原題:“SPY” / 監督&脚本:ポール・フェイグ / 製作:ピーター・チャーニン、ポール・フェイグ、ジェシカ・ヘンダーソン、ジェノ・トッピング / 製作総指揮:ジョン・J・ケリー、マイク・ラロッカ / 撮影監督:ロバート・D・イェーマン / プロダクション・デザイナー:ジェファーソン・セイジ / 編集:メリッサ・ブレザートン、ブレント・ホワイト / 音楽:セオドア・シャピロ / 出演:メリッサ・マッカーシー、ジェイソン・ステイサム、ジュード・ロウ、ローズ・バーン、ミランダ・ハート、ラード・ラウィ、ボビー・カナヴェイル、アリソン・ジャネイ、ピーター・セラフィノウィッツ、モリーナ・バッカリン、リチャード・ブレイク、ナルヒス・ファクフリ、ジェシカ・チャフィン、50セント、ヴェールカ・セルヂューチュカ / 映像ソフト発売元:20世紀フォックス ホーム エンターテイメント ジャパン
2015年アメリカ作品 / 上映時間:1時間59分 / 日本語字幕:半田典子
日本劇場未公開
2016年8月3日映像ソフト日本盤発売
2017年2月22日映像ソフト日本最新盤発売 [ブルーレイ&DVD|DVD Video|Blu-ray Disc]
20世紀フォックス試写室にて初見(2016/8/23) ※TOWER RECORDS ONLINE 購入者限定特別上映会
[粗筋]
スパイ、と一口に言っても、外に出て鮮やかに活躍する者ばかりではない。本部に常駐し、必要な情報を集め、現場のエージェントをサポートする者も大勢いる。
CIAに勤務するスーザン・クーパー(メリッサ・マッカーシー)も、そんな現場をサポートする職員のひとりだ。小型核爆弾が開発され秘匿された、という情報をもとに、ティホミル・ボヤノフ(ラード・ラウィ)を負っていたブラッドリー・ファイン(ジュード・ロウ)を本部からフォローしていたが、ファインはうっかりティホミルを殺害してしまった。
ティホミルは爆弾の秘匿に関わった協力者だけでなく、手下までも殺害しており、その在処を知るのは娘のレイナ(ローズ・バーン)しかいない。彼女の手からテロ組織に売り渡される前に手を打つべく、ファインはレイナ邸に潜入する。
だが、ファインの目線カメラから、スーザンのシステムが受信したのは、レイナがカメラに銃口を突きつける姿だった。映像がノイズに乱れた直後、銃声が鳴り響き、通信は途絶えた。
CIAにとって悩ましいのは、通信が途絶える直前、レイナがファインの所属する部署のエージェント全員の名前を挙げ、全員のデータを持っている、と言い切ったことだ。
レイナを押さえなければテロ組織に大量殺戮兵器が亘ってしまう、彼女が武器商人のセルジオ・デ・ルーカ(ボビー・カナヴェイル)に接触して取引を行うことまでは予測出来たが、問題はどこで接触するか、だった。
ところが、エージェントは全員、レイナに把握されているため、彼らを派遣するわけには行かない。エージェントの中でも直情的なリック・フォード(ジェイソン・ステイサム)は自分が出向く、と言って聞かないが、上司のエレイン・クロッカー(アリソン・ジャネイ)は全員に危険がある、と却下する。会議の席で立候補したのは、スーザンだった。
長年、ファインのバックアップを務め、現場には出ていないが、それ故に顔は知られていない。最近は参加していないものの、戦闘訓練を受けたことがあり、ある意味ではインパクトを残していた。
任務はデ・ルーカの動きを探ることのみ、決して本人に接触はせず追跡のみ。エレインにそう厳命され、架空の身分を纏って、デ・ルーカのオフィスがあるフランス、パリへと赴く。
だが、任務はのっけから暗雲が立ちこめていた。組織が押さえた宿はまるで悪霊の館、しかも着任を禁じられたはずのフォードが現れてスーザンを威嚇する。更に翌朝、確認したデ・ルーカのオフィスは焼失していた。どうやらさっそく追跡に気づいたデ・ルーカが証拠を消したらしい。
果たしてスーザンは、テロ組織が大量殺戮兵器を入手するのを阻止することが出来るだろうか――?
