『マトリックス レボリューションズ〈4Kマスター版〉』

原題:“The Matrix Revolutions” / 監督、脚本&製作総指揮:ラリー&アンディ・ウォシャウスキー / 製作:ジョエル・シルヴァー / 製作総指揮:グラント・ヒル、ブルース・バーマン / 撮影:ビル・ポープ / 美術:オーウィン・パタソン / 編集:ザック・ステインバーグ / 音楽&指揮:ドン・デイヴィス / 視覚効果監修:ジョン・ゲイター / 衣裳:キム・バリット / ファイト・コレオグラファー:ユエン・ウーピン / 音響&サウンドエディット監修:デーン・A・デイヴィス / コンセプト・デザイナー:ジェフリー・ダロー / 出演:キアヌ・リーヴス、ローレンス・フィッシュバーン、キャリー=アン・モス、ヒューゴ・ウィーヴィング、ジェイダ・ピンケット・スミス、モニカ・ベルッチ、コリン・チョウ、ノーナ・ゲイ、ハリー・レニックス、ハロルド・ペリノー、ランベール・ウィルソン、アンソニー・ウォン、バーナード・ホワイト、イアン・ブリス、タンビーア・アトウォル、ブルース・スペンス、メアリー・アリス、ナサニエル・リーズ、クレイトン・ワトソン、ヘルムート・バカイティス / 配給&映像ソフト発売元:Warner Bros.
2003年アメリカ作品 / 上映時間:2時間9分 / 日本語字幕:林完治
2003年11月05日日本公開
午前十時の映画祭12(2022/04/01~2023/03/30開催)上映作品
2019年9月21日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc日本語吹替音声追加収録版 4K ULTRA HD&HDデジタル・リマスター Blu-ray Disc]
公式サイト : http://www.thematrix.com/japan ※閉鎖済
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/60031303
上野東急にて初見(2003/11/052003/11/06)
TOHOシネマズ日本橋にて再鑑賞(2022/8/23)


[粗筋]
 ザイオンの人口に匹敵する膨大な数のセンティネルズが、ザイオンの潜む地下空洞に到達するまで20時間を切った。しかし、救世主であるべきネオ(キアヌ・リーヴス)はネブカデネザル号から脱出した際、現実にはあり得ない力を行使したあと、意識を喪失したまま目醒めない。モーフィアス(ローレンス・フィッシュバーン)、トリニティー(キャリー=アン・モス)が身を寄せたミョルニール号の乗員たちが他の生存者の捜索とザイオン救済策の模索に右往左往するなか、オペレーター室の電話が鳴った。預言者の護衛・セラフ(コリン・チョウ)はモーフィアスたちにマトリックス内部に来るよう呼びかける。
 最後のダイブに赴いたモーフィアスとトリニティーの前に現れた預言者=オラクル(メアリー・アリス)は、以前と異なる姿形をしていた。困惑するふたりに、オラクルはネオが現在置かれている状況を告げる。ネオの精神はいま、現実世界とマトリックスの世界の境に取り残されている、と。前にネオが口にした言葉のために混乱し、オラクルへの信頼が揺らぎはじめていたモーフィアスだったが、ことを為さなくともいずれ今夜すべてが終わる、という現実を受け止めて、案内役のセラフのあとに従った。
 セラフの導きで、現実とマトリックスとのあいだを行き来する電車の管理人・トレインマン(ブルース・スペンス)のもとを訪れるが、トレインマンはそれを拒み逃走する。セラフはいったんオラクルの元に戻ることを提案するが、トリニティーたちは迷うことなく、トレインマンの主人であるマトリックスの古い住人・メロビンジアン(ランベール・ウィルソン)のいるバーを急襲した。
 トリニティーの命を張った駆け引きでどうにかマトリックス内部に帰還したネオは、姿の変わったオラクルを訪ねる。マトリックスのソースで設計者と会ってからのちオラクルに対して不信感を抱いていたネオだったが、この面談でふたたび心が揺らいだ。
 ネオたち三人が現実に戻るとともに、行方不明になっていた船のひとつ、ロゴス号が発見された。船長のナイオビ(ジェイダ・ピンケット・スミス)ら乗員も無事だったが、胸を撫で下ろす暇もなく一同は次の行動に移らねばならなかった。膨大なセンティネルズに対処できる兵器EMPは船が装備し、ザイオンには存在しない。戦闘用マシンAPUでの応戦にも限界がある。センティネルズの本隊がザイオンに殺到する前にドックに辿り着く必要があった。ミョルニール号よりも小回りの利くロゴス号での作戦を検討する中、遂に意を決したネオが言った。 「俺は、機械都市に向かう」


TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『マトリックス レボリューションズ〈4Kマスター版〉』上映当時の午前十時の映画祭12案内ポスター。。
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面に掲示された『マトリックス レボリューションズ〈4Kマスター版〉』上映当時の午前十時の映画祭12案内ポスター。


[感想]
 観ているときは別に難しいとは感じなかったのだが、改めて粗筋をまとめようとすると結構ややこしい。それだけこんがらがった物語を平易に見せている点はまず確かだと思う。
 一方、第一作第二作と比べると、どこか手触りが違う。それは、冒頭に度肝を抜くような場面を置いていないこと――前作のエンディングを素直に踏襲した形で話が始まっている――と、物語の大部分が仮想現実空間ではなく現実空間を舞台にしている点に起因しているようだ。
 本質的に『~リローデッド』と本編は地続きになっており、だからこそ従来のような「つかみ」という面の強いオープニングを廃し、『~リローデッド』で断片的に描いた、ネオが救うべき世界としてのザイオンを話の中核に据えたとも考えられる。『~リローデッド』最大の不運は、あとに本編が存在していたことだ、と当時の感想に書き留めていたが、それを証明する内容でもあり、またある程度は『~リローデッド』での不満を解消する出来になっていたことも事実だろう。
 ただ、それだけに『マトリックス』に始まるトリロジーの決着として見ると、却って不満が増えることも確かなのだ。舞台の大半が現実世界になってしまったため、ブレットタイムや『~リローデッド』のネオ対スミス100人のような想像力の限界を超えていくような描写はなりを潜めている。無論、後半でザイオンのドッグを襲うセンティネルズの大群や、機械都市を訪れたネオを迎える「顔」、そして最大の目玉でもあるネオ対スミス最終決戦と、VFXの粋を凝らしたような場面は幾つも存在するのだが、大半が現実世界の出来事だという制約があるために、迫力はあるのだがそれは例えば『スターウォーズ』や『A.I.』などに類するもので、アイディアよりも技術力と労力が齎したものと感じてしまう。この感覚は、本来『マトリックス』に――とりわけ、第一作のスタイリッシュな描写に痺れたような向きが求めているものとは異なっている。ミフネ(ナサニエル・リーズ)が一所懸命APUを駆ってセンティネルズを撃ち落とすたびに、「スタッフ頑張ってるねえ」と同情してしまうのは、やはりちょっと間違っているだろう(……尤も、ブレットタイムを初めて見たときも似たような感慨を抱いたんだけど)。
 加えて、『~リローデッド』で急に色濃くなった観念的な描写が更に濃度を増しており、結末もまたそれを敷衍していることが、『マトリックス』第一作から抱く期待とは食い違った印象をより増幅している。あの決着では腑に落ちない、満足のいく結末ではない、という感想を抱く人もたぶん多いはずだ。
 だがその一方で、終盤の展開もこの結末も、第一作で提示された要素を踏まえたものになっている点は言及するべきだろう。未見の方のために詳述することは避けたいが、終盤の展開は『~リローデッド』および本編で登場したガジェット以上に、『マトリックス』本編の描写をきちんと反映している。『マトリックス』から『~リローデッド』に至る展開で観客が期待した結末はもっと大規模なものだが、『マトリックス』第一作に内在していたテーマははじめからこの方向性を示唆していたと思われる。スミスの壮絶な最期がいちばん解りやすい対比だろう。
(……ただ、そうやって考えていくと、『~リローデッド』で示したガジェットの大半が、結末にとっては不要なものだった、という結論になるのだが)
 但し、神話的なモチーフを多く取り入れながら、提唱してきたテーマを反芻しつつ導き出した結末は、やはり『マトリックス』第一作で多くの観客が抱いた期待に応える類のものではない。過程まで含めて、基本的には深みに嵌っていくような見方をする人間でないと楽しめるものではなく、人によって大いに評価が分かれる作品であることは予め承知しておいた方がいい。そう納得した上であれば、結末をどう捉えるにせよ、先端技術を駆使した映像とエンタテインメントとしてきちんと組み上げられたディテールは堪能できるはず。
『マトリックス』で映像表現の先端を披露し、そこで得た財産を余すところなく注ぎ込んで、現在作りうる最高の娯楽作品を目指した、その結果が本編なのだろう。きっちりと枠に収まらず、万人にとって満足のいくものとは言い難いラストも含めて、映画史に残る作品であることは間違いない。以下突然伏せ字――でも、オチは『風の谷のナウシカ』みたいだったけどね――。
 しかし、何だかんだ言って、本編の最大の欠点はこれだと思う。――――モニカ・ベルッチの出番少なすぎんじゃあああああっ!!!

