原題:“冰封侠 時空行者” / 監督:イップ・ワイマン / 脚本:マンフレッド・ウォン、ラム・フォン / 製作:マンフレッド・ウォン、ペギー・リー / 製作総指揮:ホワン・チェンシン / 撮影:パーキー・チェン、チョイ・スンファイ / 編集:アラン・チュン、デレク・フイ / アクション監督:イム・ワー / スタント・コーディネーター:ユー・カン / 音楽:ジャン・フイ / 出演:ドニー・イェン、ホアン・シェンイー、サイモン・ヤム、ワン・バオチャン、ユー・カン、ジャン・シューイン、パウ・ヘイチン、ラム・シュー、倉田保昭 / 配給:TWIN
2018年中国、香港合作 / 上映時間:1時間27分 / 日本語字幕:本多由枝
2019年1月19日日本公開
[粗筋]
明の時代、朝廷に忠誠を誓い皇帝のために尽くしてきたホー・イン(ドニー・イェン)は突如として謀反の疑いをかけられ、雪山からの逃走中に雪崩に巻き込まれた結果、氷づけとなって現代の香港に蘇った。だが、討っ手達も同じように現代に息を吹き返していた。かつて兄弟同然に過ごしていたニッ・フー(ユー・カン)とサッ・ゴウ(ワン・バオチャン)との激しい死闘を繰り広げたのち、ホー・インは無実の罪によって滅ぼされた郷里の民を救うため、過去に戻る必要を感じる。
そのために、かつて皇帝に捧げられた、時空を操ることの出来る秘宝を起動すべく、自身が別に委ねられた秘宝・リンガの力を使う意を固めた。やはり彼と兄弟同然だった間柄であり、警察に潜伏していた将軍チョン(サイモン・ヤム)、先の死闘で生き残ったゴウとともに、いまは洞窟の中に隠された巨大な円環を訪ねる。
だが、チョンとゴウには、ホー・インを連れていく気はさらさらなかった。ゴウは密かに現代の世界でホー・インの道先案内を務めていたメイ(ホアン・シェンイー)を攫っており、躊躇するホー・インに、メイの命と引き換えに、秘宝を起動する呪文を唱えさせる。
時間移動の衝撃で、秘宝の封じた洞窟は崩落し、ホー・インとメイは閉じ込められる。だが幸運にも、秘宝を起動するためのリンガは残っていた。ふたりはチョンとゴウの企てを阻止するため、ホー・インの故郷の人々を救うため、過去へと跳躍する――
[感想]
かつて香港の映画界では、発表前の脚本が盗まれることが多かったという。それ故に、あえて脚本を作らずに撮影をはじめ、あとでまとめるということが頻繁に行われたらしい。初期のジャッキー・チェン主演作に見られるいい加減さ、ストーリーのまとまりのなさは、そうしたところに起因していたようだ。
いまとなっては昔の話である。香港映画の質は向上し、『ディパーテッド』としてハリウッド・リメイクもされた『インファナル・アフェア』に代表されるような、極めて練りこまれたシナリオで魅せる作品も増えた。計画的に制作しなければないCGという技術を多用した作品も増えているため、設計図の大元となる脚本は必要不可欠のはずだ。
――が、本篇を観ると、まだそういういい加減なことをやってんじゃないか、と疑いたくなる。それほど本篇のストーリーは違和感とツッコミどころだらけだ。
そもそもこの作品には、『アイスマン 超空の戦士』という先行作が存在する。明らかに“次回に続く”という終わり方をしていたのだが、こちらが制作されたのは2014年、本篇の公開まで実に4年を要している。だから絶対的に必要だった、と言われればその通りなのだが、冒頭ではかなり長い尺を使って前作をおさらいしている。だから本篇の尺は更に短く、恐らくは1時間10分程度しかないはずだ。
その尺に、時間移動を含む複雑な話を詰めこもうとするのだから、話が進むほど破綻が著しくなるのも当然なのだが、本篇の場合、序盤から矛盾が見える。追跡者に見つかりにくくするためホー・インは序盤で髪を切るのだが、直後にその追跡者たちと、和気藹々とした様子で行動を共にしている。その過程で話し合いが行われているのかも知れないが、ならばその点をこそ描かなければ、観客は置いてきぼりになってしまう。
