この年の瀬にいきなりニューヨークでの映画イベントを見届けてほしい、と無茶振りをされた貿易商の井之頭五郎は、その代わりに横浜から八王子まで、映画のフィルムを運ぶ役割を引き受ける。届け終わったあとの伸び伸びとした年末を想像する五郎だが、今度は長野まで上映機材ごと輸送を託され、挙句は渡すはずの映写技師が「到着が遅い」と憤って飲みに行ってしまったという。結局、今年も五郎は大晦日まで振り回されるのであった――
あけましておめでとうございます今年もよろしくお願い致します、の一言もないまま、ドラマの感想から始まります。
テレビ東京およびBSテレ東では朝からず~っと、過去の大晦日スペシャルを流して、たっぷりと予習復習をさせてからの最新作です。しかし、並べてみると今回は導入はまだ平穏……と言いつつ、会う人会う人が心理学のドア・イン・ザ・フェイスという技術1を用いて、どんどん五郎さんを遠くに向かわせます……相手はたぶん無自覚だと思うけれど。そろそろ五郎さんは、大晦日は休めないのだ、と諦めるべきかも知れない。
一方で、食事はいつも以上に自由気ままに食べてます。年の瀬なのにイタリアンから始まり、肉がやたらと多い……私は年の瀬の昼間にバイクで寒風に晒された直後にケンタッキーを食べた結果、胃が重たいので、美味しそうだけど刺激が強い。
最終的にどこに向かうのか、はあえて想像もせずに待っていましたが、今回は至極当然のゴールでした。五郎さんとしては成り行きではあるけれど、日本全国を飛び回るこのドラマとしては、あそこに赴くべきなのです。まして、2024年の初日、どうして元日の再放送が途中で終了したのか、と考えれば。珍しくお店探しのくだりでモノローグが消えていたことも忘れてしまうあの映像も、あえて大晦日にこの作品でやる意義があったと思う。
最後に食べるのは年越しそば、ですが普通の店舗として最後に訪れたお店で、恐らくは店主が自分の言葉で語り、恐らくは役に演じる松重豊としての心情を重ねて応えた終幕は静かだけど力強く、心暖まります。
今回のエピソードでいちばん五郎さんを振り回した映写技師の役が泉谷しげるで、エンディングがああいう流れですから、これも当然のごとくラストは賑やか。思ったのとは違う終盤でしたが、1年の締めくくりとしていいエピソードだったと思います。
……期待していたシーズン11の予告はなかったけれど、私はまだ諦めてないぞ。『それぞれの孤独のグルメ』も、フォーマットを応用した実験として面白かったけど、やっぱり五郎さんの食いっぷりをもっと拝みたいのだ。とりあえず、『劇映画 孤独のグルメ』が公開され次第もういっかい鑑賞して渇を癒すけど、こっちはまだまだほしいのだ。
- 先に大きな要求をしてから、より受け入れやすい要求を提示して、受け入れやすくする技。[↩]
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