『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション(吹替)』

TOHOシネマズ日本橋、。

原題:“Nicky Larson et le parfum de Cupidon” / 原作:北条司 / 監督:フィリップ・ラショー / 脚本:フィリップ・ラショー、ジュリアン・アルッティ、ピエール・デュダン、ピエール・ラショー / 製作:クリストフ・セルヴォーニ、マーク・フィスズマン / 撮影監督:ヴァンサン・リシャール / プロダクション・デザイナー:サミュエル・デセール / 編集:ナタン・ドラノワ、アントワーヌ・ヴァレイユ / 衣装:クレア・ラカズ / 音楽:マキシム・デプレ、ミカエル・トルディマン / 出演:フィリップ・ラショー、エロディ・フォンタン、タレク・ブダリ、ジュリアン・アルッティ、ディディエ・ブルドン、カメル・ゴンフー、ラファエル・ペルソナ、ソフィー・モーゼルパメラ・アンダーソン / 日本語吹替版声の出演:山寺宏一沢城みゆき玄田哲章田中秀幸一龍斎春水浪川大輔、多田野曜平、土師孝也恒松あゆみ三上哲伊倉一恵神谷明 / 配給:ALBATROS FILM

2019年フランス作品 / 上映時間:1時間33分

2019年11月29日日本公開

公式サイト : https://cityhunter-themovie.com/

TOHOシネマズ日本橋にて初見(2019/11/30)



[粗筋]

 街の便利屋にして凄腕のスイーパー、“シティーハンター”の通称を持つリョウ(フィリップ・ラショー/山寺宏一)にはかつてヒデユキ(ラファエル・ペルソナ/田中秀幸)という相棒がいた。しかし1年前に調査中だったユニオン・テオーペの刺客によって殺害されてしまい、それ以降はヒデユキの妹であるカオリ(エロディ・フォンタン/沢城みゆき)とともに仕事を続けている。

 天性のスケベであるリョウは美女の依頼しか受けようとせず、近ごろは困窮していた。そこでカオリは男性からの依頼を勝手に引き受けてしまう。

 その依頼とは、極秘に開発された、極めて強い催淫効果を発揮する幸水を保護すること。その香水を浴びた人間の香りを嗅いだ人間は魅惑され、虜になってしまう。48時間以内に、瓶にセットされた解毒剤を使えば催淫効果は解けるが、もし遅れれば定着し、もとには戻らない。

 この夢の秘薬が、あろうことかリョウに託されたその場で強奪されてしまう。相手はリョウにとって傭兵時代からの宿敵であり、便利屋としても商売敵である“海坊主”ことファルコン(カメル・ゴンフー/玄田哲章)。手こずりながらもどうにか瓶を詰めた鞄を取り返した――かに思われたが、いざ開けてみると、中身がまるで違う。強奪の際のどさくさに、別人の鞄と入れ替わってしまったらしい。

 リョウは旧知の刑事・サエコ(ソフィー・モーゼル一龍斎春水)の力を借りて、鞄の持ち主を探り出した。その人物、ジルベール・スキッピー(ジュリアン・アルッティ)はどうやら手に入れてしまった香水の効能を知ってしまったらしい。モナコで開催されるランジェリー・ショーに向かったスキッピーを追って、リョウとカオリも空港から発った。

 交渉時にうっかり依頼人の男のまとった香水を嗅いでしまったリョウは、48時間後には依頼人のことしか愛せない身体になってしまう。果たしてリョウは、香水と解毒剤とを取り戻し、女性にモッコリできる身体に戻れるのか――?

[感想]

 人気の漫画を実写化する、と聞いて、素直に喜べる漫画ファンはたぶんよほど寛大なかただ。多くは、その“事件”に非常に不愉快な思い出を抱えていて、不安に襲われたり、またあの“悲劇”を再現するのか、と顔を歪めるのではなかろうか。寛容な立場を取りたい私でも、そういう“悲劇”の具体例は挙げられるのだから、敏感なかたにとっては深刻だろう。

 だから、漫画原作の存在する映画をお薦めするのはなかなか神経を使うのだが、本篇に限ってはそんな気遣いはほとんど要らない。原作を愛するひとにもアニメに想い出のあるひとにも、むしろそれ故に積極的にお薦めしたい仕上がりだ。

 何せ、原作およびアニメ版に対するリスペクトの深さが並大抵ではない。冒頭、リョウそのものの衣裳に身を包んだフィリップ・ラショーと「こんなに理想通りの人間が実在したのか!?」と瞠目するほどに原作まんまの海坊主が格闘を繰り広げるくだりだけで感激してしまうレベルだが、そこからもあちこちに原作そのものの描写がちりばめられている。リョウが管理人として暮らすビルの外観、リョウの愛車、挙げ句の果てにはカオリのハンマーや、北条司作品お馴染みのカラスまで飛ばしてくれるのだから、嬉しくなってしまう。

