TOHOシネマズシャンテが入っているビル外壁にあしらわれた『スタントウーマン ハリウッドの知られざるヒーローたち』キーヴィジュアル。
原題:“Stuntwomen : The Untold Hollywood Story” / 原作:モーリー・グレゴリー / 監督:エイプリル・ライト / コメンタリー脚本:ネル・スコヴェル / 製作:ステファニー・オースティン、マイケル・グラスコフ、マリオン・ローゼンバーグ / 製作総指揮:ライアン・バリー、ジェームズ・アンドリュー・フェルツ、アレックス・ハミルトン、ラリー・ニーリィ、ミシェル・ロドリゲス、リンウッド・スピンクス、ジェイ・ストロメン / 撮影監督:スヴェティアナ・クヴェッコ / 編集:ジョナサン・P・ショウ / 音楽:ノーラ・クローム=ローゼンバウム / 出演:エイミー・ジョンソン、アリマ・ドーシー、シャーリーン・ロイヤー、ジーニー・エッパー、ジュール・アン・ジョンソン、ジェイディ・デイヴィッド、デヴン・マクネア、ハイディ・マニーメイカー、レネー・マニーメイカー、ドナ・キーガン、ミシェル・ジュビリー・ゴンザレス、シェリル・ルイス、ジェニファー・カプート、ケリー・ロイシーン、ハンナ・ベッツ、リー・ジン、タミー・ベアード、ケイトリン・ブルック、ジェシー・グラフ、メリッサ・スタッブス、デビー・エヴァンス、ドナ・エヴァンス、ラファイエ・ベイカー、アンジェラ・メリル、ケイシャ・タッカー、マリッサ・ラボッグ、ヴァイア・ザガナス、キリアナ・スタントン、ジェニファー・マイレーア、ゼンダラ・ケネディ、ポール・ヴァーホーヴェン、ポール・フェイグ、ミシェル・ロドリゲス / 配給:AEON ENTERTAINMENT
2020年アメリカ作品 / 上映時間:1時間24分 / 日本語字幕:岡田壯平
2021年1月8日日本公開
公式サイト : http://stuntwomen-movie.com/
TOHOシネマズシャンテにて初見(2021/1/9)
[粗筋]
黎明期の映画産業は、女性の貢献が大きかった。撮影所を営む女性もいれば、オートバイから電車に飛び移るような危険なスタントにも積極的に携わっていた。
だが、西海岸を中心に発展していった映画産業が金になることを知った資本家たちの参加により、業界は男社会へと変貌してしまう。いつしか、女性同士の乱闘も、カツラを被り女装した男性が演じるようになっていた。
しかし、そんな中でも果敢に危険な撮影に挑むスタントウーマンたちは存在した。彼女たちは、男社会と化した映画業界で自分たちの居場所、そして権利を得るための戦いを重ねながら、撮影現場で死の危険と紙一重の挑戦を続けている。
この作品は、テレビシリーズ『ワンダーウーマン』でスタントを務めたジーニー・エッパーやジュール・アン・ジョンソンといったレジェンドから、『ワイルド・スピード』でミシェル・ロドリゲスに代わりハンドルを握ったデビー・エヴァンスら現役まで、多くの知られざる“ヒーロー”たちへのインタビューで綴る、ドキュメンタリーである。
[感想]
本篇に登場するのは本当に“知られざるヒーロー”ばかりだ。近年はほぼすべてのスタッフがエンドロールに表記されるので、名前が出ていないわけではないけれど、意識してチェックしているのは奇特な人物くらいで、彼女たちの実名を本篇で初めて知った、という観客が大多数だろう。映画の中では、実際に演じる俳優の顔が合成されるわけではなく、そのまんま映っているものがほとんどなのに、意識されることはほとんどない。まさに“影の主役”というべき人々だ。
本篇は、彼女たちが映画業界において、制作のなかでも“影の主役”として女性達が活躍し、苦労を重ねてきたことを、ほぼインタビューのみで浮き彫りにしていく。題名が《スタントウーマン》で、彼女たちに光を当てているのだから、スタント撮影のくだりを、公開された作品と比較して見せるような趣向を期待してしまうが、作品からの引用は多いものの極めて断片的で、そういう意味では物足りない。
だが、彼女たちの言葉や、少しずつ挿入されるトレーニングの映像から、その弛まぬ努力と計り知れない苦労の一端は窺える。しかも彼女たちは、《女性》であるが故に長年――そして今に至ってもなお軽視されている事実がある。
この作品では彼女たちが、撮影の中だけでなく、スタジオやセットの外でも戦いを繰り広げてきたことにも言及している。黒人のスタントマンが自身の地位と権利を獲得するために戦っていたのと同じ時期、彼女たちも同様に戦い、現在の活躍を実現していたことは興味深い。
個人的な意見を言わせていただければ、男性スタントマンが女装をして女優のスタントを務めることを、強く否定する必要はないと思う。スタントはあくまで、俳優では出来ない動きや危険な撮影を、本人に成り代わって行うものだ。技術や人材不足が重なって困難な現場では、性別に拘わらずフォローできるほうが理想的のはずだ――技術が高いのなら、女性が男性俳優のスタントを務めるのもアリ、と捉えるほうが平等ではなかろうか。スタントそれ自体が撮影における表現手法のひとつであり、その気になれば性別や人種も無視できる利点を奪うのはあまり賢明とは思えない。
しかしこれはあくまで、本篇で登場するスタントウーマンのひとりが語っていることに対する、わたしの意見に過ぎない。かつて彼女たちが理不尽に迫害され、戦うことで現在の地位を獲得し、そして最前線で活躍するために努力を重ねてきたことには、心から敬意を表したい。
本篇はナレーションおよび製作総指揮、そして一部でインタビュアーの役割も果たすかたちで女優のミシェル・ロドリゲスが関わっている。彼女が自身のキャリアで初めて製作総指揮に名を連ねたのも、自身のスタントを担当したデビー・エヴァンスをはじめとする、彼女たちに成り代わって危険な撮影に挑む女性スタントたちへの敬意と憧れの表れなのだろう(特にミシェル・ロドリゲスは素の人柄もパワフルで、許されるなら自らスタントもこなしたいタイプのようなので、尚更だろう)。そうしたくなるのも、本篇の語りでよく解る。
本篇を観たあとだと、どれほど大雑把なアクション映画であっても、その影にある彼女たちの文字通り血の滲むような努力を思い浮かべて、愛おしくなってしまいそうだ――もちろん、それと作品そのものの評価は別として。
関連作品:
『ダーティハリー』/『トータル・リコール(1990・4Kデジタルリマスター)』/『マトリックス・リローデッド』/『キル・ビル Vol.1』/『キル・ビル Vol.2』/『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』/『ワンダーウーマン』/『ワイルド・スピード ICE BREAK』
『ダーティハリー4』/『スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい』/『アビエイター』/『天使と悪魔』/『特攻野郎Aチーム THE MOVIE』/『ラ・ワン』/『007/スカイフォール』/『インシディアス 第2章』/『猿の惑星:
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