TOHOシネマズ上野、スクリーン5入口脇に掲示……されてたのはスクリーンナンバーだけだったので、『るろうに剣心 最終章 The Final』パンフレットを添えて撮ってみた。
原作:和月伸宏 / 監督&脚本:大友啓史 / プロデューサー:福島聡司 / エグゼクティヴプロデューサー:小岩井宏悦 / アクション監督:谷垣健治 / 撮影監督:石坂拓郎 / 照明:平野勝利 / 美術:橋本創 / 装飾:渡辺大智 / 編集:今井剛 / キャラクターデザイン&衣装デザイン:澤田石和寛 / VFXスパーヴァイザー:小坂一順 / 録音:湯脇房雄 / 音楽:佐藤直紀 / 主題歌:ONE OK ROCK / 出演:佐藤健、新田真剣佑、江口洋介、青木崇高、蒼井優、伊勢谷友介、土屋太鳳、三浦涼介、音尾琢真、鶴見辰吾、中原丈雄、大西利空、阿部進之介、柳俊太郎、丞威、成田瑛基、有村架純 / 配給:Warner Bros.
2020年日本作品 / 上映時間:2時間18分
2021年4月23日日本公開
公式サイト : http://www.rurouni-kenshin.jp/
TOHOシネマズ上野にて初見(2021/6/8)
[粗筋]
時に、明治12年。
かつて《人斬り抜刀斎》と呼ばれ、怖れられた男・緋村剣心(佐藤健)も、いまは神谷薫(武井咲)が師範代として切り盛りする神谷道場に身を寄せ、戦いを通して巡り逢った仲間たちと穏やかに暮らしている。
平穏が破られるきっかけは、横浜駅での捕者だった。かつては新選組三番隊隊長として剣を振るい、いまは藤田五郎と名乗り警視庁の警官となった斎藤一(江口洋介)は、昨年に各地で騒動を起こした志々雄真実に甲鉄艦を売った上海マフィア来日の報を得て、現地へと赴いた。マフィアの頭領である雪代縁(新田真剣佑)は最初こそ激しく争ったが、何故か突如として降伏し捕縛された。捕らえられるとき、縁は齋藤にこう訊ねた――「抜刀斎の頬に、まだ十字傷はあるか?」
更に裏があると思しい縁を齋藤は捕らえておきたかったが、領事裁判権によって領事館に身柄を引き渡さねばならなくなった。かくして東京の地に足を踏み入れた縁は、かねてからの計画を実行に移した。
相楽左之助(青木崇高)、明神弥彦(大西利空)たちとともに夕餉を楽しんだ剣心たちを、突如として砲撃が襲った。上野の山中から撃たれた、という話に駆けつけてみると、そこには“人誅”と記した紙が残されていた。それは幕末、志士の中の人斬りたちが好んで用いた言葉だった。天が誅せぬなら、人が誅する。
後日、剣心は目の前に現れた雪代縁の姿に驚愕する。それは、かつて剣心の妻となり、最期に自らの手で斬った雪代巴(有村架純)の弟だった。縁は剣心に、かつて自分が味わったのと同様の苦しみを味わわせる、と宣言する。
そして剣心は、恐らく最後となるであろう、壮絶な戦いに臨む――
[感想]
先に言い切ってしまいたい。『るろうに剣心』シリーズは、今後の日本映画を語る上で、重要に位置を占める存在になるはずだ。
まず本篇は、どちらかといえば軽んじられていた“マンガの実写化”という手法の可能性を一気に押し広げた。決してマンガの表現通りではないが、その世界観やデザインに可能な限りリスペクトを捧げ、それを実写の世界に自然に持ち込むためにはどうするべきか? という試行錯誤が丁寧に施され、原作ファンも映画ファンも納得する水準に引き上げた。本篇なくて、その後の『翔んで埼玉』や『銀魂』のように理想的な実写化は、成し遂げられなかったかも知れない。
もうひとつの大きな進化は、刀を用いたアクションのスピードを著しく上げた点だ。昔ながらの時代劇で用いられていた型や、間をたっぷりと挟んだ表現も、それはそれで味わいがある。しかし、それでは近年のエンタテインメント作品に求められるスピード感、力強さには対応が難しかった。そこで本篇は、日本刀という日本独自のモチーフを活かしながら、アクション・シーンのスピード、躍動感を格段に向上させた。
このアクション描写における貢献者は間違いなく。シリーズ1作目からアクション監督として名を連ねる谷垣健治だ。香港に渡ってスタント俳優として活躍、ジャッキー・チェンとも仕事をともにし、現代最も活躍する香港アクション俳優ドニー・イェンからは全幅の信頼を得て、近作『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』では監督として現場を仕切った、香港流アクションの申し子のような人物である。彼はその香港流の、ワイヤーも徹底して用いたスピード感と振り幅の大きな動きを日本刀を主軸としたアクションに採り入れ、その可能性を増大させた。撮影にあたっては、避けていられないので当たってもダメージのない小道具を製作する、などの工夫もあったようだが、可能性を膨らませた谷垣の功績は間違いなく大きい。
