『ノッティングヒルの恋人』Blu-ray Disc(Amazon.co.jpの商品ページにリンク)。
原題:“Notting Hill” / 監督:ロジャー・ミッシェル / 脚本:リチャード・カーティス / 製作:ダンカン・ケンワーシー / 製作総指揮:リチャード・カーティス、ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー / 撮影監督:マイケル・コールター / プロダクション・デザイナー:スチュアート・クレイグ / 編集:ニック・ムーア / 衣装:シュナ・ハーウッド / キャスティング:メアリー・セルウェイ / 音楽:トレヴァー・ジョーンズ / 主題歌:エルヴィス・コステロ“She” / 出演:ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラント、ヒュー・ボネヴィル、エマ・チャンバース、ジェームズ・ドレイファス、リス・エヴァンス、ティム・マッキナリー、ジーナ・マッキー、ミーシャ・バートン、アレック・ボールドウィン / 配給:松竹×GAGA / 映像ソフト最新盤発売元:NBCUniversal Entertainment Japan
1999年アメリカ作品 / 上映時間:2時間3分 / 日本語字幕:松浦美奈
1999年9月4日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2018年3月27日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD Video|Blu-ray Disc]
NETFLIX作品ページ : https://www.netflix.com/watch/21304015
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/6/5)
[粗筋]
ウィリアム・タッカー(ヒュー・グラント)はロンドンのノッティングヒルという小さな街で、旅行書専門店を営んでいる。売上は毎月赤字続きで、意気の上がらない日々が続いていた。
だがある日、ウィリアムの店に想像もしていなかった客が現れる。アメリカの人気女優アナ・スコット(ジュリア・ロバーツ)である。困惑しつつも、ウィリアムは努めてほかの客と同様に接した。
その直後、従業員のマーティン(リチャード・ドレイファス)のためにオレンジジュースを買いに出たウィリアムは、あろうことかアナとはち合わせ、服を汚してしまった。ウィリアムは咄嗟に、近くにある自宅へと招いた。何故かアナは承諾し、彼の部屋を借りて服を着替える。そして去り際に、ウィリアムにキスをしていった。
己の身に何が起こったのか理解できないまま数日が過ぎて、同居人のスパイク(リス・エヴァンス)から思いもかけないことを知らされる。ウィリアムの留守中に謎の女性から電話があり、連絡を欲しい、と言われたというのだ。慌てて電話をかけると、アナは「焦らされた」と不満を漏らしながらも、彼をホテルへと招待した。
夢見心地でホテルを訪ねると、折しもアナは新作映画のキャンペーンで、立て続けに取材を受けている真っ最中だった。関係者からは雑誌の記者と勘違いされ、ほかの俳優たちへのインタビューもする羽目になったが、貴重な経験をした、と辞去しようとしたとき、ウィリアムはアナに呼び戻される。今夜の予定をキャンセルし、ウィリアムのために時間を作った、というのだ。
この日の夜はウィリアムの妹ハニー(エマ・チャンバース)の誕生会を、親友のマックス(ティム・マッキナリー)とベラ(ジーナ・マッキー)夫婦の家で営む予定になっていたが、アナは自分もお邪魔したい、と言い出す。
友人や妹たちも驚き、感激しながら、しかしアナを決して特別扱いせず、友人として接した。くつろいだアナは、会の最後に何気なく始まった友人同士の不幸自慢で、人気女優であるが故の苦しみを吐露する。
しがない書店主と人気女優の不思議な交流は、ごく自然にロマンスへと発展しつつあった。本気になっていいのかも、とウィリアムが感じはじめた矢先、立場を実感させる事件が起きる……。
TOHOシネマズ日本橋、エレベーター正面の壁面に掲示された『ノッティングヒルの恋人』上映時の『午前十時の映画祭11』案内ポスター。
[感想]
平素、あまりラヴ・ストーリー、ラヴコメの類を積極的に観に行くことはしない。基本的にひとりで映画館に足を運ぶので、カップル中心の客層に混じりたくない――という心境もあるにはあるが、そもそもあまり興味がない、というのも確かだ。
