原題:“The Equalizer” / 原作:マイケル・スローン、リチャード・リンドハイム『ザ・シークレット・ハンター』 / 監督:アントワーン・フークア / 脚本:リチャード・ウェンク / 製作:トッド・ブラック、ジェイソン・ブルームフィールド、トニー・エルドリッジ、メイス・ニューフェルド、アレックス・シスキン、マイケル・スローン、スティーヴ・ティッシュ、デンゼル・ワシントン / 製作総指揮:デヴィッド・ブルームフィールド、エズラ・スウェードロウ、ベン・ワイズブラン / 撮影監督:マウロ・フィオーレ / プロダクション・デザイナー:ナオミ・ショーハン / 編集:ジョン・レフーア / 衣装:デヴィッド・C・ロビンソン / キャスティング:リンゼイ・グラハム、リサ・ロベル、メアリー・ヴェルニュー / 音楽:ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ / 出演:デンゼル・ワシントン、マートン・ソーカス、クロエ・グレース・モレッツ、デヴィッド・ハーバー、ヘイリー・ベネット、ビル・プルマン、メリッサ・レオ、デヴィッド・ムニエ、ジョニー・スコアーティス、アレックス・ヴィードフ、ウラジーミル・クリッチ / エスケープ・アソシエイツ製作 / 配給&映像ソフト発売元:Sony Pictures Entertainment
2014年日本作品 / 上映時間:2時間12分 / 日本語字幕:? / PG12
2014年10月25日日本公開
2019年2月6日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc|アンレイテッド・ヴァージョン 4K ULTRA HD + BLU-RAYセット]
公式サイト : https://www.equalizer.jp/ ※2025年5月現在閉鎖済
Amazon Prime Videoにて初見(2025/5/16)
[粗筋]
ロバート・マッコール(デンゼル・ワシントン)はボストンのホームセンターで働く、温厚で穏やかな壮年の男性だ。同僚や近所の住人にも慕われているが、誰ひとり彼の過去について知らない。
終業後、レストランの同じテーブルで読書に耽るのを日課としていたロバートはそこで、テリー(クロエ・グレース・モレッツ) と呼ばれる少女と出会う。煽情的な服装をした彼女が娼婦であるのは察していたが、ロバートは咎めることも追求することもなく彼女の言葉に耳を傾け、やがて本名がアリーナであり、歌手志望であることを打ち明けられるほどに打ち解けていく。
だがある日、アリーナが半死半生の状態でICUに担ぎ込まれる。病院を訪れたロバートは、アリーナに寄り添う娼婦仲間のマンディ(ヘイリー・ベネット)から、アリーナが客に抵抗し殴り返したため、元締めであるスラヴィ(デヴィッド・ムニエ)によって制裁を受けたことを知らされる。
アリーナが重傷を負う直前にスラヴィに会い、最小限の連絡先のみを記した名刺を受け取っていたロバートは、そのデータを足掛かりに、あっという間にスラヴィの店を特定して訪れると、封筒に入れた9800ドルで、アリーナを解放するように言う。スラヴィは彼女の稼ぎの半月分にも満たない、とあしらい、一ヶ月後に引き取りに来れば解放する、そのときはテリーはボロボロになっているだろう、とせせら笑った。
いちどは立ち去るような素振りを見せたロバートだが、ドアに鍵を閉めて戻ると、穏やかだが土器の籠もった声音で、皆殺しを宣言する。言葉通り、30秒にも満たない時間のうちに、ロバートは部屋にいた全員を始末してしまう。
この一件を受け、スラヴィたちのボスであり、モスクワを拠点にして様々な非合法ビジネスに手を染めるウラジーミル・プーシキン(ウラジーミル・クリッチ)は、自身の配下であるテディ・レンセン(マートン・ソーカス)をボストンへと送りこむ。テディは警察と同様に縄張り争いを疑う一方、現場の痕跡から、相手が凄腕であることも察知する。限られた情報からロバートとその所在に辿り着き、接触を試みるテディだが、ロバートは容易に尻尾を出さず、安易な手出しすら許さない。素性を探っても、解るのは現在のデータだけで過去に遡ることが出来ないことを訝るテディだが、ロバートを犯人と判断し、静かに隙を窺う。
一方のロバートも、自身に接触してきたテディの素性を、過去の伝手を頼って調査する――
[感想]
原作は1980年代に製作されたドラマシリーズ『ザ・シークレット・ハンター』であるという。邦題は異なるが原題は一緒、主人公も人種は違うが同じロバート・マッコールという名前であり、粗筋ではあえてそこまで書かなかった前歴も共通、行為も共通しているようだ。ただし時代背景は現代に、そしてストーリーそのものも完全なオリジナルで製作されているようなので、過去のドラマシリーズを知っている必要はない。実際、画面さえも思い浮かばない私自身が、この作品を充分に楽しめた。