 だが何よりも嬉しいのは、本篇がそうした見た目ばかりでなく、数多くの名場面や、そこに籠められた心の機微をもしっかりと盛り込んで組み立てられていることだろう。

 その意味で言えば、特に注目すべきはカオリを巡る描写だ。

 実のところ、他のキャスト、リョウにヒデユキ=槇村、そしてサエコは出て来た瞬間にしっくり来るレベルで似ているが、カオリについては、だいぶ努力して寄せているものの、やや違和感が残る印象だった。しかし、映画を観ているうちに、原作ファンでもアニメファンでも“香”そのものに見えてくるはずである。

 そうさせているのは、カオリというキャラクターの個性、魅力がどこから醸しだされるのかを充分に理解して、物語の中に盛り込んでいるからに他ならない。男勝りな性格で、裏社会を生き延びてきたリョウに臆することなく接し、難局にも果敢に立ち向かう。それでいて、美女を見ると途端に脂下がるリョウをハンマーでどつきながらも、ある時期からリョウに抱いている感情を自覚して、嫉妬めいた振る舞いも覗かせる。そうした態度の端々から滲む“乙女”の部分の愛らしさを見事に表現している。

 加えて、リョウとカオリの人物像、微妙な関係性を、アクションにまできっちりと盛り込んでいるのにも唸らされる。それが最もうまく現れているのがクライマックス、発電所での銃撃戦だ。出来る限りカオリを危険に晒したくないリョウは、他の場面では彼女に拳銃を扱わないよう忠告しているが、ここでだけはやむを得ずに戦闘に加わらせている。しかし、それでもリョウは最大限カオリを庇い、銃器の扱い一瞬の隙をついて弾薬を装填し直したり、構えを修正したり、とフォローまでしている。随所に原作から引用したシーンがあるばかりでなく、こうした映画独自のシーンにもキャラクターの関係性を反映させている。このあたりの描写に、原作ファンならグッと来ること請け合いだが、映画として初めて作品に触れるようなひとでも、その面白さが理解できるはずである。

 とはいえまるっきり原作通りではない。原作は日本、新宿を主な舞台としているが本篇はフランスで撮影されている。劇中でリョウたちの拠点がどこか、という話は明示されないが、さすがにこの映像で新宿を装おうとまではしていない。また、原作に登場するキャラクターたちのやり取りはオリジナルのテイストを丁寧に再現しようとしているが、オリジナルのキャラクターや映画独自の展開はだいぶ品のないほうのフランス人が考えたコメディそのものだ。ある意味絶妙なバランスで構築された“冴えない男”スキッピーと、香水を試したカオリの虜になってしまったパンチョ(タレク・ブダリ)が活躍するくだりは、日本のコメディとは異なるくどさやアクが濃厚で、いくぶん抵抗を覚える向きもあるのではなかろうか。

 ただ、映画全体を通して描かれるストーリーはオリジナルではあるが、原作のモチーフを適度に盛り込み、しかも決して作品の世界観を壊していない。コメディ部分に癖はあるものの、ストーリーの中では浮いておらず、映画全体の統一感を保っている。

 原作やアニメと切り離し、単独の映画として捉えた場合、あまりにも大仰で現実離れしたコメディ部分の作りが引っかかるし、見せ場を作るために盛り込まれたひねりやサプライズが全般に無理筋であることが気になる。クライマックスでちょっとしたサプライズが用意されているのだが、あれなど“映画として傍観している人がいること”が大前提となってしまっているため、どうしようもなく不自然な印象を残してしまっている。

 とはいえ、それもこれも、リョウやカオリというキャラクター、それらを擁する世界観を大事にしているが故、というのは理解できるはずだ。なんなら、前述した“無理筋”も、実のところ原作やアニメの段階で既に存在している欠点であり、そういう整合性よりも世界観や物語としての勢いを重視した方向性まできちんと踏まえているからこその弱点でもある。

 つまるところ、本当に土台から徹底して、雛型となる原作やアニメに対するリスペクトで築かれた作品なのである。たぶんその誠意や熱意は、もとを知らないひとが観ても、不思議な快さとなって伝わるはずだ。愛された原作の実写化として、なかなか届き得ない理想に達した、幸せな作品だと思う。

関連作品:

シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>

るろうに剣心 伝説の最期編』/『TAXi ダイヤモンド・ミッション

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