレンダリングの技術向上に何よりも貢献してきた、と捉えている3DCGによるミニムービーを、小さい観客への注意喚起と、本篇後の余話として、先行する3つのシリーズのプリキュア達がゲスト登場する、いわばコンパクトな《オールスターズ》として活用している。このシリーズの3DCGはレベルが高すぎて、もはや長篇のなかに採り入れてもほぼ違和感をもたらさないレベルに到達しているが、あえてコーナーとして独立させているのが面白い。
 一方で本篇は手書きによる作画が中心だが、こちらのクオリティも極めて高い。通常の場面では省略を多用して愛らしい映像を楽しませる一方、アクションシーンの迫力は驚異的だ。あまりにもカメラの動きが激しく、複雑な計算が必要となるため、CGを援用している可能性は充分にあるが、柔らかく変幻自在なタッチで生み出されたスピード感、躍動感は出色のものがある。1年間を通して製作されるため、限られたリソースを的確に配分せねばならないので、絵のクオリティに変動が生じがちなテレビシリーズに対し、最高のスタッフと時間を費やして生み出された映像は終始ハイレベルだ。もちろん、ダイジェスト風に見せる場面やロングショットでは意識的な省略も見受けられるが、見せるべきところにリソースを投入するのは、配分の巧さの証明でもある。
 ストーリーの組み立ても一流だ。お子さまランチをモチーフにした、大人は立入禁止のテーマパーク、という設定そのものが大人の目からは不自然であり得ないものだが、子供の憧れをシンプルに反映した設定は、本来対象とする観客層を素直に惹きつける。しかもそのうえで、実に成熟した物語を構築している。夢を見るということ、大人になるということ。そこにどうしてもまとわりつく、純粋な夢や理想が大人であるがゆえの打算に踏み付けにされる現実。多くの大人が実際に直面してきたはずのこうした要素を盛り込んだ背景は、無邪気とも言える導入とは裏腹に、大人にとっても響くものだ。こうした、幼年層へアピールしながら大人の心も動かすテーマ性、ドラマ性は劇場版《プリキュア》シリーズが一貫して追及し続けているものだが、本篇は特にその熟練を感じさせる。こちらも劇場版ではお馴染みの特別なコスチュームやオリジナルの変身シーンなど、子供を喜ばせるサービス精神を最後まで貫きながら、大人の胸をも熱くさせるカタルシスが素晴らしい。
 しかもそこに、敵に対する配慮と優しさもあるのがまた見事なのだ。この《プリキュア》シリーズが作を重ねるごとに、回復不能なほどに何かを傷つける要素が削られているからこそ可能な寛大さではあるけれど、立場を変えた見方にも心を配るスタンスは、まだ純粋な観客にいい影響を齎しつつ、既に大人になった観客の感情さえ揺さぶってくる。
 いささかスレた観客にとってはやはり“子供騙し”にも映るだろう。しかし、この劇場版《プリキュア》シリーズが辿り着いているのは、シリーズ長年にわたる蓄積の賜物だ。その価値が読み取れる大人であればこそ、心震わされるものが本篇には宿っている。コロナ禍という苦難を経て、このシリーズが更に成熟していることを窺わせる作品である。

 ……しかし、感想を書き上げるまで少々寝かせすぎたとはいえ、1年3ヶ月ほどにも拘わらず、声優として起用された和牛が解散を発表するとは想像していなかった。
 このシリーズにゲストとして芸人が起用されることがしばしばあるが、基本的に、そのときに売れている芸人か、旬は過ぎたが間違いなく存在感を示した芸人が選ばれている。本篇公開当時は、関西以外での冠番組、レギュラー番組こそないが露出は増え、上がるステージの本数は桁違いだった。およそ落ち込む要素など窺えなかったが、活動の表面を見るだけでは、実情や抱えるトラブルを推測するのはやはり難しいのだろう。
 劇中で芸人としての個性を出すのではなく、ロボットの一員としての登場なので、その後の成り行きを踏まえて鑑賞しても痛々しさはない……が、個性を殺したキャラクターであったことが、なんとなく象徴的にも思えてしまう。
 和牛の芸人としての技倆、魅力はさほど感じられない登場なので、もはやどんな形でも面影に触れたい、というくらいのファン以外は、和牛目当てで鑑賞するメリットはない。実際私は、感想を書くためにデータを調べるまで、和牛が出ていることは忘れていた。


関連作品:
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映画 ゆるキャン△
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