『天使にラブ・ソングを…』

TOHOシネマズ日本橋、スクリーン9入口脇に掲示された『天使にラブ・ソングを…』の『午前十時の映画祭11』による紹介記事。
TOHOシネマズ日本橋、スクリーン9入口脇に掲示された『天使にラブ・ソングを…』の『午前十時の映画祭11』による紹介記事。

原題:“Sister Act” / 監督:エミール・アルドリーノ / 脚本:ジョセフ・ハワード / 製作:テリー・シュワルツ / 製作総指揮:スコット・ルーディン / 撮影監督:アダム・グリーンベルグ / プロダクション・デザイナー:ジャクソン・デ・ゴヴィア / 編集:コリーン・ハルシー、リチャード・ハルシー / 衣装:モーリー・マジニス / キャスティング:リンダ・ゴードン、ジュディ・テイラー / 音楽:マーク・シャイマン / 出演:ウーピー・ゴールドバーグ、マギー・スミス、ハーヴェイ・カイテル、キャシー・ナミジー、ウェンディ・マッケナ、メアリー・ウィックス、ローズ・パーレンティ、ビル・ナン、ジョセフ・メイハー、ロバート・ミランダ、リチャード・ポートナウ、ユージーン・グレイタック / 初公開時配給:BUENA VISTA INTERNATIONAL / 映像ソフト最新盤発売元:Walt Disney Japan
1992年アメリカ作品 / 上映時間:1時間40分 / 日本語字幕:太田直子
1993年4月17日日本公開
午前十時の映画祭11(2021/04/02~2022/03/31開催)上映作品
2020年12月2日映像ソフト日本最新盤発売 [DVD VideoBlu-ray Disc]
TOHOシネマズ日本橋にて初見(2021/1/25)


[粗筋]
 デロリス・ヴァン・カルティエ(ウーピー・ゴールドバーグ)はネヴァダ州リノのナイトクラブ《ムーンライト》で花形のシンガーとして夜ごと舞台に上がっている。選曲や演出も担当して仕事に不満はないが、クラブの経営者であり恋人であるヴィンス・ラ・ロッカ(ハーヴェイ・カイテル)の言動には不満を抱いていた。かねがね、離婚してデロリスを妻にする、と口にしているのに一向に実現しようとしない。
 ある晩、楽屋に届けられたヴィンスからの贈り物に却って激昂したデロリスが支配人室を訪ねると、まさにその瞬間、ヴィンスが部下のジョーイ(ロバート・ミランダ)とウィリー(リチャード・ポートナウ)に命じて、運転手を殺害したところだった。デロリスは慌ててその場を誤魔化すが、ドア越しに聞こえてきた「始末しろ」というヴィンスの言葉に、クラブを飛び出す。その足でデロリスは、地元警察へと駆け込んだ。
 デロリスを保護したエディー・サウザー警部補(ビル・ナン)は、最近ヴィンスを追い続けているが、重要な目撃者、証言者が相次いで“始末”されている現状に苦しめられていた。決定的な目撃者であるデロリスに、法廷での証言を求める。敵の大きさに尻込みするデロリスだが、どのみち、ヴィンスの手が回っているアパートには帰れない。早急に公判を終え解放するよう努める、というサウザー警部補の言葉に縋り、警察の保護を受けることにした。
 サウザー警部補が用意した隠れ場所は、聖キャサリン修道院――幼少時の経験から信仰に苦手意識の強いデロリスには最悪の場所だった。しかもカトリック系で、厳格な規則に基づく生活に、メアリー・クラレンスという僧名を与えられたデロリスは不平を漏らす。
 不本意なのは、修道院長(マギー・スミス)も同様だった。自分たちの生活に、ナイトクラブの歌手が合わないことは誰よりも承知している。人道的観点と、警察から1万ドルの寄付を行う、というサウザー警部補の言葉から渋々受け入れるが、夜中に無断外出をしたり、決して治安のよくない地元のひとびとと安易に“交流”するデロリスにいたく手を焼いた。
 やがて堪忍袋の緒が切れた修道院長は、デロリスに聖歌隊の一員に加わるよう命じる。お世辞にも技術的に優れている、とは言い難い聖歌隊に、歌手であるデロリスを放り込んだのは、一種の罰にも等しかったが、事態は思わぬ方向へと向かう。聖歌隊の指揮者を務めていたメアリー・ラザラス(メアリー・ウィックス)は聖歌隊のレベルを向上できない自分に業を煮やした院長が《シスター・クラレンス》を送りこんだ、と思い込み、お手並み拝見、とばかりデロリスにタクトを渡す。しかしデロリスは、クラブでの生活により身につけた指導力と演出力で、あっという間に聖歌隊をまとめ上げてしまった。
 デロリスが指揮者となって初めてのミサで、聖歌隊はそれまでの伝統的な賛美歌から一転、ポップ・ミュージックを採り入れた活気のある演奏を披露した。院長は憤るが、生まれ変わった聖歌隊の歌声が、人気の少なかった聖堂に、通りすがりの地元民まで惹き込んでしまった実績を認めないわけにはいかなかった。
 こうして、地元からも孤立し寂れていた修道院はにわかに活気づくが、それが更に思わぬ事態を引き起こしてしまうのだった――