とにかくこの作品、デンゼル・ワシントンが体現するロバート・マッコールが魅力的だ。周囲とはごく自然に接し、知的かつ相手を刺激しないユーモアで和ませる、温和な人柄。それが、罪のない人々を踏みにじる悪党を見つければ、まったく容赦しない。いちおう悔い改める機会を与えるが、更に挑発してきた相手を、護衛き瞬殺、当人にはしっかりと死を実感させながら、絶命まで見届ける。この極端なまでの陰と陽のコントラストが演出する爽快感が半端ではない。
ひたすら悪事を行う連中に鉄槌を加える様が痛快なのは当然だが、本篇の凄みは、ロバートの行動に桁外れのプロフェッショナルがきちんと感じられ、その強さに説得力が備わっている点だ。本筋であるロシアの犯罪組織に関わる人々とは違うところでもロバートは周囲の人々のため密かに悪と対峙しているが、そのうちのひとつは、実際に鉄槌を下す場面を、はっきりとカメラに捉えることなく、その行動で示している。漠然と観ていると通り過ぎてしまう可能性もある趣向だが、普通に観ていれば、「ああこの人、やったな」と伝わる描写には、透徹したリアリズムとプロフェッショナルが感じられるが、同時に作り手のブラックなユーモアも感じて痛快だ。
とは言え、正義の執行者がただ強いだけでは、映画1本は成立しない。そこで登場するのが、強大な敵だ。そもそも本篇で初めてロバートが手を差し伸べるアリーナを苦しめていた元締めが、犯罪組織の一員であり、ダメージを与えられた組織は当然のように刺客・テディを送りこむ。一見大胆なようでいて、多くの痕跡を残さぬよう配慮して行動していたロバートの存在に気づき、やがて辿り着くテディは確かに有能であり、長篇映画を支える敵役としての役割を見事に果たしている。
だが、ロバートはそれでも決して慌てふためいたりしない。ヒリヒリとした攻防の末に繰り広げられる最後の対決は、素晴らしくスリリングだが、まさにこのキャラクターの真骨頂でもある。観客はロバートや被害者に感情移入しているので痛快極まりないが、敵側からすればロバートの作戦は恐怖そのものだし、演出もさながらホラーだ。
いちおう途中でロバートの過去は仄めかされるが、それを意識的にひけらかすことは、ロバート自身も、作品の描写上でもしていない。ロバートは静かに暮らし、彼にとって近しい人々を苦しめる者たちに静かに迫り、制裁を加える。その様はハードボイルド的で、しかも終始徹底している。随所で駆け引きの緊張感を描きながらも、本篇には堂々とした安心感があり、そして決着は痛快だ。対決後のエピローグまで清々しい。
国際的な犯罪組織が登場するが、決して社会的なメッセージ性はない。主人公はもちろん、被害者たちの設定だって、ひとつひとつはありがちなモチーフと言える。しかし、その組み合わせと、芯の通った作りが、本篇に説得力と安心感をもたらしている。流血表現にあまり容赦がないが、そういうものに慣れている、多少は耐性のある人ならば、その恐怖に凌駕する爽快感を得られる、見事なエンタテインメントだ。
すぐに続篇の企画が立ち上がり、2023年の『イコライザー THE FINAL』まで3作が製作され、2024年の『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』のキャンペーンの中でデンゼル・ワシントンは更なる続篇の準備を進めている、と打ち明けた。その理由は、「みんなこの作品が大好きだから」という答を返したらしい。その言葉に繋がるシリーズの魅力は、間違いなくこの第1作が生み出したものだ。
実は私、この作品を観たのは、ケーブルテレビの放送で『~THE FINAL』を断片的に鑑賞したのがきっかけだった。別の日に本篇のクライマックス終盤からエピローグまで目撃し、あくる日に放送された『イコライザー2』で初めて頭から終わりまで通して鑑賞した。断片だけでも面白いのだから、やはりきっちりと第1作からきちんと鑑賞したくなったのだ。これを書いている時点で既に第3作までほぼ全篇観てしまった私は、既に第4作が待ち遠しくてたまらない――ロバートの胸のすくような活躍を、大画面で拝みたいのだ。
関連作品:
『トレーニング・デイ』/『ライトニング・イン・ア・ボトル ~ラジオシティ・ミュージック・ホール 奇蹟の一夜~』/『キング・アーサー(2004)』/『クロッシング(2009)』/『THE GUILTY/ギルティ(2021)』/『メカニック』/『エクスペンダブルズ2』
『2ガンズ』/『ザ・ウォーカー(2010)』/『シン・シティ 復讐の女神』/『キャリー(2013)』/『グリーン・ホーネット』/『ラブソングができるまで』/『オブリビオン』/『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』
『タクシードライバー』/『パルプ・フィクション』/『ザ・タウン』/『バットマン・ビギンズ』/『THE BATMAN-ザ・バットマン-』
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