私がそういう映画を観るのは、よほどお気に入りの俳優が出演しているか、注目している監督、スタッフが手懸けている場合か、さもなくば午前十時の映画祭で採り上げられるときしかない。この映画祭に選ばれているだけで、一定の質は保証されているようなものだが、そのうえで私のツボに嵌まると、改めてこの映画祭を催してくれていることに感謝したくなる。
出だしこそいささか空想的だ。風采の上がらない男がの営む店に人気女優が現れて交流し、その直後に道でぶつかる、というだけでもだいぶ奇跡だが、なおかつ女優が男に惹かれて、自分からキスをする、なんて、さすがに非現実的だろ、とツッコみたくなる。
しかし、この一連のプロセスは空想的でも、その状況に置かれた主人公の立場、心情などは極めてリアルに抽出している。同じ人間とはいえ相手は人気女優、ろくに儲けも出せない書店主のウィリアムでは釣り合わない。それでもどこか心惹かれてしまう気持ちと、大人らしい節度でそれを抑える様子が生々しく、また微笑ましくもある。
他方、ウィリアムの家族や友人たちも、妙に個性が立ちながら、きちんと地に足の着いた造形となっている点もいい。ちょっと遠慮しつつもけっこうズカズカとアナに接触する妹のハニー、アナと初めて出逢ったときの友人たちの反応も、思わぬところで有名人に遭遇した者のテンプレートを丁寧に踏まえていて、コメディとしても成立していて、そのうえでリアリティが備わっている。
唯一、飛び抜けて突飛なのがウィリアムの同居人スパイクだが、彼も奇矯なようでいて、芯は通っている。奇妙なファッションセンスを持ち、ある場面で遭遇したアナをもういっかい確かめに行くくだりはお茶目、その言動はほぼほぼ中二男子のそれだ。しかし、ある意味で世間体とは無縁のこの男の存在が、最終的にウィリアムを本心と向き合わせる。個性と、親身に思っているからこその優しさの匙加減が絶妙で、本篇のやり取りはほぼどこを切っても快い。
本篇は平凡な男と人気女優の恋、というシチュエーションを巧妙に活かしたコメディ描写がふんだんにあるが、いずれも観る者を不快にしない匙加減を保っている。途中でアナと噂になっている俳優(ノンクレジットだがアレック・ボールドウィンが演じてたりする)が登場するが、そんな立ち位置のキャラクターでさえも悪人には描かない――あとあと、無遠慮に現れたことでアナが不平を漏らすくだりはあるが、決して悪し様には語らない。キャラクターはすべて自分の立場を理解し、適切に振る舞っている。スパイクのキャラクターが災いしていささか下品な笑いも随所に鏤められているが、これほど人を傷つけない作品もちょっと珍しい。
そして圧巻は、クライマックスだ。このくだりを観たとき、私の脳裏をよぎったのは、「これは新釈『ローマの休日』なのでは?」という捉え方だった。王女を人気女優に差し換え、現代に当て嵌めて語り直そうとした、という風に映る。むろん、王女と女優でもだいぶ立場は異なるので、過程はだいぶ異なるが、恐らくこのクライマックスを観れば私の解釈も納得していただけるのではなかろうか。『ローマの休日』でも顕著だった節度はそのままに、この設定らしく、更に快い結末へと導いていく。あれほど観ていて爽快なラストシーンもちょっと珍しい。
オープニングのエルヴィス・コステロ“She”を筆頭に、往年のポップ・ミュージックを多く引用するのもラヴコメの常套手段だが、本篇はその効果も高い。ウィリアムの部屋を基本同じ構図で捉えたり、時間経過をワンショットで描いたり、と表現も洒落ていながらそつがない。
ロマンティック・コメディとして必要なものを満たしながら、映画としての質も優れている。ジャンル映画だろうといいものはいい、と納得の出来る傑作である。
関連作品:
『チェンジング・レーン』/『戦火の馬』/『イエスタデイ』
『プリティ・ウーマン』/『ワンダー 君は太陽』/『日の名残り』/『クラウド アトラス』/『London Dogs』/『アイリス』/『カサノバ』/『つぐない』/『処刑教室』/『摩天楼を夢みて』
『ローマの休日』/『2001年宇宙の旅』/『未知との遭遇 ファイナル・カット版』/『エイリアン』/『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』/『プリティ・ウーマン』/『ゴースト/ニューヨークの幻』/『サンキュー・スモーキング』/『僕らのミライへ逆回転』/『イエスマン “YES”は人生のパスワード』/『デッドプール』
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