ようやく、松江怪喜宴が復活しました。都合4年振りです。
到着までのてんやわんやはこちらを参照していただくとして、肝心のイベントについてのみ絞って、こちらに記します。
興雲閣のホール入り口に掲示された『松江怪談談義8』ポスター。
これまでは松江城東側に位置する松江歴史館のイベントスペースで開催されていましたが、今回の会場は内堀のなかに位置する興雲閣という、由緒ある洋風建築を使用している。どうやらキャパの問題と、歴史館で別イベントが立て込んでいた、といった事情から変更になったらしい。夜に出入りするには色々と気遣う場所ですが、雰囲気は実にいい。なんとなく交霊会をしているような感覚に陥る。
今年のテーマは《妖怪と感染症》です――てっきり、コロナ禍を挟んでの開催だから採り上げたのかと思いきや、実はそれ以前から構想はあったらしい。そもそも妖怪は“見えないものに対する恐怖”と繋がり、それは感染症に対して抱く恐れに繋がっていく。コロナ禍でにわかに著名になったアマビエしかり、《山犬》にまつわる信仰の展開ぶりしかり、感染症に対する恐れが妖怪、化物を生み出し、対抗手段としての信仰、儀式を広めている。
そして、この松江怪談談義の主役のひとり、小泉凡氏の曾祖父にあたる小泉八雲にしてからが、感染症という題材を繰り返し採り上げ、自身も2度の感染を経験、しかも2度目は生死を彷徨っている。少し話は前後しますが、八雲がかつて感染に非常に気を遣い、外出時の手洗いうがいを励行していたことが、往時に交流のあった家の口述記録から判明したとのこと。しかも、そのときに用いていた水甕が小泉八雲記念館に保管されていたそうです。しかも、件の口述筆記が発見されたことで、初めてその意味合いが判明したのがコロナ禍以降、というのもなかなかに趣深いエピソード。
近年は日本国内よりも海外で日本の《怪談》というものを積極的に支持するひとびとがいて、このイベントのもうひとりのホスト、木原浩勝氏が近年頻繁に海外に招かれているのも、木原氏が初期のスタジオジブリで制作進行として携わっていたことばかりでなく、『新耳袋』の著者であることも理由らしい。フランスやイタリア、アイルランドで本邦の怪談を題材とした美術が生まれイベントが催され、その様子が写真とともに語られるのも興味深い。小泉八雲の怪談を題材としたプロジェクションマッピングの企画は、コロナ禍で利用者の激減した施設活用のために案出されたものだそうですが、日本でもやってくれないだろうか。
このイベント自体も4年振りなら、木原氏もコロナ禍に入って深夜の怪談トークライブを開催しておらず、自身のトークイベントは久々らしい(前述した海外の講演や、怪談以外のイベントの司会、映画の舞台挨拶などは登壇されてましたが)。これを機に、眠っていた企画がどんどん復活していくことを願いたい――いまも決して完全には治まっていない感染症に警戒しつつ。
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