そうして、ファンの期待を大きく上回って完成された1作目のヒットにより、対となる第2作・第3作が製作され、更にパワーアップした内容によってこちらも好評を以て迎えられた。
それから5年を経て本篇が製作されたのは、誰もが気にかけながら、ある意味背景として受け流していた感のある、剣心の十次傷、そして彼の“不殺の誓い”に至る過程と、原作では描かれたその始末に挑み、正しく物語を完結させよう、という意向を、スタッフと主演の佐藤健が共有していたことによるようだ。
その“最終章”をかたちにする上で、十次傷が刻まれ、“不殺”を誓うまでの経緯はドラマが主体になる。そこで本篇ははじめから、時間軸的には最後となる本篇と、時間軸の最初にあたり、すべての原点となる『The Beginning』の2篇に分けられた。
この判断は賢明だった、と思う。映画の一般的な尺は2時間程度、本篇の2時間18分という尺でさえ、不慣れな人には長く感じられてしまう。そのうえで、剣心の過去までも一緒に織り込もうとすれば、いたずらに長くなるか、駆け足になって情感を損なってしまう。同時に撮影を進めながら別の作品としてまとめ、相次いで公開する、というのは、内容的にも営業的にも正しい選択だった。
これを書いている時点で私は『The Beginning』は未見だが、経緯からしても――そして、剣心がその圧倒的な技倆で確実にトドメを刺す、ということから考えても――『The Beginning』のアクション描写の尺はいくぶん抑えめになり、ドラマ部分の比重が高くなることは想像がつく。だからこそそのぶん、本篇は「冒頭からクライマックス」と言い切りたくなるほど、みっちりとアクションが盛り込まれたのだろう。
作り手も、多彩な武器や戦い方を思う存分描けるのは本篇のほうだ、と解っているから、まったく出し惜しみがない。腕に大砲やガトリング砲を装着して打ちまくる刺客に、全身に装甲をまとった刺客など、いかにも漫画的な、過剰なガジェットで彩った敵たちと、剣心やこれまでの物語を通して絆を結んだ仲間たちとの戦いは、それぞれの個性が活きて非常に見応えがある。
本篇は、単独で観てもアクションのクオリティの高さで楽しめるが、やはりシリーズ旧作3作を観てからのほうが堪能出来る。それこそ、アクション主体の展開のなかで仲間たちが登場するタイミング、そこで放つ台詞や行動がより強く印象に残る。とりわけ、襲撃された街で、市井の人々を庇って重傷を負う四乃森蒼紫(伊勢谷友介)と、クライマックスに原作にはないかたちで再登場を果たすある人物の行動は胸が熱くなる。後者の台詞が明確に示しているとおり、それらはすべて、罪を悔いて人のために生きることを選択した剣心がもたらしたものなのだ。
そして、最後の対決においても、アクションを通して行われる人間描写が深い。本篇では珍しい一騎打ちだが、その激しさがそのまま、向かい合う者たちが辿ってきた時間を象徴し、ドラマを構成する。このクライマックス、一部を除いてほぼBGMを省いた状態で展開しているのだが、丁寧な音響効果がもたらす臨場感が、一打一打の強さとともに、そこに籠められた想いの丈をも如実に伝えてくる。
『The Beginning』が過去に遡り、アクション以外の部分でドラマを深めねばならなかったからこそ、本篇はアクションをメインに構成された。しかしそのお陰で、近年の日本映画では類を観ないほどに見せ場に富み、そして奥行きのあるアクション映画となった。日本映画におけるアクションの質を押しあげたシリーズの到達点を示した、傑作である。
――ただし、繰り返し記したとおり、本篇が最後ではない。
本篇の劇中では一部を引用するのみに留められ、エピローグにおいてひとりの人物を涙させた、その背景が真の完結篇『るろうに剣心 最終章 The Beginning』で描かれているはずである。
まだ人斬りだったころの剣心による血みどろの戦いと、壮絶な決意に至ったドラマに期待したい。
……上でも記したとおり、もう公開されているので、いつ観るかはこっちの都合なんですけどね。
関連作品:
『るろうに剣心』/『るろうに剣心 京都大火編』/『るろうに剣心 伝説の最期編』
『ひとよ』/『カイジ ファイナルゲーム』/『コンフィデンスマンJP プリンセス編』/『来る』/『スパイの妻〈劇場版〉』/『いぬやしき』/『七つの会議』/『惡の華』/『ナイト・トーキョー・デイ』/『新解釈・三國志』/『雨女』/『樹海村』/『思い出のマーニー』
『翔んで埼玉』/『銀魂』/『燃えよデブゴン/TOKYO MISSION』/『超高速!参勤交代』/『引っ越し大名!』
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