 公開直前に、輸入盤のサウンドトラックを目撃する機会があった。これまでハードロックにプログレ、そしてハウス・テクノまで様々な現代音楽をBGMに起用し、その独特の選曲でも話題を呼んだ『マトリックス』シリーズのサントラ――と思って手に取ると、意外という印象を受ける。というのも、今回はオリジナル・スコア担当のドン・デイヴィスはじめ、『~リローデッド』で二枚目に収録されていたインストゥルメンタルを手がけていた人々の名前ばかりが並んでいる。さてはあとから歌もののみのサントラが出るのか? と思っていたが、肝心の作品を鑑賞して納得がいった。
 ――三作目にして、ほぼ全編インストのみで飾っている。
『~リローデッド』の“Burly Brawl”同様のジュノ・リアクターとドン・デイヴィスのコラボレーションを中心としたテンションの上がる楽曲が多く、聴き応えは充分ですが、そんなわけでマリリン・マンソンやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの参加は本編・サントラともにありませんので、そっちに期待されていた方は要注意。

 ――以上が2003年11月6日、鑑賞した当日に書き上げアップした感想である。約19年振りに映画館にて鑑賞したのを機に、少しだけ付け加えたい。
 こんがらがっている、と記したが、いくぶん眼が肥えてきたと思われる現時点の感覚で冷静に整理すると、実はプロットとしての骨格はとてもシンプルなのだ。何なら、小説であれば中篇程度で片がつく可能性がある。
 そこに複雑性を添えているのは、映像的な見せ場へと繋げるプロセスや、言語化しにくい主題だろう。既に常軌を逸したレベルにあるネオでは表現出来なくなった、第1作に通じるシークエンスを盛り込むためにモーフィアスとトリニティにセラフを加えたドラマが組み込まれたと思われるが、そのために全体の構成からすると不自然な印象を生んでいる。ここには並行して、クライマックスにおけるネオの判断、行動を示唆する描写も織り込まれているが、その趣向ゆえに晦渋さを増したきらいも否めない。またそこに、エンディングを理解できるか否か、の境目となる重要な描写を押し込んであるので、なおさら複雑と思われてしまうのかも知れない。
 しかしやはり、『~リローデッド』と同様に、許された権限を最大限に活かして、新世代の技術を多用し、それが充分、映画を支えうる水準に達していることを証明しているのは確実だ。
 何せ、世界観やモチーフ自体、そして終盤のアクション表現にしても、原型は実写以外のフィクションでこの頃、もう既に目にしていたものが多い。ウォシャウスキー兄弟(当時)は日本のアニメ作品からの影響が大きいことを赤裸々に語っていたが、経験値を増したあとで鑑賞すると確かに、『攻殻機動隊』や『AKIRA』、更に『ドラゴンボール』の影響らしきものまで垣間見える。だが本篇はそれを実写に落とし込んだ、という点で充分に画期的なのだ。
 やはりCGをふんだんに用いて超人的なアクションをスクリーンに再現した『スパイダーマン』が2002年、ファンタジー世界をリアルに再現した《ハリー・ポッター》や《ロード・オブ・ザ・リング》が2001年に始まっているということを考えると、既に映画業界は新しい領域に踏み込みつつある時期だったのも確かだ。しかしそれを、マニア的な発想をかたちにする手段として活かしたことは、なかなかに侮りがたい功績ではなかったか。
 リアルタイムで鑑賞した観客を誰しも満足させるところまでは至らなかったかも知れない。しかし、先行する『~リローデッド』とともに、示した可能性の広がりは無視できない、と思う。


関連作品:
マトリックス』/『マトリックス リローデッド』/『マトリックス レザレクションズ
バウンド』/『スピード・レーサー』/『クラウド アトラス』/『Vフォー・ヴェンデッタ』/『ニンジャ・アサシン
コンスタンティン』/『ミスティック・リバー』/『ゾンビーノ』/『ウルフマン』/『コラテラル』/『シューテム・アップ』/『SPIRIT(2006)』/『クラッシュ』/『Ray/レイ』/『ロミオ+ジュリエット』/『華麗なるアリバイ』/『エージェント・マロリー』/『REC:レック/ザ・クアランティン』/『ステルス』/『オーストラリア』/『パーフェクト ワールド』/『30デイズ・ナイト
オズの魔法使』/『七人の侍』/『風の谷のナウシカ』/『エイリアン2 完全版』/『AKIRA アキラ(1988)』/『ゴースト/ニューヨークの幻』/『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊〈4Kリマスター版〉』/『千と千尋の神隠し

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