[感想]
 公開時は日本でも人気を博した作品である。当時、まだ映画にさほど関心のなかった私でさえ断片的に鑑賞、おおまかな全体像は把握していたほどだから、テレビ放送もパロディも頻繁に行われていたはずである。
 所詮コメディ、という侮りも正直あった。しかし、支持される映画は、よほどの例外を除いて、それだけのクオリティと力を備えている。本篇もまた、時代を超えて鑑賞される価値のある内容と仕上がりだった。
 感心するのは、製作時の背景は知るよしもないが、画面上に見える要素がすべてバランス感覚に富んでいることだ。ヒロインは黒人で、美人というより愛される才能でのし上がったような人物像。彼女が踏み込むのは、厳格すぎて時代から置き去りになったような修道院。しかし、規則に対して忠実すぎる人物がいる一方で、体面を取り繕いつつ巧妙に抜け道を見つけて娯楽を得ている者もいる。性別も人種も多彩で、信条も様々な人物が、混ざり合い折り合いをつけながら物語を紡いでいる。
 また、殺人者はいても、ある意味でまるっきりの悪人ではなく、それなりにルールがあるのが面白い。歓楽街で生きてきたヒロイン・デロリスと厳格に暮らしてきた修道院長は反りが合わず軋轢を繰り返すが、いずれにも悪意はない。だからその軋轢、食い違いっぷりがもどかしくも笑えてしまう。デロリスを狙うラ・ロッカやその仲間にしても、行動は犯罪そのものなのだが、やけに間が抜けていたり、変わった理由でデロリスを取り逃したり、と不思議な愛嬌がある。やっていることは肯定できないし、その言動がしっかりサスペンスも生んでいるのだが、それ以上にコメディとしての楽しさをより盛り上げる役割を担っている。
 しかしこの作品で何よりも爽快なのは、デロリスが修道院の聖歌隊を目覚ましいばかりに改革してしまうくだりだ。
 デロリスが初めて見たときは荘重で退屈、しかも全体のまとまりがなく、まさに聴けたものではない。当初、一時的に身を寄せているだけだったデロリスは関心も持たなかったが、成り行きで聖歌隊に加わると、ナイトクラブとはいえ、しっかりとショーをまとめ上げた才覚を示し、瞬く間にメンバーのレベルを上げてしまう――あまりにも飲み込みが早いことや、その評判が広まる早さはさすがに空想的にも思えるが、デロリスの改革法、その影響ともに明瞭なので、効果の早さも痛快に映る。それまでの修道院内での軋轢も一気に好転させてしまうこのくだりこそ、本篇の真価だろう。
 そういう捉え方をすると、デロリスが修道院に送りこまれるきっかけとなった事件の決着が、いささか蛇足めいて感じられる恐れもあったが、本篇はそれすらも、修道院で育まれたドラマを巧く連携して、ちょっとした感動と最高の爽快感を演出して着地させている。修道院という要素も、デロリスが歓楽街で生きてきた女性である、ということも仕掛けとして動作させたクライマックスは見事としか言うほかない。
 コメディ映画はヒットしても高い評価を受けても、その時々の流行や、モラルの水準に引っ張られて、後年に観ると不自然な印象を受けたり、不快感を催すことが起きがちだが、本篇はたぶん、またまだ多くの観客を素直に楽しませてくれるはずだ。どこまで狙ったものなのかは解らないが、その優れたバランス感覚はまだ当分のあいだ、本篇を愛されるコメディ映画の名作に位置づけるに違いない。


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