『ジュピター(字幕・3D・TCX・DOLBY ATMOS)』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン8入口脇に掲示された『ジュピター』チラシ。
TOHOシネマズ日本橋、スクリーン8入口脇に掲示された『ジュピター』チラシ。

原題:“Jupiter Ascending” / 監督&脚本:ウォシャウスキー姉弟 / 製作:グラント・ヒル、ラナ・ウォシャウスキー、アンディ・ウォシャウスキー / 製作総指揮:ブルース・バーマン、ロベルト・マレルバ、スティーヴン・ミューチン、ユージーン・ラドクリフ / 撮影監督:ジョン・トール / プロダクション・デザイナー:ヒュー・ベイタップ / 編集:アレクサンダー・バーナー / 衣装:キム・バレット / 視覚効果監修:ダン・グラス / キャスティング:ローラ・ケネディ / 音楽:マイケル・ジアッチーノ / 出演:ミラ・クニス、チャニング・テイタム、ショーン・ビーン、エディ・レッドメイン、ダグラス・ブース、タペンス・ミドルトン、ニッキ・アムカ=バード、クリスティーナ・コール、ニコラス・A・ニューマン、ジェイムズ・ダーシー、テリー・ギリアム、デヴィッド・アヤラ / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.
2015年アメリカ、オーストラリア合作 / 上映時間:2時間7分 / 日本語字幕:?
2015年3月28日日本公開
2015年12月16日映像ソフト日本盤発売 [DVD Video:amazon|Blu-ray Disc:amazon]
公式サイト : http://www.jupitermovie.jp/
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/81281872
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2015/4/8)


[粗筋]
 ジュピター(ミラ・クニス)は叔母と共に家政婦として働いている。早朝に起き、裕福な家のトイレを毎日掃除し続ける人生にうんざりしていた。
 前々から探していた望遠鏡を買いたい一心で、ジュピターは雇い主の女性を装って卵子提供の仕事を引き受ける。だが、手術台につくと、医師たちはジュピターを殺害しようとした。だが、そこへ突如として駆けつけた男がジュピターを救い出した。
 ジュピターを救った男、ケイン(チャニング・テイタム)は、自らを宇宙人と言った。ジュピターを襲撃したのは“番犬”と呼ばれるダイオライト星人であり、彼らはジュピターの暗殺を指示され、DNAから彼女を探し出したのだという。
 ケインは彼女を宇宙船に乗せて、彼に救出を命じたタイタス(ダグラス・ブース)のもとへ連れて行こうとしたが、タイタスの兄であり、ジュピターを狙う張本人でもあるバレム(エディ・レッドメイン)が既に手を回しており、搭乗直前に宇宙船は落とされてしまう。
 激しい空中戦の果て、どうにか追っ手を撃退することには成功したものの、地球からの脱出手段を失ったケインは、スティンガー(ショーン・ビーン)という人物を頼った。何故か大量の蜂がジュピターに従う姿を見たスティンガーは、彼女を《陛下》と呼び、ひざまずいた。
 スティンガーもかつてはケインと同様、兵士だった。しかし、あるとき主君に文字通り噛みついたケインをスティンガーがかばい、死刑こそ免れたがふたり揃って軍を逐われてしまった。ケインは一匹狼の傭兵として生き延びたが、スティンガーは地球に移り住み、娘と共に農業を営んでいた。そこでケインは、この窮地にスティンガーを頼ったのである。
 地球で育ったジュピターがあずかり知らぬ宇宙のルールが、知らないうちに彼女を宇宙の権力争いに巻き込む。果たして彼女はどんな運命を辿るのか――?