[感想]
スパイとは何者か。少なくとも、ジェームズ・ボンドが典型でないのは確かだ。
実在する、しない、の話ではない。たとえ現実に、あんなド派手な活躍をするエージェントが存在したとしても、それこそ《007》シリーズを例に取れば上司のMや、開発担当のQのようなサポーターとしてのエージェントが存在する。トム・クルーズ製作&主演による《ミッション:インポッシブル》シリーズでベンジーもぼやいていたひと幕があったように、裏方と言える立場の人間もまたエージェントであり、最前線で活躍したい、という願望があっても、何も不思議はない。
本篇は、往年の典型的なスパイ映画であれば概ねサポートスタッフの役割を担わされるはずのキャラクターが、ひょんなことから現場に赴く羽目になる、というシチュエーションを軸とした、スパイ映画の世界観に基づくコメディである。
実際、冒頭から、パーティへの潜入と命からがらの脱出劇、というスパイ映画のお約束と言っていいシチュエーションながら、随所に笑いが挟まれている。スーザンとファインの、こんな感じの連携と駆け引きだけでも、充分にコメディ映画として成立しそうだ。
しかしその一方で、きちんと謀略があり、サスペンスも構築されている。エージェントを襲う窮地により、バックアップだったスーザンが現場に駆り出される。その先々で、予想外の出来事が陸続と展開し、危機と共に謎が増えていく。ここにはきちんとスパイ映画としての旨味が生み出されている。
そして、その中でのスーザンの“活躍”ぶりが、実に楽しい。当然、プロではないから、序盤はひたすら右往左往しているだけ、という風情で、そのドタバタぶりに笑いを誘われる。しかし、あまりに事態が紛糾し、開き直っていくと、相変わらず滑稽みはあるが、どんどん“スパイ”ぶりが板についてくる。追跡対象と直接向かい合っても堂々と嘘をつき、度胸と意外な身体能力で乗り切っていく。もともとバックアップとして、臨機応変のセンスは身につけているし、実はかつて講習も受けている、という描写もある。現場投入直前に織り込まれたその過程の映像には確かにポテンシャルを感じさせるので、急速な“覚醒”ぶりも不自然ではないよう仕掛けも怠りない。
しかし本篇の魅力は、ウイットに富んでいるがだいぶ品のない会話にもある。
とにかく本篇の登場人物は概ね口が悪い。淡々と相手を罵るし、汚い要素を会話の中にちりばめる。相手も大抵は言われっぱなしではないので、延々応酬が繰り返される。ときどき、一体何で言い争っているのか解らないくらいだが、そこが面白い。
この会話のユーモアで存在感を発揮しているのが、ジェイソン・ステイサムである。もともとキャリア初期に出演したガイ・リッチー監督作ではアクションなど披露せず、ロンドンの下町訛りで畳みかけるように悪口雑言を並べ立てるような役柄だったので、むしろこれも彼の備えていた持ち味を活かした作品と言える。アクション俳優としての彼しか知らない人にはやや意外だろうし、物足りなくも感じる可能性もあるが、個人的にはステイサムの使い方としても高く評価したい。
陰謀と頭脳戦、そして会話のウイットまで、極めて知的に構築されながらも、笑いのエッセンスはよくも悪くも品がない。スパイ映画のパロディとして極めて優秀であり、観ていて肩が凝らず、あとには教訓も残らないが爽快感は残してくれる、見事な娯楽映画である。
興収でも批評でも比較的高い評価を得た本篇は、私の記憶では、続篇の企画は噂に上がっていた。
だが、日本で最初の映像ソフトがリリースされて10年経つ今も続報はない。というか、一時期はIMDBに掲載されていたはずの『SPY2』という項目も、いつの間にやら無くなっている――厳密には、項目そのものはあるが、ポール・フェイグ監督の名前が“原案”としてクレジットされているだけで、スタッフもキャストも記載がなく、ステータスも“Development Unknown”=開発状況不明となっている。これは立ち消えになってしまうプロジェクトによくあるパターンだ。
そもそもただの噂に過ぎなかった、という可能性も高いが、それ以上に、監督も主要キャストも本篇製作時点で地位を確立している者が多く、スケジュールや意向の摺り合わせが巧く行かなかったのではなかろうか。
本篇以降でもスパイ映画ではまだレアな主人公像もさることながら、ジェイソン・ステイサムの個性を活かしつつも他の作品とは一線を画したキャラクターなど、これっきりになるのが惜しい要素もある。そうした魅力を留めた続篇が密かに計画されていることを、個人的には今でもちょっと、ちょっとだけ期待している。
関連作品:
『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』/『ゴーストバスターズ(2016)』
『ハングオーバー!!! 最後の反省会』/『ワイルドカード』/『ブラック・シー』/『インシディアス 第2章』/『くるみ割り人形と秘密の王国』/『キングダム―見えざる敵―』/『PARKER/パーカー』/『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』
『サウンド・オブ・ミュージック』/『シャイニング 北米公開版〈デジタル・リマスター版〉』/『アドレナリン』/『アドレナリン:ハイ・ボルテージ』
『007/ゴールドフィンガー』/『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』/『アクシデンタル・スパイ』/『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』/『キングスマン』/『劇場版 SPY×FAMILY CODE:White』/『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』



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