『Fit Boxing 2』をやる前に、My Nintend Storeの更新をチェックするのが習慣になっています。先月、何気なーくセール中のソフトをチェックしてたら、個人的にものすごい惹かれる題材のものがあった。体験版で軽く遊んでみたあと、しばし悩み、割引の最終日だった先月30日に思い切ってポチってしまいました。
タイトルは『Root Film』。昨年にリリースされた、コマンド選択方式のアドヴェンチャー・ゲームです。
とにかくこれ、私好みの要素が目白押しでした。2視点で物語は展開し、一方の主人公は駆け出しの映像作家でいかがわしい心霊ビデオなどを撮って糊口を凌いでいる。そんな彼が、過去にいちどペンディングになった大きなプロジェクトに参加することになり、過去の企画の謎を追う一方、シナリオハンティングのために各地を巡る合間に事件に遭遇する……という謎解き仕立て。
この主人公の設定がいちいちこちらのツボを突いてきますが、何より心惹かれたのは、舞台が島根県に設定されていること。どうやらプロデューサーが島根出身で、そのために本篇と同様、『ラブプラス』シリーズの箕星太朗をキャラクターデザインに起用した先行作『√Letter』に続いて島根を舞台に選んだらしい。
これでわりあいゲームとしてテンポが良く、解決篇では対戦ゲームの趣で対決するくだりも用意されてる。体験版で遊んでみた印象がなかなか面白かったので、製品版も遊んでみることにしたわけ。
……ほんっとうに、私好みでした。
大きな縦軸となる物語はあっても、基本的に各章で事件は異なり、それをふたりの主人公、八雲やリホが解決していく。企画のために取材に出かけるという設定なので、移動が多いのも当然だし、いちおう映像屋であるため、事件を撮影してしまう、という性質ゆえ謎解きに関わるのも筋が通ってる――まあ死にすぎですし、こんだけトラブルに遭遇してるんだから、次に行動するときはもっと警戒しろよ、とは思いますが。
真相解明のくだりでは、容疑者や重要証人に向かって、それまで《共感覚》と称した能力で記憶したキーワードをぶつけて糺明していくのを、対戦ゲーム風に見せる。ひとつ選択肢を間違えても、次に正解を出せば、こちらが受けたダメージはぜんぶ消えて相手のダメージになるので、実態はシンプルなテキスト選択方式に過ぎないんですが、ゲームのなかでの見せ方としては面白い。
そして何より、ちゃんとそれぞれの事件と謎解きが、ミステリとしてきちんと組み立てられている。細かいところを追求すれば、物理的に厳しかったり、計画が込み入りすぎていて把握しづらい、把握出来てもその必然性が感じられない、というところもあるんですが、それでも意識の高さを感じて快い。
ただし、ぶっちゃけトリック自体はそんなに難しくはない。ある程度ミステリに親しんだひとならば、ほとんどの事件は、謎解きに携わる当人たちが気づくよりも先に手懸かりや、絡繰りの本質を見抜くことが出来ると思います。もうちょっと難易度が高くても……と思う一方で、ゲームとして愉しむなら、ある程度先読みできるほうが正解なのかも知れません。実際、解っているところに解決がハマっていくのはなかなか気分がいい。
残念なのは、リホのシナリオが本質的には本筋と絡まないことと、決着がいささか駆け足に過ぎて、余韻や情緒を欠いてしまったこと。
リホのエピソードと八雲のエピソードがどんな風に繋がるのか、はそれ自体がちょっとした仕掛けになっているため詳述は出来ませんが、リホのエピソードで描かれたことが八雲のエピソードの助けになる、とか変化を齎す、みたいな面白さはない。いちおう、舞台が重なる部分があり、そこから浮かんでくるものもあるのですが、ごく限られているので、ぶっちゃけリホ編を遊んだ意味をあまり感じさせない。
もっと言えば、そもそもリホ編に隠された秘密が、八雲編によって綴られる展開に見合うほど重たくない、というのがいちばん引っかかる。ここをネタばらしせずに説明するのが厄介だ。何にしても、せっかくの2視点があんまり活きていない、というのが勿体ない。
そして決着の問題。そもそもやり口が迂遠すぎる、無駄に手がかかりすぎている、というのをおいといても、その手間に見合うような盛り上がりや、クライマックスの展開が導くエピローグの切ない余韻をうまく演出し切れていない。黒幕の心情や、一連の事件の背後で何をしてきたのか、をもう少し丁寧に見せて欲しかった。そして、エンドロールと共にイラストだけで描いてしまったエピローグも、もうちょっときちんと語って欲しかった。実はこのエピローグ、序盤の出来事と対を為す粋な趣向もあるのに、そこまでの流れを平板にしてしまって効果を減らしてしまってる。ほんとに惜しい。
ちょっと最後で辛くなってしまいましたが、いわゆる謎解きのゲームとしてかなりクオリティは高く、過程は楽しい。当初、ちょっとずつ遊ぶつもりが、終わりの方は止めるタイミングが解らなくなり、終盤4話くらいは一気に進めてしまいましたのですから、惹きつける強さもある。締め括りに物足りなさはあれど、全体としては満足のいく内容でした。
……しかし、これで昨年、島根に行けなかった欲求不満をちょっとでも解消出来たら、と期待してたら、却って熱が上がってしまった気がします。もし今年の秋に再訪できるなら、色々と手筈を整えて、ゲームの舞台となった土地を訪ねてみようかしら。
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