『ジュピター』Blu-ray版(Amazonの製品ページにリンク)。


[感想]
 公開時、あまりいい評判を耳にすることがなく、劇場に足を運ぶのをいささか躊躇った覚えがある。けっきょくは自分の目で見て判断する、というのを信条にしているので出かけたが、やはりそれは間違っていなかったように思う。実際に鑑賞してみると、決して不出来な作品ではない。
 とは言い条、評価が低くなったのも頷ける。こう言ってはなんだが、モチーフがことごとく古臭くチープなのだ。不遇を託つ女性が実は宇宙の王位を継承する人間であり、自らを救うために現れた騎士と恋に落ちる。そんな彼女を巡る、宇宙の権力者たちの争いも、SF王道のガジェットで彩った古典的なソープオペラの趣だ。なまじ本篇が、『マトリックス』で革命的な衝撃を映画界にもたらしたウォシャウスキーズ久しぶりの完全なオリジナル作品だっただけに、それにしてはあまりに陳腐な構造は大いに物足りなく映る。
 だが、そういう王道のストーリーを独自のスタイルで描く、という捉え方をすれば、まさに『マトリックス』を作った監督らしい個性的なアイディアとヴィジュアル・センスに彩られているのは間違いない。
 序盤で目を惹かれるのは“騎士”的な役回りのケインが操る、滑空するブーツを用いたアクションだ。まるで重力を無視したローラースケートのような動きと、それを視覚的に強調する靴底の光が画面に激しくも芸術的な彩りを生み出す。『マトリックス』の、時間を極限まで圧縮したアクションとは異なるが、これもまた独創的だ。
 そして、大宇宙で展開される様々なSF的趣向と、その美術もまた、どこかノスタルジックでありながら類を見ないものばかりだ。しばしばファッションショーで目撃するような、奇抜だが決して人類の常識を逸脱しない衣裳と、西欧にアラビアを彷彿とさせる様式もちらつく、過去と未来が絶妙なバランスで溶けあったような美術の数々が作り出す映像は、どこを切っても見たことのないヴィジュアルを展開させる。細部にまで盛り込まれた創意、豊富なイマジネーションを無視して本篇をただ陳腐なもの、と捉えてしまうのはさすがに軽率だろう。
 ストーリーにしても、整理しようとするとけっこう複雑に組み立てられている。根底にあるアイディアは『マトリックス』とも共通するものだが、それをどう達成するか、という思想の違う3兄弟の思惑がジュピターを振り回しながら、そのなかで世界観を巧みに順序立てて彼女、ひいては観客に伝えていく。登場する使者たちがどこに属するのか、それぞれにジュピターをどうするつもりなのか、がなかなか解りづらいまま進行してしまう嫌味は確かにあるが、随所に躍動的な見せ場を盛り込みながらレベルの高いSF世界を観客に、解り易く体感させようというスタンスは明瞭だし、好感が持てる。
 そうした緻密な構造の上に、ジュピターという女性の体験にロマンティックな願望をこれでもかとばかりに詰めこんでいる。途方もない権限を引き継ぐ立場であるが故に狂った権力者によって翻弄される、という筋立てもそうだが、そこに本質は一匹狼、それでいて自分にだけは誠実なナイトが現れる。窮地に陥るごとに毎回、文字通り滑り込むように現れて救ってくれる彼に“Your Majesty”と呼ばれるのが心地好くて、そのたびに繰り返させるやり取りも、まさに願望の具現化と言っていい。
 アメリカの都会で暮らすジュピターという女性そのものは貧乏で、似たような境遇の人々と寄り集まってどうにか日々を支えるような立場だ。特殊能力はおろか学があるわけでもなく、この状況を抜け出す術を知らない。そして、その本質は、どれほどつけ狙われようと祭りあげられようと最後まで変わらないのだ。しかし、そんな彼女のままで事態に抵抗し、自らの意志を貫こうとする姿は逞しく、同時に親しみも持てる。いささかチープに見えるラストの反撃にしても、オーソドックスですらあるクライマックスの危機における対応も、ジュピターを本質的に私たち変わらない普通の人間のままで、自らの運命を乗り越えさせる、という作り手の姿勢の表れだろう。
 要するに本篇は、『マトリックス』を創出したクリエイターが、作家性を維持しながら、より親しみやすさを高め、ロマンを詰めこんだSFなのだ。そう解って鑑賞すれば、本篇は驚くほどにブレがない。問題は、それゆえに趣味が合わないと受け付けない、面白くない、と感じてしまうことだろう。作家性が確かなのも、時として考え物なのかも知れない。

 本篇を発表したあと、ウォシャウスキーズはしばらくテレビシリーズに携わり、その後いちどスタジオを解散した、という報道があった。本篇時点で年長のほうが性適合手術を受けラリーからラナに改めていたが、その後年少のアンディもリリーとなるなど、プライヴェートでの変化が大きく、人生の転換を図っていたのかも知れないが、本篇が映画ファンに快く受け入れられなかったことも、大きな変化に繋がったのでは、と勘繰りたくなる。
 だがここに来て、姉のラナ・ウォシャウスキー単独の監督により、出世作である『マトリックス』第4作を制作していることが公表された――個人的には、またこれで世間の求めるものと、彼女たちが理想とするものの乖離が露わになってしまわないか、と少々危惧している。
 上でも語ったとおり、彼女たちのディープなSF素養に裏打ちされた緻密な作品世界と、独創的なヴィジュアルは、作家性として確立されている。願わくば、『マトリックス4』が興収的にも批評的にも一定の成果を収めて、また新しい世界を提示する機会があらんことを。彼女たちにはまだ開けられてない抽斗があると思う。


関連作品:
バウンド』/『マトリックス』/『マトリックス・リローデッド』/『マトリックス・レボリューションズ』/『スピード・レーサー』/『クラウド アトラス』/『Vフォー・ヴェンデッタ
サード・パーソン』/『サイド・エフェクト』/『サイレントヒル』/『レ・ミゼラブル(2012)』/『ノア 約束の舟』/『イミテーション・ゲーム エニグマと天才科学者の秘密』/『オーメン(2006)』/『ブリッツ』/『ダークナイト
オズの魔法使』/『オズ はじまりの戦い』/『2001年宇宙の旅』/『ジョン・カーター』/『リディック』/『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス

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