『木挽町のあだ討ち』

TOHOシネマズ錦糸町オリナス、スクリーン8入口脇に掲示された『木挽町のあだ討ち』チラシ。
TOHOシネマズ錦糸町オリナス、スクリーン8入口脇に掲示された『木挽町のあだ討ち』チラシ。

原作:永井紗耶子 / 監督&脚本:源孝志 / 企画プロデューサー:須藤泰司、渡辺ミキ / 撮影:朝倉義人 / 照明:池本雄司 / 美術:吉田孝 / 装飾:三木雅彦 / 衣装:大塚満 / VFXスーパーヴァイザー:田中貴志 / 殺陣:清家一斗 / 編集:小泉圭司 / 録音:西村憲昭 / 音楽:阿部海太郎 / 出演:柄本佑、長尾謙杜(なにわ男子)、北村一輝、渡辺謙、瀬戸康史、滝藤賢一、高橋和也、正名僕蔵、山口馬木也、愛希れいか、イモトアヤコ、野村周平、本田博太郎、冨家ノリマサ、石橋蓮司、沢口靖子 / 製作プロダクション:東映京都撮影所 / 配給:東映
2026年日本作品 / 上映時間:2時間
2026年3月6日日本公開
公式サイト : https://www.kobikicho-movie.jp/
TOHOシネマズ錦糸町オリナスにて初見(2026/3/13)


[粗筋]
 文化七(1810)年一月十七日、江戸・木挽町にある芝居小屋《森田座》では、雪の降りしきる中、『仮名手本忠臣蔵』の千穐楽を迎えた。客たちが小屋から溢れ出した矢先に、騒動が巻き起こった。
 最近、江戸界隈で悪名高い作兵衛(北村一輝)という男が、ひとりの見目麗しい女に目を付け、あとを追って森田座脇の火除地に向かうと、女と思われた人物は着物を脱ぎ捨て、白装束の若い武士に変貌した。彼の正体は、伊納菊之助(長尾謙杜)――父・清左衛門(山口馬木也)を、その家来であった作兵衛に殺され、仇として美濃の遠山藩から江戸まで追ってきたのだ。
 大勢の野次馬が見守るなか、炭焼き小屋で落とした作兵衛の首を掲げた。作兵衛の首を提げた武士は、割れた人垣を通って、番小屋へと向かっていった。
 それから一年後、森田座にひとりの侍がふらり、と現れた。
 加瀬総一郎(柄本佑)と名乗るその侍は、菊之助の遠縁にあたると言い、木戸芸者の一八(瀬戸康史)を皮切りに《森田座》の面々と接触し、菊之助の“あだ討ち”の一部始終を訊いて回った。
 総一郎の目的は、遠山藩に帰参した後も菊之助が口をつぐむ、作兵衛の首を探し、せめてもの弔いを行うことだというが、果たしてそれは真なのか――?


[感想]
 原作は未読のまま鑑賞したのだが、本篇の脚色は非常に工夫を凝らしたものだったらしい。
 詳しくは記さないが、パンフレットで確認したその内容からすると、確かにそのまま映画化するのは難しかったかも知れない。それを、ひとつの要素を加えて捻りを入れることで、見事なまでに優秀な娯楽映画に昇華させている。
 広告や予告では“極上のミステリー”とあるが、ただ、ミステリに慣れ親しんだ人だと、謎を解くこと自体は難しくないかも知れない。実のところ私も、基本的な構造は早い段階で読み解けた。
 しかし、読み解きやすいのは決して拙さや不出来を意味するものではない。むしろ、的確にきっちりと描写しているから、読み取りやすい、という側面もある。きちんと手懸かりのピースがちりばめられ、それが次第に想定していたところに嵌まっていく快感は、間違いなく良質のミステリ作品のそれである。
 だが本篇の何よりも優れているのは、時代劇としてのクオリティである。
 冒頭の“あだ討ち”シーンで大立ち回りで魅せたあと、殺陣の場面こそないが、芝居小屋とい枠の中で、当時の市井を描くドラマとしての味わいがたっぷりと詰め込まれている。主に総一郎の口を借りて語られる武家の人間関係と、《森田座》の面々の姿から滲み出す民衆の生活ぶりに、きちんと取材を行って生み出されたリアリティと、時代劇ならではの劇的なドラマが巧みに共存している。
 そして、登場人物たちの個性の豊かさも魅力である。飄々としてとぼけた態度だが、しかし随所に鋭さをちらつかせる総一郎、芸者としての人懐っこさが憎めない一八、寡黙で実直な立師相良与三郎(滝藤賢一)、女形として生きてきた男性の独特な振る舞いが印象的な芳澤ほたる(高橋和也)、腕はいいがほとんど口を利かず妻・お与根(イモトアヤコ)が話すに任せている小道具方の久蔵(正名僕蔵)、武家出身ながら一座の立作者となった篠田金治(渡辺謙)と、それぞれに個性が立ちつつも、すぐに全体像を窺わせないキャラクター性の奥行きが、中心となる謎と絡みあって、惹きつけて止まない。
 飄々とした総一郎と森田座の面々とのやり取りは随所にユーモアがちりばめられしばしば口許が綻んでしまうが、その中にもきちんと謎解きのための伏線とドラマが忍ばせてある。それが段階的に昇華されていくクライマックスにしっかりとカタルシスを生み出している。
 本篇におけるいちばん見どころは、この謎解き部分のユニークな味わいだ。ミステリ作品では謎解きが“犯行”の一部始終の再演によって描かれるが、本篇もその例に漏れない。しかし、恐らく多くの人が想像するトーンとは異なるはずだ。意外なハラハラ感に、思いがけないユーモラスな趣向も盛り込まれ、ひと味違っている。その上で更に驚きと感動も迫ってくるのだから、実にそつがない。
 この作品は極めて誠実に組み立てられた“謎解き”であると同時に、日本人の多くが抱く“時代劇”に求められる要素もしっかりと詰め込まれている。陰謀を張り巡らせる悪人に翻弄される善人、そこに人情が絡んで、終幕で昇華される。そこに江戸時代ならではの生活や価値観、更にはチャンバラと笑いの要素までしっかりとちりばめられているのだ。これほど満足感の高い“時代劇”はいまどき希有だ。
 前年に高い評価を受け、邦画史に残るヒットを遂げた『国宝(2025)』に続くのでは、という期待すらかけられたのも頷ける。だが、“歌舞伎”という要素で共通しながらも、この“芸”に対する臨み方も、表現する上でのスタンスも、本篇は『国宝』とは異なっている。そのこともまた非常に興味深いのだが、本篇が好意的に受け止められているのは、決して『国宝』に続くものを求めていたところに現れたから、というわけではあるまい。長尺でも観客に脚を運ばせた『国宝』があったことで、敷居が惹くなったことが奏功している、というのは確実にあるだろうけれど、仮に『国宝』がなくとも本篇は受け入れられたことだろう。それだけの魅力と価値を備えた作品だと思う。


関連作品:
一度も撃ってません』/『沈黙のパレード』/『GODZILLA ゴジラ(2014)』/『コンフィデンスマンJP 英雄編』/『見える子ちゃん(2025)』/『樹海村』/『アナザー Another』/『探偵はBARにいる』/『桜田門外ノ変』/『ミステリと言う勿れ
国宝(2025)』/大鹿村騒動記
許されざる者(2013)』/『超高速!参勤交代』/『引っ越し大名!』/『大名倒産
近松物語 4Kデジタル復元版』/『最後の忠臣蔵

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