そのあと、タイムトリップのくだりに入っていくが、このタイムトリップのルールもいまいち解りにくい。リンガを装着することで起動し、装置のなかにいる者を転送するようだが、行き先の時代や場所を設定している様子がない。チョンたちが差し支えなく本来の時代に帰還できたのに対し、何故ホー・インとメイがより近い時代にいちど下ろされたのか。恐らく、行きがかりに歴史を変えてしまった、という面白さを演出したかったのだろうが、ルールが曖昧すぎて取って付けたような印象しか与えない。
どうにかホー・インの本来の時代に戻ったあとも、SFとしてもドラマとしても展開が雑すぎて引っかかるところが多い。タイムトラベルもので問題になるのが、同時代に同じ人物が存在する場合の辻褄合わせなのだが、本篇はやもするとニアミスするような時期と場所であるにも拘わらず、都合よく当事者がいない、という展開を繰り返しているうえ、成り行きを考えると絶対に現れるはずのない人物が現れる、という矛盾も無自覚に盛り込まれている。クライマックスに至っては、どうしてここにいるのか、どうして説明する必要のないことを説明するのか、ということばかりで、盛り上がりの興奮よりも先に失笑が湧いてくる始末だ。日本の武将役で倉田保昭が出演しているのだが、さすがにそんなところに現れては不自然だろう、というシーンで登場するもので、豪華なキャスティングにも拘わらずギャグっぽさが滲んでしまうのはどうのももったいない。
これでせめて、主演のドニー・イェンの身体能力を活かしたアクション描写がふんだんに盛り込まれているならまだ楽しみようもあるのだが、その意味でも物足りない。アクションシーンは何箇所かあるがあまりヴォリュームが感じられず、展開時用の必然性も乏しいのでカタルシスも薄い。
褒められるところがあるとすれば、CGでの演出が丁寧であることと、場面ごとの構図は決まっていて絵的な見応えがある、ということぐらいだろう。列車の上を疾走するドニーや、ジャケット姿で馬を駆るドニーの佇まいは凜々しく見映えがいいのだけど、ストーリーのまとまりが悪すぎて効果を上げていない。
斯様に、あまりにとっちらかった作り故に、果たしてきちんと図面を引いて仕上げた、というのが疑わしく思えてしまう。事実上前後篇の構成であるにも拘わらず、前篇に相当する前作から4年も費やしていることも併せて考えると、、制作上にかなりのトラブルがあって、用意できた素材で無理矢理作品をでっち上げたのではないか、と勘繰りたくなるのだ。事情は違えど、結果的にかつての香港映画のような作り方をせざるを得なかったのではないか、と感じるのである。
予め、雑然としたストーリーのツッコミどころを拾って楽しむ、というつもりになれば、退屈はしないだろう。しかしまともに話を追おうとすると却って混乱し、苛立ちのほうが募る恐れがある。基本、どんな作品でも褒められるところは評価する、という立場を取りたい私だが、こればっかりは褒めてはいけないような気がする。作るならもーちょっと魅せる努力をしましょう。
関連作品:
『ウォーロード/男たちの誓い』/『風雲 ストームライダーズ』
『イップ・マン 序章』/『レジェンド・オブ・フィスト/怒りの鉄拳』/『スペシャルID 特殊身分』/『トリプルX:再起動』/『ドラゴン×マッハ!』/『白蛇伝説~ホワイト・スネーク~』/『ドラゴン・コップス -微笑捜査線-』
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』/『リターナー』/『メン・イン・ブラック3』/『未来警察 Future X-Cops』/『オール・ユー・ニード・イズ・キル』
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